<ライブレポート>桑田佳祐、音楽へのリスペクトと感謝のメッセージが詰まった横浜アリーナ公演
<ライブレポート>桑田佳祐、音楽へのリスペクトと感謝のメッセージが詰まった横浜アリーナ公演

 桑田佳祐が【LIVE TOUR 2022「年末も、お互い元気に頑張りましょう!!」】横浜アリーナ追加公演を2022年12月28日~31日の3日間にわたり開催して、1年ぶりに聖地・横浜アリーナで再会したファンたちと大いに盛り上がって2022年を締めくくった。このレポートでは、30日に行われたライブの模様をお届けする。

 2022年にソロ活動35年目を迎え、2枚組ベストアルバム『いつも何処かで』をリリースした桑田佳祐。このライブは11月2日の宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ公演を皮切りに、5大ドームを巡ってきた全国ツアーの追加公演として横浜アリーナにて開催された。【年末も、お互い元気に頑張りましょう!!】というこれ以上ないストレートなメッセージに、人々の暮らしに寄り添った歌を届け続けるソロアーティスト・桑田佳祐らしさが感じられる。入場ゲート付近に設置された特設ボードには、<ソロ35年目、感謝の“5倍返し!!”>と書かれており、どんなライブを見せてくれるのかワクワクさせられた。

 開演を告げるアナウンスが終わり、会場が暗転すると、雷雨の音が流れ出し、ジャズナンバーのBGMと共に薄明りの中で徐々にステージの様子が明らかに。楽曲タイトルをもじった「若い広BAR」と描かれた看板の文字がスクリーンに映し出され、ステージ上部にはバーをイメージしたセットにバーテンダー、男性客がいるようだ。そんな舞台設定の中、ピアノのムーディーな演奏が始まり、ステージ中央のドアを開けて桑田佳祐が登場した。ピアノと観客の手拍子に乗って歌い出したのは、「こんな僕で良かったら」。心地良いビッグバンド・ジャズ調の演奏で、<こんな僕で良かったら 今日は最後までよろしくね!!>と、歌詞を変えて観客に語り掛けるように歌う。

 続いて「若い広場」のリズミカルなピアノのイントロと<Pon pon pon…>とコーラスが始まった。途中、前川清風の独特な歌い回しで、“昭和感”を演出するところもさすがのサービス精神だ。間奏では「みなさん、ありがとうございます! 1年ぶりに横浜アリーナに帰ってまいりました! 最後までよろしくお願いします!」と客席に声を掛けた。往年のマージービートを思わせるコーラスワークから「炎の聖歌隊 [Choir(クワイア)]」へ。曲が始まると同時に、入場時に配布されて観客が手首に装着した“5倍返しライト”が点灯して、煌々した光が場内に広がった。<開演お待ちどうさん ご来場大変ご足労さん>と歌う、まさにライブを想定して作られた楽曲だけに、一気に盛り上がりを見せ、早くもステージから金テープが舞い上がった。

 最初のMCでは、「こんばんは! お忙しい中、いらっしゃいませ! 私、原 由子の夫です」との自己紹介に笑いが起こる。「みんなに会えてよかった! ありがとう!」と、1年ぶりの再会に喜びを爆発させると、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。

 レゲエのリズムが体を揺らす「MERRY X’MAS IN SUMMER」では、サンタクロースとトナカイが登場。曲終わりには<もういくつ寝るとお正月>と歌われ、サンタが着物姿になって再び現れる遊び心も楽しい。桑田が赤いテレキャスターを手にして歌ったのは「可愛いミーナ」。この曲も「MERRY X’MAS IN SUMMER」もそうだが、明るく弾むようなリズムと親しみやすいメロディでスッと耳に入ってくることで、歌の内容がより一層切なく胸に響く。斎藤誠(Gt)がロックンロールリフをガツンと弾いて、「真夜中のダンディー」へ。桑田はオリジナルよりもラフな歌い方で泥臭い男の人生を表現した。アウトロでは自らギターでディープ・パープル「スモーク・オン・ザ・ウォーター」のイントロを披露して曲を締めた。「明日晴れるかな」では、ピアノとアコースティックギターの美しい音色に導かれて熱唱。最後にファルセットを聴かせると大きな拍手がステージに送られた。

