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「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」、行き先のわからない快楽

文・中島かずき

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「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」を観てきました。
 圧巻でした。

 正直前作の『序』を観た時には、どうも乗り切れませんでした。
 過去のテレビシリーズを使った部分と、新しく描いた後半のヤシマ作戦部分の方向性に軋(きし)みが出ていて、ポジティブな世界観を描こうとしている意志を感じるのだが、作品全体の雰囲気はそうなっておらず、混乱しているように感じたのです。
 面白いのか面白くないのかもよくわからない状態でした。
「ああ、やっぱり俺には「ヱヴァ」は理解できないのかなあ」と思いながら映画館をあとにしました。

 だから 「破」が、かなりの部分新作になるという噂を聞いた時も、あまり大きな期待はしないでいました。
 しかしこれはもう完全新作です。
 部分部分同じようなパートもあるにはありますが、あまり熱心なファンではない僕には、どこがテレビシリーズのフィルムの流用なのか見当が付きません。まったく新しい作画としての『ヱヴァ』を観ている気になりました。

 竹熊健太郎(たけくまけんたろう)さんのブログによれば、監督の一人である鶴巻和哉(つるまきかずや)さんが、 「破」のコンセプトは、並行して走る二つの電車が途中で路線が変わり、行き先が変わる。最初は同じように見えていた景色が途中から全然違うものになるというようなことを言っていたらしいのですが、まさにその通りです。
 今回は、その途中分岐に気づいていく興奮、知っていたはずの物語がどんどん変容していく、その過程の面白さを堪能しました。
「おいおい、この汽車はなんだ。横浜に向かって走って行っていると思ったら、いつの間にか線路を離れてるじゃないか」と慌てているうちに、周りの風景の素晴らしさ、物珍しさ、面白さに圧倒されて「ああ、汽車が空飛んでもいいじゃないか。宇宙空間にまで来てもいいじゃないか。なんだ、この汽車、銀河鉄道だったのかよ」という気分になったのです。

 しかも相手は強者庵野秀明(あんのひであき)であり「ヱヴァンゲリヲン」です。どこに連れて行かれるかは油断できません。
 生命力に溢れたポジティブな展開になったとして、普通のドラマなら、この路線に乗っかってハッピィエンドに向かってレッツゴーと客として安心して身をゆだねていられるけど、「ヱヴァ」の場合、いつどこでひっくり返されるかわかりません。
 次の展開が予測できないまま、ラストまで心の底からハラハラしながら見続けているしかない。予告編まで含めて「うーむ、まいった」と言うのが率直な感想でした。
 そして何よりこの作品が素晴らしいのは、アニメならではの表現でエンタテインメントとしての快楽を、徹底的に与えようとしている事です。
 例えば使徒の生理的嫌悪感とアニメ的快楽の融合。気持ち悪いんだけど美しい。テレビ版の使徒とはまったく違う表現です。
 そしてクライマックス。作画と演出と音楽の絡み合い。一瞬も息が抜けない展開の上に、ああここでこの曲が来るのか。そう思ったとき、鳥肌が立っていました。
 
 うーむ、まいった。
 本音を言えば、 「天元突破グレンラガン」で、「次の」作品を作ったつもりだったのですね。
 でも、その横からフルスロットルで抜かれて行った気分です。
 
 ただ、スタッフロールにグレンラガンスタッフの面々の名前を見た時に誇らしい気分になりました。
 庵野さんがカラーという会社を立ち上げ、ガイナックスから独立したとはいえ、スタッフの多くは交流しています。
「天元突破グレンラガン 螺巖篇」と 「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」、二つの映画は、同じアニメスタジオのノウハウから生まれたと言ってもいいと思います。
 それは庵野さんが「グレンラガン」の監督の今石さんに伝えたという"一試合完全燃焼"の精神です。
 大いなるアマチュアリズムと言ってもいいこの心意気を持つスタッフ達が、唯一、ハリウッドのフルCGエンタテインメントを相手にしてひけをとらない一級の娯楽作品を作れるのではないか。そんな気がします。


(更新 2009/7/ 2 )


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プロフィール

中島 かずき(なかしま・かずき)

 劇作家、脚本家。福岡県出身。1985年より劇団☆新感線の座付き作家に。「阿修羅城の瞳」「髑髏城の七人」などの物語性を重視したエンターテイメント時代活劇"いのうえ歌舞伎"を多く生み出す。「アテルイ」で第47回岸田國士戯曲賞受賞。コミック原作や、アニメ「天元突破グレンラガン」(07、09)脚本・シリーズ構成、「仮面ライダーフォーゼ」(11)メイン脚本など幅広く活躍。脚本を手がけた「真田十勇士」(演出:宮田慶子、主演:上川隆也)が8月から上演される

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