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あのマンガのネタ本をめぐって

文・中島かずき

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先日、大月俊倫(おおつきとしみち)さんと食事する機会がありました。キングレコードの取締役で、『新世紀エヴァンゲリオン』などのプロデューサーでもあります。樋口真嗣(ひぐちしんじ)監督の『ローレライ』の企画時に知り合い、それからは時々お会いしています。

勿論仕事関係の話もあるのですが、飲んでいるときの雑談で興味深い話が聞ける時もあります。

その時もなぜかマンガ家の荒木飛呂彦(あらきひろひこ)さんの『バオー来訪者』の話になりました。

『バオー来訪者』は、荒木氏が『ジョジョの奇妙な冒険』を始める前に週刊少年ジャンプで連載していた作品で、主人公の少年がバオーという寄生虫に寄生されることで生物兵器と化し、それを開発した秘密組織と戦うというマンガです。

主人公の少年がバオーの力によって変身するのですが、その時、対象を「におい」で感知するのが印象的です。

大月さん曰く、このアイディアの元になった小説がある。荒木さんが子供の頃読んだジュブナイル(児童文学)で、主人公の男がある事情で別の男を殺すのだが、その時死んだ男の飼っていた犬が主人公を追ってくる。 

物語の中心は犬と男の追撃戦で、犬は男の匂いを追う。男は匂いを消そうとするがなぜか犬は男のあとを追ってくる。

この「匂い」という要素が『バオー来訪者』のアイディアの一つになっていると荒木さんから聞いた。大月さんはそう言いました。

この物語と似たような話を僕も聞いたことがありました。

但し、ジュブナイルではなく、翻訳物の冒険小説です。

男と犬の戦いというシンプルな構造なのに面白い。冒険小説ブームの80年頃に、書評家の北上次郎(きたがみじろう)氏が褒めていたのが記憶に残っています。

確か、映画になったかで、カバーは男と犬の写真でした。

多分ハヤカワNV文庫。

冒険小説界のメジャーな作家ではない。しかもアメリカやイギリスという英語圏の作家ではない。フランスとか、ちょっと本流からはずれた作家だったはず。

周辺情報の記憶は出て来るのですが、肝心の作者とタイトルをどうにも思い出せない。

英語圏ではなく、冒険小説を書いていて、映画にもなっているということで、ジョゼ・ジョバンニかとも思ったのですが、彼の作品を検索してもどうもピンとくるものがない。

周りの翻訳小説好きに聞いてみたのですが、「ああ、なんか、そんなのあったなあ」と言うだけでみんな明言できない。

「男、犬、追跡、冒険小説」など考えられるキーワードでグーグル検索しても、欲しい情報は見つかりません。 

こうなると意地です。

つてを頼って、北上次郎氏ご本人に尋ねてもらいました。

さすが北上さん、ちょっと呻吟(しんぎん)していたが、「わかった」とのこと。

アルベアト・バスケイス=フィゲロウアの『自由への逃亡』でした。スペインの作家です。もちろん絶版ですが、アマゾンのユーズドにありました。 

さっそく購入して、表紙をみると、記憶通り。

こうして、『バオー来訪者』のネタ本にたどりついたのです。----と、言えればカッコいいのですが、まだ肝心のことがクリアされてない。

この作品がジュブナイルとしてリライトされ出版されていたのかということです。

ざっと検索してみましたが、それらしきものは引っかかりません。児童書になるとタイトルが変わっている可能性もあります。

うーん、この問題の解決までには、まだまだ時間がかかりそうです。


(更新 2008/10/23 )


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プロフィール

中島 かずき(なかしま・かずき)

 劇作家、脚本家。福岡県出身。1985年より劇団☆新感線の座付き作家に。「阿修羅城の瞳」「髑髏城の七人」などの物語性を重視したエンターテイメント時代活劇"いのうえ歌舞伎"を多く生み出す。「アテルイ」で第47回岸田國士戯曲賞受賞。コミック原作や、アニメ「天元突破グレンラガン」(07、09)脚本・シリーズ構成、「仮面ライダーフォーゼ」(11)メイン脚本など幅広く活躍。脚本を手がけた「真田十勇士」(演出:宮田慶子、主演:上川隆也)が8月から上演される

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