出世するには花形部署への配属をめざし、ゴルフや飲み会で社内の人脈をつくる……というのは、古い考え方かもしれない。最近では、新たな方法で出生街道を行くサラリーマンが現れている。

 同期を見渡してみると、課長に昇進しているのは半数以下だ。ヒラにとどまっている同期の中には、新入社員の頃にはエースと言われた人もいる。大手メーカーで営業職の男性(39)はこの春、課長に昇進した。なぜエースに勝って、出世できたか。

 男性が入社以来担当するのは電機関係の精密製品の営業。不況の影響をもろに受けるうえ、理系の専門知識も必要なので、最初の配属を聞いたときは、正直貧乏くじを引いたと思った。文系出身の自分には重荷だから、何度も異動希望を出したほどだ。一方、エースが配属される花形部署は、強い販売網があり、シェアを獲得するにもそれほど苦労はない。この一見、天国と地獄の配属が、後に出世においては真逆の効果をもたらした。

 この男性は自分の知識が足りない分野では、社内の技術者との人脈を築いてカバーした。自分が助けてもらう一方、得た情報はほかのメンバーや他部署にも伝えてチーム力で勝負した。不況の中、どれだけ営業努力をしてもシェアを伸ばせないこともあった。上司からは、「お前がやってダメなんだから、誰がやってもダメだ」と言われるまでに信頼されるようになった。だが、ただ「ダメ」では終わらせず、営業先との関係を深め今後に生きるような情報をつかんだ。もし、花形部署だったら、ここまで工夫しなかったかもしれない。

 課長に昇進後は、他部門も含めた20~30人のプロジェクトの営業責任者。メンバーのやる気を上げて成果を出すのが仕事だ。

「花形部署だったら競争相手も多く、自分にはポストが回ってこなかったかもしれない。最初の配属を聞いた時は不遇だと思ったけれど、むしろラッキーだったのかもしれません」

 出世には社内政治力や社内人脈が必須、がこれまでの常識だった。そのためにも上司の飲みやゴルフの誘いは断らず、ひたすら付き合い、覚えめでたいことが出世の王道だった。

 だが、この男性はそんな“常識”も打ち破った。もともと酒が弱く、深夜まで上司との飲み会に付き合わない。入社早々から、そういうキャラだと表明していた。飲み会にだらだら付き合うくらいなら、家で理系大学院の専門書を読み、商品知識の勉強にあてたいと思った。出世には酒づきあいが大事だと思っていたが、実際は関係がなかった。

「上司に気に入られるかどうかより、どういうアウトプットができるか。会社にも余剰人員を抱える余裕がないので、従来より実力重視になっている」

AERA 2013年10月14日号