劇団☆新感線公演『鋼鉄番長』、10/30に無事に再び幕を開けました。
 改めて、ご迷惑をおかけしたみなさんにお詫びするとともに、応援して下さった方々に感謝いたします。
 前回のコラムも何人もの方にリツイートしていただき、ありがとうございました。

 10/30の昼公演、矢も楯もたまらず、僕も劇場に行きました。
 新たに舞台に立つことになった三宅弘城、西川瑞、新しい役を演じる河野まさとの三人は言わずもがな。他のキャストもスタッフも、この舞台がうまくいくことを心から祈っています。
 ロビーでお客さんの入場を待つ制作陣の面々も、今までになく緊張していました。 幕が開く前、演出のいのうえひでのりがポツリとつぶやいた「初日が2回きたようだ」という言葉が印象的でした。

 幕が開き、最初に三宅君が登場した時、客席から湧いた拍手。
 お客さんの、彼がこの役を引き受けてくれたことへの感謝と、再び無事に舞台の幕が開いたことへの安堵、そんな思いがこもった拍手に聞こえました。
 遊園地でフライングカーペットに変装していたという設定なので、頭にフライングカーペットの模型を載せた形での登場です。馬鹿馬鹿しいこと極まりない姿なのですが、そんな姿だから余計に、その拍手が感動的でした。
 恐らく舞台の上の三宅君もホッとしたことでしょう。
 そこから一連のコントシーンがあり、主題歌に乗せてタイトルが出てオープニングのダンスが終わるところで、僕も目頭が熱くなりました。

 芝居が終わりカーテンコールを迎えた時の三宅君のどこか放心したような顔に、彼がここまで感じていたプレッシャーの大きさを感じました。
 わずか5日の稽古で、3時間越えの芝居の主役を務める。それがどれだけ大変だったことか。
 本当に、彼の集中力に頭が下がる思いです。
 もちろん彼だけじゃない。
 河野に西川君。
 衣装も三宅バージョンに直し、本番までに芝居の中で使う映像を今のキャストにすべて差し替え、パンフも新しく三宅・河野・西川バージョンのページを添付し、三宅主役で再起動というポスターまで作った、スタッフ一同の努力。
 それらすべてが、この日この時間に向けられていたのです。
 
 終演後、お客さんをお見送りするいのうえや制作陣の顔にも、ようやくホッとした表情が見えました。
 ヘタをしたら全公演中止になったかもしれないのですから、それを思えば、こうやってお客さんを劇場にお迎え出来るのは何よりの幸せです。
 舞台に関わる人間にとって、常に心にあるのは「The Show Must Go On」であり、でもどんなに厳しいことがあっても心のどこかで「There's No Business Like Show Business」だと思っているから続けられる。
 それもすべて、目の前に自分達の作品を観に来てくれるお客さんがいるからだ。
 昼公演が終わり、劇場をあとにするお客さんの姿を眺めながら、改めてそんなことを感じていました。
 
 夜の公演には、天海祐希さんも駆けつけてくれました。
 春の公演『薔薇とサムライ』でご一緒した彼女も、今回の公演中止について随分と心配してくれたようです。
 お互い、心配だけど、見守っているしかないのもなかなか辛いものだと話せるのも、公演再開がかなったから。
 でも、周りにこうやって応援してくれる方達がたくさんいてくれるのも、有難い話です。

 劇団30周年、ここでまさかこんなに大きなトラブルが待っているとは想像していませんでした。
 これも演劇の神様からの「あんまり調子にのるんじゃないぞ」という戒めかな。
 でも、三宅君のスケジュールが12月まで空いていたという奇跡的な出来事を考えると、まだ演劇の神様は新感線を見放してはいないと、思っています。
 橋本じゅんも池田成志も、これで安心して治療に専念できることでしょう。
 三宅君にも、いずれキチッと恩返ししなければなりません。

 心配していた台風もそれほどひどいことにはならないようですし、夜公演が始まったところで、僕は帰宅しました。
 出る時に、制作のメンバーが口々に「『ジャンヌ・ダルク』がんばって」「観に行きますよ」と声をかけてくれたのは、やっと余裕が出た証拠なんだろうなと思います。 そう。僕には僕の現場がある。
 それぞれが、それぞれの現場で頑張っていける。
 それって、やっぱり幸せなことだな。そんなことを思いながら劇場をあとにしました。