<ライブレポート>SUPER BEAVER、Zepp Shinjuku (TOKYO) “正真正銘のこけら落とし”で見せつけたライブバンドの矜持
<ライブレポート>SUPER BEAVER、Zepp Shinjuku (TOKYO) “正真正銘のこけら落とし”で見せつけたライブバンドの矜持

 「レペゼン・ジャパニーズ・ポップ・ミュージック、フロム・トーキョー、シンジュク!」

 東京・新宿は歌舞伎町に新しく開業する「Zepp Shinjuku (TOKYO)」のこけら落とし公演4DAYS、その初日である4月17日ーー“正真正銘のこけら落とし公演”がSUPER BEAVERに決まったと知ったとき、こんなにもぴったりな人選があるだろうか、とため息が出たのを覚えている。メンバー全員が東京出身、東京をレペゼンするライブバンドであり、なかでもフロントマン渋谷龍太(Vo.)はまさに歌舞伎町で生まれ育ったという経歴の持ち主。公演決定とあわせて明らかになった【都会のラクダ 柿落としSP ~ 新宿生まれの、ラクダ ~】という公演タイトルからも、そんな彼らの誇りと気合いが伝わってくる。いつだって“過去最高”を見せる、と有言実行するのがSUPER BEAVERというバンドだけれど、それでも今回はどんな特別な日になるのだろうと、場内へ続く長い廊下を歩きながら、なんだか無性にドキドキしてしまった。

 フロアいっぱいに集まった観客は、定刻きっかりに音量が上がったSEを合図に熱量と密度を増していく。上杉研太(Ba.)、柳沢亮太(Gt.)、藤原“34才”広明(Dr.)、そして渋谷が姿を現し4人全員がステージに揃うと、さっそく大歓声が上がった。当会場はZeppホールとしては異例の1500人キャパ(これは他のZeppより約1000人ほど少ない)のコンパクトさということもあり、予想を超える距離の近さに驚く。「Zepp Shinjuku、こけら落とし一発目に音出すの、俺らだぜ!……おい、勘違いすんなよ?」ここでひと息おき、観客を見渡して「“俺ら”だぜ! よろしくお願いします!」と渋谷が叫ぶと、瞬時に観客の一体感が高まっていくのが感じられた。

 オープニングを飾ったのは、長年のライブ定番曲「東京流星群」。この公演にふさわしい幕開けに、観客も全力のコールで応えていく。さらにエンジン全開で「スペシャル」へ続いたあとは、冒頭に引用した挨拶とともに改めてZepp Shinjukuのオープンを祝いつつ、渋谷は「どのライブも全部特別だから、今日が特別ってわけじゃないんだけど。いつもと同じように、あなた“たち”じゃなくて、あなたにとって、忘れられない一日に、最高だなと思える一日に、今から作っていくし、一緒に作っていこうと思ってっからよろしくお願いします!」と宣言。さらにフロアを煽っていき「ひたむき」、〈ねえ 今日 楽しいな〉と歌詞を変え、心底楽しそうに客席へ笑いかける渋谷の姿が印象的だった「名前を呼ぶよ」を繰り出す。

 ビートの粒がいっそう際立つリズム隊と、ギターの単音リフがクールな「mob」で雰囲気を変えると、続く「予感」ではコール&レスポンスでの観客の歌声がもう1段階ボリュームを増す。この日は月曜日。フロアを見ても学校や仕事帰りで駆けつけたという人も少なくないだろうに、目に入る人皆が満面の笑顔で、時には顔を真っ赤にするほど懸命に、渋谷に続いて歌っていた姿が今も目に焼き付いている。さらにその後のMCで、渋谷が「あなたの顔見てると、マジで俺たちここまで音楽やってきてよかったなって心の底から思います。改めてどうもありがとうございます」と感謝を告げると、客席のあちこちから「ありがとうー!」と、大きな声での返事と拍手が返ったのだ。こんなに熱くて誠実なコミュニケーションが生まれるのも、ビーバーが“あなた”一人ひとりと真剣に向き合って音楽を作っているからなのだと思う。

 最新曲「グラデーション」では、ビルの合間から差し込む日差しのような眩い照明と、それに対比してステージに一層暗く落ちる影、そして時折それが混ざり合って淡く照らされる4人の姿が、まさに歌詞をなぞっているようで美しい。「俺たちにとっても大事な曲」と紹介された「シアワセ」ではバックモニターに歌詞が映し出され、まっすぐなメッセージが目と耳に突き刺さってくるようだった。

