【Vol.03】ライブあり、DJあり。老若男女が楽しめる新感覚盆踊り

盆踊りをいかにアップデートできるか。
その実験室でもある「DAIBON」

 「DAIBON」の愛称でも親しまれている大和町八幡神社大盆踊り会は、東京でもっとも先鋭的な盆踊りのひとつだ。スタートしたのは2016年。櫓(やぐら)や提灯が彩る盆踊り空間のなかパフォーマンスを披露するのは、さまざまなジャンルのミュージシャンやラッパー、DJたち。1980年代に社会現象となった「竹の子族」の文化を引用する集団、ケケノコ族や、さまざまな盆踊り唄をミックスするDJの珍盤亭娯楽師匠など、出演者の顔ぶれは個性派そろいだ。ここで行われているのは、「盆踊りという古来のフォーマットをどのように更新することができるか」という極めて刺激的な実験でもある。

 運営において中心的な役割を担っているのが、著述家および音楽家として80年代から活動を続ける岸野雄一。彼は近年、珍盤亭娯楽師匠らとともに盆踊りとDJカルチャーの融合を進めており、この盆踊りもまた、そうした試みの一環といえる。その背景にあるのは、盆踊りを現在進行形のダンス・カルチャーとして捉え直し、高齢化などの理由によって活気を失いつつあった東京の盆踊り文化を活性化させようという思いだ。ただし、それは奇をてらったものではなく、あくまでもこれまでの盆踊りのなかで親しまれてきた習慣を継続、発展させたもの。岸野は「人がたくさん来てくれることが目的なのではなく、どの地域でも同様のことがトライできるような、モデルケースとしてのコンテンツ作りを心がけています」と話す。

衰退しつつあった盆踊りを活性化したい!
盆踊りに対する八幡神社の思い

 だが、この「DAIBON」がユニークなのは、こうした試みが音楽イべントの一種として推し進められているのではなく、創建から960年以上もの歴史を誇る八幡神社の祭礼として執り行われているということだ。岸野とともに運営の中心を担う同神社の禰宜(ねぎ)、関龍太郎はこう話す。

「僕が小さいころ、ここの盆踊りはすごく盛り上がっていたんですよ。でも、ここ10年ぐらいは踊りの輪もできないぐらい寂しくて。僕自身、大学時代から音楽イべントをやったり、DJもやっていたので、岸野さんの活動に感銘を受けていたんです。それで岸野さんに声をかけ、2016年から『DAIBON』を始めました」

 有名アーティストのパフォーマンスやDJのプレーに注目が集まることの多い「DAIBON」だが、早い時間は神輿の練り歩きあり、神社と併設された幼稚園の園児たちによる空手の披露ありと、基本的には地域に根づいた夏祭りとして運営されている。近年は各メディアで取り上げられたことで来場者が急増。当日まで出演者をシークレットにするなどさまざまな対策がとられているが、来場者の数は会場のキャパシティーを超えつつあるという。

「今後どう運営していくか、大きな課題になっています。やっぱり地元の人が来てこその祭り。ライブやDJ以外に地元の踊り手さんによる盆踊りの時間もあるんですが、僕は大和町でずっと続いてきたあの時間帯がメインだと思っているんですよ」(関)

 「DAIBON」に限らず、盆踊りとはコミュニティー外からやってきた観客のものでもなければ、出演者のものでもなく、あくまでも地域住民のためのもの。そのことを踏まえつつ、他の盆踊りにはない刺激を与えてくれる「DAIBON」を思いきり楽しみたい。

大和町八幡神社大盆踊り会

毎年7月

会場:八幡神社境内(やはた幼稚園園庭)
大和町八幡神社大盆踊り会
https://daibon.jp/

文:大石始 写真:吉崎貴幸(主催者提供)
本企画は『東京の魅力発信プロジェクト』に採択されています。
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