 ベストアルバムがリリースされたこともあり、ソロキャリアを総括するような代表曲が続く。ソロ2作目のシングル曲「いつか何処かで (I FEEL THE ECHO)」は、長年桑田の音楽を聴いているファンにとっては思い入れも強いはず。じっと聴き入っている観客たちの姿が印象的だった。切ないメロディの余韻から、華やかなホーンに彩られたポップソング「ダーリン」へと続くと、緊張感のあるロックチューン「NUMBER WONDA GIRL~恋するワンダ~」の熱い歌と演奏で盛り上がった。日本語と英語が混ざり合った歌詞は、デビュー以来の桑田の真骨頂といえる。レッド・ツェッペリン「天国への階段」のイントロから歌われたのは、童謡『赤い靴』。マッシュアップともいえる試みが興味深かった。“異人さん”と“ひい爺さん”を掛けた寸劇で笑わせるオチもじつに桑田らしい。そんなユーモラスな演出から、「SMILE~晴れ渡る空のように~」へと橋渡し。再び場内はライトで埋め尽くされ、手拍子で一体となった。

 MCでは、「メンバー紹介が一番好き」と言いながら次々とメンバーを紹介した(河村"カースケ"智康(Dr)、角田俊介(Ba)、曽我淳一(Key)、片山敦夫(Key)、中シゲヲ(Gt)、斎藤誠(Gt)、山本拓夫(Sax)、寺地美穂(Sax)、菅坡雅彦(Tp)、TIGER(Cho)、小田原 ODY 友洋(Cho))。また、原 由子の31年ぶりのオリジナル・アルバム『婦人の肖像(Portrait of a Lady)』を告知する一幕もあり、観客からは温かい拍手が起こっていた。

 ここで、アコースティック・コーナーへ。ブルースハープも披露した軽快な演奏の「鏡」から、KUWATA BANDのデビュー曲「BAN BAN BAN」がアコースティック・バージョンで披露された。さらに、ソロ1stアルバム『Keisuke Kuwata』収録の「Blue ~こんな夜には踊れない」をラテン調のリズムに乗せて歌った。意外な選曲に驚かされつつも、アコースティック・サウンドをバックに歌われることで、長い時を経ても色褪せないメロディの良さが際立って聴こえた。また、「Blue ~こんな夜には踊れない」はオリジナルでは英詞である2番のサビを日本語で歌っていたのも新鮮だった。セクシーなダンサーが登場する演出もあり、ライブの中でもハイライト的なコーナーとなっていた。

 「明日、紅白に出ます」と、桑田佳祐 feat. 佐野元春, 世良公則, Char, 野口五郎の「時代遅れのRock'n'Roll Band」について触れたMCから、「なぎさホテル」「平和の街」と、ベストアルバムに収録された新曲が紹介された。ノスタルジックな映像をバックに歌われたドリーミーポップな「なぎさホテル」で過去に思いを馳せつつ、「平和の街」の<あなたと共に 今日を生きよう>という、このライブのテーマともいえるメッセージに励まされ、とても意味のある曲の並びに感じられた。ステージが真っ赤に染まった「現代東京奇譚」、バラード「ほととぎす [杜鵑草]」とドラマティックな曲が続く。

