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「衣服生命体」へのささやかな抵抗

文・中島かずき

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 先日、霞ヶ関界隈で昼飯を食べようとしたのですが、土地勘もなく時間がないので吉野家に飛び込みました。

 官公庁の町です。カウンターもビジネススーツの男達でぎっしり。でも、ふと気づくとその大半がネクタイをしていなかったのです。
 ワイシャツの一番上のボタンをはずしているちょっとラフな恰好の男達ばかり。これがクールビズというやつなのですかね。

 そう思って街を歩くスーツ姿の男達を見てみると、意外とノーネクタイが多いなと思います。
 高温多湿の日本の夏なので、ビジネスマン達もそんなにしゃちほこばってネクタイしなくてもいいよというご時世になったのでしょうか。
 会社勤めを始めてもう25年以上たっていますが、スーツを着たことがほとんどないのでその辺のニュアンスはよくわからないのです。まあ、就職する時に「できればずっとスーツは着たくない」という気持ちが、マスコミ志望の動機の一つでもあったのですけどね。あまりにも低すぎる動機ですが。
 
 それはさておき、かねがね「なぜ普通の会社員はスーツが仕事着なのか」が、不思議でした。
 ビジネスマンはスーツにネクタイというのは、今や世界基準でしょう。 最初はレジャー着として着られていたスーツが仕事着になったのは、19世紀末から20世紀初めにかけてアメリカのビジネスマンが着だしたことからだとか。やっぱりアメリカなのですね。

 しかし、あんな窮屈なもの、よく着るなあと思います。
 僕は体格の割に首が太いので、ネクタイをすると特に苦しい。首を締め付けられるのは苦手なのです。 

 でもまあ、もうすぐ50です。スーツ以外の服を選ぶのも難しい。
 ずっとジーパンをはいているのですが、最近は、それもちょっとどうだろうと迷う時もあります。
 同年齢の友人が「スーツにすると服を選ぶのが楽だ」と言っていて、確かにそれもそうかもなと思う時もあります。
 たまーに礼服などを着た時は、それはそれで気持ちが引き締まる気がしますし。

 バリントン・J・ベイリーというSF作家の小説に『カエアンの聖衣』という作品があります。
 そこでは、服飾こそが文化の中心の惑星があり、そこで作られた究極のスーツを着ると、そのスーツに意識を乗っ取られてしまう。
 衣服生命体が宇宙を支配しようとするという、とんでもない話です。

 アイデアの暴走が楽しくて僕は大好きな作品なのですが、残念ながら今は絶版のようです。
 確かにたわいもない話に思えるかもしれませんが、"服が意識を支配する時"ってあながちないわけじゃないと思います。
 流されることなく、自分のスタイルを通せたらそれが一番恰好いいんだろうなとは思うのですが、これがなかなか難しいですね。

 でもまあ、衣服生命体の宇宙支配に抵抗するためにも、もう少しスーツにネクタイという姿には抵抗したいなと思っています。おとなげないかもしれませんが。


(更新 2009/7/16 )


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プロフィール

中島 かずき(なかしま・かずき)

 劇作家、脚本家。福岡県出身。1985年より劇団☆新感線の座付き作家に。「阿修羅城の瞳」「髑髏城の七人」などの物語性を重視したエンターテイメント時代活劇"いのうえ歌舞伎"を多く生み出す。「アテルイ」で第47回岸田國士戯曲賞受賞。コミック原作や、アニメ「天元突破グレンラガン」(07、09)脚本・シリーズ構成、「仮面ライダーフォーゼ」(11)メイン脚本など幅広く活躍。脚本を手がけた「真田十勇士」(演出:宮田慶子、主演:上川隆也)が8月から上演される

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