経済のあらゆる場面で影響をおよぼしているアベノミクス。しかし一方で、バブル後に社会に出た、不況しか経験していない「不況ネイティブ」といえる世代は、警戒心を抱いてもいる。

 著書『年収150万円で僕らは自由に生きていく』で「脱・お金」こそ幸せだと主張したプロブロガーのイケダハヤト(26)は、アベノミクスとともに、安倍政権が打ち出している生活保護引き下げの方向性が気になるという。

「いずれ魔女狩り社会が来るのではないでしょうか」

 低年収でも楽しく生きるために、いざというときに助け合えるコミュニティーを作る力を養う。コミュ力のない人や、コミュニティーではどうにもならない事態になった時は、公的扶助に頼ればいいと考えている。だが、日本では自助努力や自己責任が叫ばれ、生活保護費引き下げに賛同する声も高まっている。

「世の中はもっとみんなワガママに生きるべきだと思うし、それを許す国こそが豊かで強い国だと思うんですが…」

 不況ネイティブがアベノミクスを警戒するのは、2000年代前半の小泉政権の記憶があるからだろう。景気はそれなりに好調だったが、一方で格差は広がった。労働社会学者の阿部真大・甲南大学准教授(36)は自分たちの世代を、「小泉政権下で、同世代の中での格差を実感させられた最初の世代」だと言う。

「同窓会で地元の岐阜に帰ると、外資系などに勤めていてちょっと羽振りのいいやつが『キャバクラ行こうぜ、おごってやるから』とか言って、おお、すげえなって。一方で非正規雇用の同級生は会にも出てこなかった」

 リーマン・ショックは経済には深刻な影響を及ぼしたが、同世代にはホッとした人も多かったのでは、と振り返る。だが、民主党政権をへて小泉的新自由主義の精神を受け継ぐアベノミクスが生まれる中で、「社会起業をしたいといった、オルタナティブな生き方を目指す若者」は減ってきていると感じている。

「僕の今接している学生はだいたい、『とにかく大企業に勤めたい』って希望していますね」

(文中敬称略)

AERA 2013年5月6日・13日号