【Vol.01】筋力低下や低栄養がサイン。いまからフレイル予防を

身体的・心理的・社会的
三つの衰えから判断

 フレイルをひと言で表すと、「心身が老い衰えた状態」だ。英語の「Frailty(フレイルティ)」が語源となっており、日本語に訳すと「虚弱」「老衰」「脆弱」などを意味している。

 具体的には、加齢に伴い筋力が衰えて家にこもりがちになり、生活に必要な能力が衰えていくこと。多くの高齢者はフレイルの時期を経て、徐々に要介護状態になると考えられている。フレイルとはまさに、健康と要介護の中間に位置する状態なのだ。

 フレイルは、「身体的な衰え」「心理的な衰え」「社会的な衰え」の三つの観点から多角的に判断される。

・身体的な衰え──筋力低下(サルコペニア)、低栄養など
・心理的な衰え──認知機能の低下、抑うつなど
・社会的な衰え──人とのつながりの減少、孤食など

「三つの観点は、重なりやすいのが特徴です。身体的な衰えがあると外出が億劫になり、人と会う機会が減って社会的な衰えに。社会活動が減ると孤立し、抑うつなどを引き起こし心理的な衰えにつながるという負のスパイラルに陥り、状態が悪化するのです」と話すのは、多くのフレイル患者を診察する栗原毅先生だ。

「歩行中に後ろの人に抜かれる、1センチほどの段差でつまずく、階段の上り下りがつらい、ペットボトルのフタが開けにくい、太ももの筋肉が落ちて弾力がないといった自覚症状があったら、フレイルを疑ってください」

セルフメディケーションで
早めに予防対策を

  重要なのは、フレイルになる前に予防することだ。

「自分の健康は自分で守る"セルフメディケーション”が重要なアプローチになります。なぜならフレイルには、適切な介入および早期の発見により、以前のような健康状態を取り戻せる可逆性があるからです」と、栗原先生は指摘する。

 フレイル予防には、適度な運動と食生活の見直しが欠かせない。運動で重視するのは、下半身の筋肉を落とさないこと。1日7000~8000歩を目標に歩き、ときどき早歩きするのもおすすめだという。また、栗原先生は「すわるスクワット」も推奨している。

「太ももにある大腿四頭筋を鍛えて筋力アップに役立ち、歩行を助けます」

 食生活では、肉や魚、乳製品、大豆などの良質なたんぱく質を積極的に摂ることを心がけよう。一日の必要量は、体重と同じグラム数。体重50kgの人なら50gとなる。食品に含まれるたんぱく質の量は、おおよそ肉100gで20g、卵1個で10g、豆腐半丁で10gだ。たんぱく質補助食品などを上手に活用してもよい。

「食べ物をよくかまずにのみ込むと、オーラルフレイル(口腔機能の低下)に直結します。ゆっくり味わい、よくかんで食べることを意識しましょう。丁寧にかむことで口周辺の筋肉が維持され、たんぱく質の豊富な肉などの硬い食材も、無理なく食べることができます」

 また社会活動にも目を向け、ご近所の友だちと立ち話をする、地域イベントに参加するといったことも効果的だ。

「フレイルで受診するのは60代以降が目立ちますが、筋力の衰えは40代ごろからすでに始まっています。40~50代でも、生活を見直して必要であれば改善できるといいですね。受診するほどではないけれど症状が気になるという人は、漢方薬を試してみるのもひとつの手段です」

病院では、栄養状態や
筋肉量などをチェック

 フレイルの症状で日常生活に支障が出るようになったら、内科を受診してみよう。
1.体重減少
2.歩行速度の低下
3.握力の低下
4.疲れやすい
5.身体の活動低下
の5項目のうち、3項目が当てはまるとフレイルと診断される。

 現在、フレイルの治療法はまだ確立されていない。まずは栄養状態や筋肉量、骨量、咀しゃくや嚥下などに関わる機能を確認。診断後、さらなる心身機能の低下を防ぐため、生活改善の指導やリハビリテーションで対応する。

 フレイルになると、適切な対処をしなければ心身の機能が低下し、要介護の状態になる可能性がある。また年齢を重ねて疾患が発症すると、フレイルを深刻化させるリスクも大きい。

「人生100年時代を迎え、健康長寿を目指すならフレイルを見過ごすことはできません。高齢者だけでなく中高年世代も含めて、フレイルを理解し予防に努めて。日常生活でできるセルフメディケーションに取り組むことから、始めてみましょう」

栗原クリニック東京・日本橋 院長

栗原 毅 先生

くりはら・たけし/1978年、北里大学医学部卒業。東京女子医科大学教授を経て、2008年に開業。慶應義塾大学大学院教授などを歴任する。肝臓疾患の診療および予防医療に力を注ぎながら、遠隔医療にも精力的に取り組んでいる

文 / 内藤 綾子 イラスト / チチチ デザイン / 舗伊 朝太郎 制作 / 朝日新聞出版メディアプロデュース部ブランドスタジオ 企画 / AERA dot. AD セクション