<ライブレポート>SOMETIME’Sの音楽が繋いだ「人」と「人」
<ライブレポート>SOMETIME’Sの音楽が繋いだ「人」と「人」

 1月15日、SOMETIME’Sが、新作EP『Hope EP』のリリースパーティー【NIST】を東京・恵比寿LIQUIDROOMにて開催した。

 「NIST」という一見不思議なイベントタイトルは、彼らのホームページに公開されているオフィシャルインタビューを読む限り、「ピアニスト」などの「ニスト」から来ているようだ。このタイトルの発案者であるTAKKI(Gt.)曰く、「一流のピアニストとかギタリストとかのイメージで、そういう人たちを常に呼んで、一緒に第一線で活躍したいという意味」が込められているという。また、『Hope EP』に収録されたいくつかの楽曲でもエンジニアを務めている照内紀雄が、サウナ好きである自らを「サウナー」ならぬ「サウニスト」と自称していることにも端を発しているという、面白おかしいエピソードもある。

 SOMETIME’SはSOTA(Vo.)とTAKKIから成る二人組だが、彼らの音楽は二人だけでは完結しない。彼らの音楽は、これまで多くのサポートプレイヤーたちによって、カラフルに彩られてきた。SOMETIME’Sの二人とサポートプレイヤーたちの間には、「楽曲を完成させるために集まった」と言葉にするだけでは物足りない親密なケミストリーがあり、それがなによりの魅力であり続けている。「ユニット」と呼ぶだけでは物足りない、でも「バンド」ではない、不思議な「コミュニティ」。それがSOMETIME’Sである。そんな彼ら特有の魅力は、今回のような「パーティー」を生成することにおいても強く発揮されている。「NIST」に集ったのは、出演順にYONA YONA WEEKENDERS、ぷにぷに電機、the chef cooks me、Kroi、そして、SOMETIME’S。世代も、やってきたことも違う面々が、あたたかく幸福な空間を生み出す。主役はSOMETIME’Sだが、彼らが強い号令を発して集まったという感覚はなく、誰もがSOMETIME’Sを称えながら、お互いを祝福し合う、そんな穏やかな繋がりが見えてくるような心地いいパーティー、それが「NIST」だった。

 1番手にステージに上がったYONA YONA WEEKENDRSは、SOMETIME’Sと同世代であることのシンパシーを表明しながら、その躍動感ある演奏で会場を盛り上げた。磯野くん(Vo./Gt.)が<市ヶ谷過ぎたら飯田橋>というSOMETIME’S「Clown」の一節を歌っていたのも印象的な場面だ。2番手のぷにぷに電機は、SOMETIME’Sとは初共演だったよう。DJセットなどの形態もある多面的なアーティストだが、この日はバックバンドを迎えてのパフォーマンス。バンドの饒舌なアンサンブルと共に、その複雑で魅惑的な存在感を発していた。3番手はthe chef cooks me。なんとsimoryoが、SOMETIME’Sの二人が通っていた高校の軽音楽部の先輩に当たるという(さらに先輩には秦基博がいるそうだ)。その軽音楽部で「伝説」と呼ばれていたというsimoryoを中心としたパワフルでユーフォリックな演奏からは、会場全体を巻き込むだけでなく、SOMETIME’Sの二人への私信のような切実さも感じた。

 また4番手に登場したKroiは、SOMETIME’SとはIRORI Recordsのレーベルメイトで、この日の楽屋でも千葉大樹(Key)がSOMETIME’Sチームと麻雀をしたり、益田英知(Dr.)とTAKKIが将棋を指していたという程、仲がいい様子。内田怜央(Vo./Gt.)はMCでSOMETIME’Sのことを「兄貴」と呼んでいたが、その不敵かつ獰猛な演奏で、この後に続く兄貴たちのステージのために熱く燃え上がるような花道を作っていた。

 そして、ラストに登場したSOMETIME’Sは、『Hope EP』と同じく1曲目に「Somebody」を演奏し、ライブをスタートさせた。この日のSOMETIME’SはSOTAとTAKKIに加え、冨田洋之進(Dr.)、佐々木恵太郎(Ba.)、清野雄翔(Key.)、永田こーせー(Sax.)、さらに、アレンジャーとしてもSOMETIME’Sの楽曲に深くかかわっている藤田道哉(Key./Mnp.)をサポートに迎えた7人編成。軽快でメロディアスな「Somebody」、続く、80’sテイストのポップネスがライブでは一層力強く響く「Drug cure」、滑らかでグルーヴィな「Get in me」、ゴロゴロと雷が鳴るSEに始まり、重厚なアンサンブルが響く「Raindrop」へと、立て続けに楽曲を演奏していく。MCではSOTAが「嬉しい!」とこのパーティーの開催に対しての喜びを露わにする。

 中盤は「Honeys」、「Slow Dance」と、代表曲といえる楽曲たちを披露。続くMCでSOTAは「決してネガティブな意味ではない」と前置きしながら、2022年がSOMETIME’Sにとっていかに苦心の季節であったかを語った。『Hope EP』リリース時に筆者がBillboard JAPANで取材した際も、彼らは2022年という1年間がSOMETIME’Sにとって決して一筋縄ではいかない1年であったことは語っていた。しかしながら、この1年間でSOMETIME’Sが得たものが苦しみや痛みだけではなかったことを、この日のパフォーマンスは証明していたように思う。衝動だけではない、爪先まで神経が行き届いたようなバンドのアンサンブルは、筆者が以前ライブを観た時よりもさらに大きなグルーヴ感を獲得していたし、フロアに集った人たちは、SOMETIME’Sの音楽はもちろんのこと、彼らの「物語」すら愛しながら、その音楽にのせて思い思いに体を動かしているように思えた。SOTAは、2023年はSOMETIME’Sにとって躍進の年になるだろうし、今夜はその船出になる夜だ、と語った。そんな想いを乗せて本編のラストに響いた「Hope」は、その名が示すように、まさに「希望」の音楽だった。

 アンコールでは「You and I」を披露。SOMETIME’Sらしい、大きな愛と笑顔に満ちたパーティーの終幕だった。ライブを観ると改めて、SOMETIME’Sの音楽は「人」と「人」の繋がり、その有機的なバイオリズムによって生み出されるものなのだと実感する。なにも構える必要はない。頭でっかちになる必要もない。笑ったり泣いたりしながら、ひとえに「幸福を味わいたい」という気持ちがあれば、SOMETIME’Sの音楽は大きく手を広げて、あなたを待っている。こんなにも純粋で人間味あふれる音楽が今の時代に響いている。それは、あまりにも愛おしくて尊い事実だ。SOMETIME’Sの音楽はきっと、2023年もたくさんの人と人を、日々と日々を、繋いでいくだろう。

Text:天野史彬
Photo:umihayato

◎ライブ情報
【SOMETIME’S Hope EP Release Party 「NIST」
Supporting Radio J-WAVE】
2023年1月15日(日)
東京・恵比寿LIQUIDROOM
出演:SOMETIME’S、 Kroi、the chef cooks me、ぷにぷに電機、YONA YONA WEEKENDERS
<SOMETIME’Sセットリスト>
1. Somebody
2. Drug cure
3. Get in me
4. Raindrop
5. Stand by me
6. Honeys
7. Slow Dance
8. Hope
EN. You and I