 「まだ足りねえ奴どんだけいますか!?」と渋谷が煽って会場の温度をふたたび上げていくと、ライブもいよいよラストスパートの盛り上がりへ。「嬉しい涙」「青い春」と観客との大合唱が続き、「秘密」では、会場の隅々から集まった大きな歌声が、会場いっぱいにうねって聴こえてくる。そして曲が鳴りやんでも方々から飛び交うコールに、そうだった、ライブハウスでのライブってこんな感じだったよな、としみじみしていると、それを見透かしたように渋谷は「声出し解禁になってさ、前のライブハウスが戻ってきたと、いろんな言葉を聞くけどもさ、戻ってこないですよ、絶対。新しい考え方が出てきてるから」と、ぽつぽつと話しはじめた。「ギュッて前で観たいって人もいるし、歌いたくないって人ももちろんいるの」「自分がやりたいようにやったらいい。そのために、(ライブを)ライブハウスでもやるし、ホールでもやるし、アリーナでもやるんだ。自分が、ここだったらいちばん楽しめるかもしれないっていうところに、それがひとつだけじゃなくても、自分で選んで来てくれたら、俺はめちゃくちゃ嬉しいよ」との言葉が、優しい余韻をもって響いていく。

 「音楽で一体感とか、ひとつになろうとか、嫌だね。目的が違うもんな。ひとつになるために音楽やってんじゃねえんだよ。俺たちが好きなようにやって、好きな方向向いた結果、たまたま同じところ向いちゃって一個になるのが楽しいんだよ。たまたまできちゃう一体感が最高なの。俺はそれをやりたい。あなたがどうやりたいか、どうなりたいかだけに興味がある。俺はそういう音楽、この4人と、あなたとで作っていきたいと、マジで心の底から思ってます。今日はありがとうございました」と渋谷が一礼して締めくくると、その熱い想いを受け止めた観客もワッと声援を返す。そして「愛すべきあなたのお手を拝借。……俺たちで、たまたまできちゃう最高の音楽、今からやるよ」と告げて歌い出されたのは「美しい日」。会場は最高潮の熱気に包まれ、本編が終了した。

 アンコールでは、まずは公演前から各所で予告があったとおり、TBS系『CDTVライブ!ライブ!』2時間スペシャルの生中継ライブとして「グラデーション」「名前を呼ぶよ」の2曲を続けて披露。テレビ番組への生中継出演はバンドとしても初の機会ということで、メンバーたちも本編MCでこのことについて予告し、「テレビだー! 祭りだー!」「やばくない? フルの生歌唱2曲ですよ?」と高揚感を隠しきれない様子をみせていた。「記念すべきこの時間、一緒にこういう空気作ってるっていうのが電波に乗っかるんだと思うと、たまんない気持ちっすね」「フロム・ライブハウスだと思ってずっとやってます。現場至上主義、それ以上でも以下でもないって思ってるんだけど、これが流れるっていうのは……歴史だぜ?(笑)」との言葉には、同じ場所にいた人なら、期待が高まらずにはいられなかったはずだ。

 緊張感ある生中継スタートの現場(本中継前にも何度か短い中継が入ったのだが、その合図にあわせ、盛り上がり/体力温存をぴたっと切り替える観客もすばらしい)、そして熱いパフォーマンスを終え、渋谷が「終わりましたー!」と叫ぶと、労いの歓声が上がる。そして「お疲れ様でしたー、で帰すわけがないだろっ!」と続くと、会場のテンションはふたたびマックスに。「最後の一曲はテレビには映らないけど、最高の音楽、一緒にしましょう。よろしくお願いします!」と改めて挨拶し、藤原のカウントから「東京」がスタートした。曲頭の部分を一緒に歌ってほしいんだ、との渋谷のリクエストに全力で応える観客と、フロアのほうへスタンドマイクを向け、心底楽しそうにガッツポーズをして、心底愛おしそうな目で“あなた”一人ひとりを見つめる渋谷。SUPER BEAVERの“最高の音楽”がまたひとつ新しく結実して、公演は幕を下ろした。

 SUPER BEAVERはいつだって、突き刺さるほどまっすぐで、ひりつくほど熱く、どこまでもピュアだ。それが楽曲、表現や振る舞いから混じりっ気なく伝わってくるから、性別や年齢なんかに関係なく、受け取る人の心を揺さぶって離さないのだろう。今回の公演でも、こけら落としだとか、初のテレビ中継だとかの“イレギュラー”以前の大前提として、4人は“いつも通り”の特別を嘘偽りなく当たり前にやってみせた。やっぱり、この日にこの場所でライブをしたアーティストがSUPER BEAVERで、本当によかったと思う。ホールツアーまっただなかの彼らはまたすぐに“過去最高”を更新してしまうのだろうけれど、それでもこの公演は間違いなく、忘れられない最高で特別なひとときだった。

Text by Maiko Murata
Photo by 青木カズロー

◎公演情報
【都会のラクダ 柿落としSP ~ 新宿生まれの、ラクダ ~】
2023年4月17日(月) 東京・Zepp Shinjuku (TOKYO)

<セットリスト>
1. 東京流星群
2. スペシャル
3. ひたむき
4. 名前を呼ぶよ
5. mob
6. 予感
7. グラデーション
8. シアワセ
9. 嬉しい涙
10. 青い春
11. 秘密
12. 美しい日
En1. グラデーション
En2. 名前を呼ぶよ
En3. 東京