<ライブレポート>元ちとせ、14年ぶりのアルバム提げたビルボードライブ公演を開催「これからも一歩一歩、歌の旅を続けていきたいと思います」
<ライブレポート>元ちとせ、14年ぶりのアルバム提げたビルボードライブ公演を開催「これからも一歩一歩、歌の旅を続けていきたいと思います」

 2022年11月7日、デビュー20周年を迎えた元ちとせがBillboard Live TOKYOで【元ちとせ Billboard Live 2022~在りし日の鐘が鳴る~】を開催した。オリジナルとしては14年ぶりとなったニューアルバム『虹の麓』からの楽曲や、20年間を彩ってきた名曲がバンド編成で披露された同公演の1stステージの模様をお届けする。

 会場が暗転すると、バンドメンバーの新井“ラーメン”健(ギター)、宗本康兵(ピアノ)、松本智也(パーカッション)が登場。イントロダクションが奏でられる中、元ちとせが登場し、『虹の麓』収録の「あなたの夢で目覚めた朝に」でライブがスタートした。温かく、どこかフォーキーで土着的なサウンドと、切なさも交じる独特な歌声で会場が一瞬で元ちとせの世界に染まる。続いて2010年のカバーアルバム『Orient』から「雫」(原曲:スキマスイッチ)へ。民族的なリズムのパーカッションが牽引する迫力ある音像に引き込まれる。少しダークさもある曲だが、光が差し込むような幻想的なアウトロとの対比が秀逸だ。

 曲が終わり「こんばんは、元ちとせです」と挨拶をすると、「今年でデビュー20周年。20年の歌の旅を続けてきた中で、最初はただ歌うことが楽しいだけでしたが、こうして歌をお届けできる機会をもらえるのであれば、平和であることのありがたさや、こうして皆さんとお会いできていることに幸せを感じたり、そうしたきっかけになれる歌い手になりたいと思う出来事やたくさんの学びがありました。改めて、この素敵な場所に立たせていただけることに感謝して、今日も歌を届けたいと思います。どうぞ最後までお付き合いください」とファンへの感謝を語った。

 次に披露されたのは、戦後70年というタイミングでリリースされたカバーアルバム『平和元年』からピート・シーガーの「腰まで泥まみれ」。シリアスなテーマを生々しくシニカルに描く中川五郎の日本語詞に乗せて、まるで演舞のようにドラマチックに動きながら歌唱する元のパフォーマンスにこちらも釘付けに。一転して、続いて演奏されたのは最新アルバムの表題曲「虹の麓」。同じく平和がテーマでありながらダークでアップテンポな前曲とは対象的に、ゆったりとした、思わず身体を揺らしたくなってしまう心地よさを持った曲だ。そして、そこから流れるように「夏雲雀」へと続く。包み込んでくれるような優しさと、今にも壊れそうな儚さが共存するバラードをエモーショナルに歌いきった。

 再びのMCでは故郷の奄美大島が2021年に世界自然遺産に登録されたことに触れ、「4年程前にも候補に挙がりながら一度、登録が見送られたことがありました。その時はまだ島の人たち自身が世界自然遺産に登録されるということがどういうことなのかよくわかっていなかったのですが、登録が見送られたことをきっかけに、島の人たちが島のこれからについて改めて考えたり、見つめ直す大切な時間をもつことができました。だから、登録が決まった時はみんなで喜びました。ですが、これがゴールではなく、スタート。コロナ禍で今は難しいですが、落ち着いてきたらぜひ奄美大島に来ていただきたいと思います。でも、私の家には来ないでくださいね(笑)」とユーモアを混ぜつつ故郷への想いを伝えた。

 奄美群島の徳之島で伝統的に開催されている闘牛がテーマのシマ唄「ワイド節」では元も三味線を演奏し、祭りのような陽気でエネルギッシュな雰囲気が会場を満たす。観客も一体感あるクラップで参加する。元の大事にしているルーツが強く感じられる楽曲だった。その後も「漣の声」ではリズムに乗って躍動的なパフォーマンスを、カントリー的な雰囲気のある「五坪ほどの土地でも」では哀愁たっぷりに温かさを表現した。

 続くMCでは「20年といってもまだまだ勉強することがたくさんあります。歌は永遠に続けていきたいと思っています。20周年をきっかけにオリジナル・アルバムでまた新しい宝物のような楽曲に出会うことができました。そんな新しい曲も大切にしながら、これからも一歩一歩、歌の旅を続けていきたいと思います。」という決意とともに、シマ唄から始まった歌の旅の原点でもある故郷・奄美大島への想いも語った。

 2002年にリリースされたデビュー曲「ワダツミの木」ではまるで“エネルギーの放出”とでも言いたくなるような力強いパフォーマンスを展開。幻想的な照明に、美しい元のファルセットも相まって神秘的な空気感が会場に広がった。その余韻を残したまま、最新アルバムの中からダイナミックな奄美大島の自然を感じる「えにしありて」へ。デビュー曲から最新曲へと20年の時を超えたわけだが、全く違和感はない。それだけ彼女の“歌”の芯がぶれていないということなのだろうと改めて実感させられた。そして、本編ラストに選ばれたのは「暁の鐘」。シンガーソングライター・折坂悠太がプロデュースした楽曲が“光”を放つような美しいハーモニーがエンディングを演出する。

 アンコールに応えて再びステージに戻ってくると「それでは、大切にしてきた1曲を受け取ってください」と、1stアルバム『ハイヌミカゼ』収録の「ひかる・かいがら」へ。切なさと温もりが共存する歌詞とメロディー、そして自然の環境音を再現するような効果的なパーカッションが壮大で美しいアンサンブルを作り上げる様子は鳥肌モノだった。

 「こうしてお会いできて、歌を届けられることがとてもありがたいことだと思っています。“また聴きたい”と思ってもらえる歌を歌っていきたいと思います」と語ると、フィナーレを飾る一曲として、まっすぐなメッセージが込められた「感謝」が披露される。星空が似合うこの曲に合わせ、ステージの背景のカーテンが開いて夜景が現れる。東京の夜空に響く優しい歌声に彼女が伝えてきた愛や平和への想いを改めて感じる。そして、会場全体が温かい気持ちと笑顔と拍手に包まれて1stステージは幕を閉じた。

Text:Haruki Saito
Photo:Ryoji Fukumasa

◎公演情報
【元ちとせ Billboard Live 2022~在りし日の鐘が鳴る~】
2022年11月7日(月)東京・Billboard Live TOKYO

<セットリスト>

1.あなたの夢で目覚めた朝に
2.雫
3.腰まで泥まみれ
4.虹の麓
5.夏雲雀
6.ワイド節
7.漣の声
8.五坪ほどの土地でも
9.ワダツミの木
10.えにしありて
11.暁の鐘
En1.ひかる・かいがら
En2.感謝