ネーム作りは誰の仕事か『バクマン。』に関して、もう少し話を続けます。

週刊少年ジャンプの連載を目指す主人公のサイコーは作画担当、相棒のシュージンは原作者という設定です。

時代が変わったなあと思うのは、シュージンが描く原作が、ネームだということです。

ネームというのは、マンガの下書きのようなもので、コマ割りをして台詞と絵をおおまかに入れていくと言えばイメージがわくでしょうか。

これがマンガの設計図になります。

自分が週刊マンガ誌の編集者をやっていた80年代は、ネームを作る作業はマンガ家の仕事なのが普通でした。

原作者はシナリオ形式で原作を書き、それをもとにマンガ家がネームにする。文字だけで表現された物語を、絵と文字で構成するマンガに翻訳する作業をマンガ家が行うわけです。

原作付きでなくても、担当とマンガ家が打合せをしてストーリーを組み立てていくことはザラでした。

僕も編集者時代、マンガ家と打合せをして毎週毎週のストーリーを一緒に作っていった時期がありました。

20代後半から30代前半、毎週マンガのエピソードを作る作業をしたことは、自分にとっても随分物語作家としての足腰が鍛えられた経験だと思っています。

その場合も、打合せの段階ではマンガ家はエピソードをメモします。

そこに書かれたメモを改めて一人でネームにするわけです。

僕自身の実感ですが、絵はずっと描いていけばうまくなります。ですが、ネームのセンスというのはなかなか成長できない。

いくら一枚絵がうまくても、コマとコマを並べていく構成力がヘタだと、不思議に読みにくいマンガになるのですね。

そして結局長生きできるマンガ家は、ネームがうまい人だと思っています。

何年前か記憶は定かではないのですが、少年ジャンプが原作新人賞をネームでも受け付けるようになりました。

その時にも「時代は変わったな」と思ったものですが、『バクマン。』では、主人公が当然のように原作はネームで書くものだと決め込んでいる。その辺に年月の流れを感じます。

実際に『バクマン。』の原作はネームで書かれています。

原作者の大場つぐみ氏の原作ネームの一部がコミックスに掲載されているのです。その絵を見ると確かにガモウひろし氏の絵によく似ています。

こうなると、マンガ家は本当に絵を描くだけに特化してしまいますね。ただ、かつて、とても魅力的なキャラクターを描けるマンガ家が、構成力がないためにもう一つ活躍しないままで終わる事例を数多く見ていると、ネームのうまい人間を原作者としてつけることで、絵のうまいマンガ家がブレイクしたりマンガ家寿命が延びるのならばそれもいいかと思うのです。

『バクマン。』とマンガ原作をネームで描くということに関しては、竹熊健太郎(たけくまけんたろう)氏のブログ『たけくまメモ』で、興味深い議論がなされていました。興味のある方はそちらもお読み下さい。

ちなみに僕自身マンガ原作を何本もやっていますが、全てシナリオ形式です。

劇作家・脚本家というのは会話で物語を語る人間だと思っていますので。