面白いけど悔しくもある『K-20 怪人二十面相・伝』 |AERA dot. (アエラドット)

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面白いけど悔しくもある『K-20 怪人二十面相・伝』

文・中島かずき

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『K-20 怪人二十面相・伝』を観てきました。
いや、これがなかなかいい出来で、見終わった後に素直に「楽しかった、面白かった」と言える作品に仕上がってました。

先日、たまたま佐藤嗣麻子(さとうしまこ)監督と食事する機会があって、
「面白い映画に仕上がっているので是非観て欲しい」と言っていたので楽しみにしていたのですが、期待以上でしたね。
邦画の正月映画でこれだけ王道の冒険活劇が上映されるのも珍しいのではないでしょうか。

僕が観た祝日午後イチの回は満員でした。こういう作品がヒットしてくれるのは、活劇好きの自分としては嬉しいことです。
怪人二十面相と言えば江戸川乱歩(えどがわらんぽ)の『少年探偵団』シリーズに登場した怪盗ですが、この映画の原作は『怪人二十面相・伝』。劇作家北村想(きたむらそう)氏が、乱歩の原作をふまえて、乱歩のシリーズでは描かれなかった二十面相の裏面を描いた小説だそうです。
この作品は未読ですが、作家のタイプから考えて、ここまで冒険活劇色が強いのは映画版で随分アレンジを加えているのではないかと思います。

怪人二十面相の罠にはめられて、彼の身代わりに仕立て上げられてしまい自分の無実を証明しようと二十面相に立ち向かう主人公に金城武(かねしろたけし)。その相棒となるカラクリ師に國村隼(くにむらじゅん)、行動力のある深窓の令嬢に松たか子、そして令嬢の婚約者でもある名探偵明智小五郎(あけちこごろう)に仲村トオルと、定番と言えば定番な人物配置ですが、各キャラが役者によくあっていました。

こういう映画の場合、細かいつっこみどころがあっても「そんなこと気にしないで、映画の嘘を楽しもうよ」と思わせれば作り手の勝ちだと思うのですが、その辺もうまくいっていました。

主人公が二十面相に対抗するため特訓するシーン。「町の中をどこまでもまっすぐに走る」ことで逃走術を身につけるということなのですが、よく考えたら指名手配中の主人公が白昼堂々街中を走っていたら通報されるだろうと思いながらも、とにかく壁があろうがビルがあろうが自動車の走る大通りだろうが、道具を使わずに生身一つで障害を乗り越えていく「パルクール」いうスポーツの技術を使ったアクションシーンを観ていると、「ま、面白いからいいや」という気分になるのですね。

言ってみれば『ルパン三世 カリオストロの城』を代表とする宮崎駿(みやざきはやお)の冒険活劇アニメを実写化した感じですね。
泥棒と上流階級のお嬢様というシチュエーションですから、印象が似てしまうのは当然と言えば当然なのですが、監督はかなり自覚的にやってると思います。金城武と松たか子の主役二人も、そういうマンガチックな芝居を楽しんでやっているのがわかるので観ている方も安心して世界観に入っていける。
ラスト近くの二人の別れのシーンなんか特に顕著で、彼が去った後益岡徹(ますおかとおる)演じる浪越警部が駆け込んできたらどうしようかとドキドキしてましたよ。さすがにそんなことはなかったけど。

第二次世界大戦が起きなかった日本の《帝都》という設定もよかったですね。
軽快なテンポの活劇を楽しみながら、心の片隅で「なぜ『隠し砦(とりで)の三悪人(さんあくにん)』は、こんな風にならなかったんだろう」と自問していました。
本来こういう映画が作りたくて参加したはずなのに。
外的要因で思い通りにならなかった部分もあるし、こちらのスキルが足りなかった部分もあるのだろう。
観終わって「あー、面白かった。でも悔しい」というのが本音です。

でもだからこそ、たくさんの人に観てもらいたいですね。
ヒットすればこういう作品がまた作られる機会も増えるだろうから。
とにもかくにも、今の邦画状況の中で、こんな企画を大作として作り上げた佐藤監督と脚本協力の山崎貴氏に乾杯!という気分です。


(更新 2008/12/25 )


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プロフィール

中島 かずき(なかしま・かずき)

 劇作家、脚本家。福岡県出身。1985年より劇団☆新感線の座付き作家に。「阿修羅城の瞳」「髑髏城の七人」などの物語性を重視したエンターテイメント時代活劇"いのうえ歌舞伎"を多く生み出す。「アテルイ」で第47回岸田國士戯曲賞受賞。コミック原作や、アニメ「天元突破グレンラガン」(07、09)脚本・シリーズ構成、「仮面ライダーフォーゼ」(11)メイン脚本など幅広く活躍。脚本を手がけた「真田十勇士」(演出:宮田慶子、主演:上川隆也)が8月から上演される

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