 ギターのイントロに手拍子が起こり、ゴージャスなサウンドの「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」が始まると、桑田は赤い“闘魂タオル”を首に下げて歌う。観客はイントロフレーズで両手をグルグル回して手拍子する桑田と振りを合わせて一体となっている。ブルースハープを跪いて吹くと桑田は間奏で「この道を行けばどうなるものか 迷わず行けよ 行けばわかるさ」と、故・アントニオ猪木が引退試合の際にスピーチした詩を叫んで、リスペクトを捧げた。曲が終わるとそのまま「悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)」へ突入。銀テープが炸裂して、アップテンポな演奏に乗って歌う桑田に向かって右手を伸ばす観客たち。失恋ソングなのにこんなにも多幸感があるところが不思議にすら感じられた。さらに「ヨシ子さん」のジャングルビートと手拍子で会場が揺れる。ニューオーリンズ・サウンドに乗せて<チキドン チキドン>と歌われる、桑田にしか作れない和洋折衷な楽曲だ。

 大いに盛り上がって曲が終わると突如、「本当、疲れちゃったわ、アタシ」と言い出す桑田。どうやら横浜市磯子区生まれのレジェンド・美空ひばりが憑依(?)した様子で「真赤な太陽」をひばりの歌声に寄せた独特の節回しで歌唱した。歌い終わり、「あ~疲れた」とステージを去ろうとしたものの、舞台袖からビキニ姿の女性たちが現れて桑田をセンターに戻して、「波乗りジョニー」がスタート。エバトダンシングチームと共に歌い踊る派手なステージングで、最高の盛り上がりとなった。

 アンコールの「ROCK AND ROLL HERO」では、桑田もギターを弾き、2人のギタリストも前に出たロックサウンドと日米の関係をシニカルな視点で描いた歌の内容が強烈だ。よりハードな「銀河の星屑」では火柱が上がり、ライブのクライマックスへと興奮が続くと、ガラリと雰囲気が変わってバラード「白い恋人達」へ。ステージと客席が温かい光に包まれて、観客は歌声に合わせてライトをつけた腕を左右に振り、曲の世界観をステージ上のメンバーと一緒に作り上げているように見えた。「本当に今年は充実した1年だったと思います。ありがとうございました」と感謝すると、「最後に、実力者メンバーたちの胸のすくような生演奏で」との前振りから、「100万年の幸せ!!」へ。途中でバンドメンバーたちも全員ステージ前に出てパフォーマンスを見せた。

 エンディングは「時代遅れのRock'n'Roll Band」がBGMで流れる中、1人でステージに残ると、「素晴らしい新年を迎えてください! コロナが早く終わりますように。また来年お会いできますことを楽しみにしています。お元気でね! 本当にありがとう!」と感謝した桑田。さらに、「良いことばかりじゃなくて、とても悲しいお別れもありました。大ファンだった猪木さんが旅立たれましたけど、いつもやらせていただいている気持ちの良いやつ、みなさんご唱和よろしいでしょうか!? いきます! 1、2、3、ダァーッ!」と、全員で拳を天に突き上げ、「元気でねー! また帰ってくるよー!」と告げて、名残惜しそうに手を振りながらステージを降りて行った。

Text by 岡本貴之
Photos by 関口佳代

◎セットリスト
【LIVE TOUR 2022「年末も、お互い元気に頑張りましょう!!」】
2022年12月30日(金)神奈川・横浜アリーナ
1. こんな僕で良かったら
2. 若い広場
3. 炎の聖歌隊 [Choir(クワイア)]
4. MERRY X’MAS IN SUMMER
5. 可愛いミーナ
6. 真夜中のダンディー
7. 明日晴れるかな
8. いつか何処かで (I FEEL THE ECHO)
9. ダーリン
10. NUMBER WONDA GIRL~恋するワンダ~
11. 赤い靴 ~ SMILE~晴れ渡る空のように~
12. 鏡
13. BAN BAN BAN
14. Blue ~こんな夜には踊れない
15. なぎさホテル
16. 平和の街
17. 現代東京奇譚
18. ほととぎす [杜鵑草]
19. Soulコブラツイスト~魂の悶絶
20. 悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)
21. ヨシ子さん
22. 真赤な太陽(美空ひばりカバー)~波乗りジョニー
EN1. ROCK AND ROLL HERO
EN2. 銀河の星屑
EN3. 白い恋人達
EN4. 100万年の幸せ!!