<ライブレポート>米津玄師「“人間に戻る旅”だった」2年半ぶりのツアーで圧巻パフォーマンス

2022/11/02 18:11

<ライブレポート>米津玄師「“人間に戻る旅”だった」2年半ぶりのツアーで圧巻パフォーマンス
<ライブレポート>米津玄師「“人間に戻る旅”だった」2年半ぶりのツアーで圧巻パフォーマンス


 10月27日、米津玄師が全国ツアー【米津玄師 2022 TOUR / 変身】のファイナル公演を埼玉・さいたまスーパーアリーナにて開催した。
 この日のライブは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中断を余儀なくされた2020年の【米津玄師 2020 TOUR / HYPE】以来、約2年半ぶりとなる全国ツアーの最終日。そこで見せてくれたのは、一つひとつの楽曲ごとに目を見張るようなアイディアや壮麗な演出を盛り込み、その豊かで奥深い音楽世界に観客全員を惹き込むようなステージだ。スペシャルなゲストの登場もあった。米津自身もMCで「人生は時にクソだけれど、今日だけはそうじゃなければいい。そんな思いでツアーを回ってきて、今夜もそれが叶う一日であってくれたらなと思います」と語っていたが、きっと、集まったオーディエンスの一人ひとりにとって記憶に深く残る体験になったはずだ。
 開演時刻を過ぎ暗転すると、まずはステージ両脇のスクリーンに、米津のオリジナルキャラクター“NIGI Chan”が車を運転し、地下駐車場に入っていく映像が映し出される。車を降りた“NIGI Chan”がトランクから緑色のジョウロを取り出し、駐車場のエレベーターに乗り込み上に向かうと、ステージ中央の巨大なモノリス、縦型LEDビジョンにエレベーターの光がせり上がってくる。チン、と目的の階に到着した音が鳴ると、扉が開き、ジョウロを持った米津が登場。大きな拍手に迎えられ1曲目に披露したのは「POP SONG」だ。身体を揺らしながら高らかな歌声を響かせた米津が花道に歩みを進めると、ジョウロを突き出しながらベルトコンベアに乗ってミュージック・ビデオの一場面のような華麗な移動を見せる。目を奪われるようなオープニングだ。
 「さいたま!」と米津が告げ、続く「感電」では、中島宏士(Gt)、須藤優(Ba)、堀正輝(Dr)というバンドメンバーに加えて、辻本知彦率いるダンサー・チーム“TEAM TSUJIMOTO”がステージに登場。バンドが奏でる躍動感たっぷりのグルーヴに乗せ、ダンサーたちがダイナミックなパフォーマンスを見せる。続く「PLACEBO」では、センターステージに米津が歩み出て、高らかに歌い上げる。米津とダンサーたちをピンク色のライトが照らし、ステージと花道床面のLEDも光る。華やかな演出に魅了される。
 「どうもー! 米津玄師でーっす!」とハイテンションに挨拶した米津は、「思い残すことのないように全部ここに吐き出して行こうと思うので、最後までおつきあいよろしくお願いします」と告げる。続くセクションでは、ステージからバンドメンバーが去り、広いステージを使って奥深く美しい歌の世界にオーディエンスを連れていくような展開だ。鉱石のような美しい映像を背後に米津が迫力に満ちた歌声を響かせ、辻本知彦がストイックな身体表現を見せた「迷える羊」。無数の青い照明の光が鳥かごのような形で米津を包むなか、感情を丁寧にすくい上げるように歌っていく「カナリヤ」。その曲後半で照明の光がパーッと広がり、背後頭上の映像に映し出された小窓からカナリアが飛び立つ演出もとてもドラマティックだった。続く「Lemon」では、その小窓から柔らかに光が差し込むなか、ステージ中央に米津が立ち、歌う。力強くも優しい歌声が、曲の持つ荘厳な情感を伝えてくる。そして「海の幽霊」では、海を思わせる青い照明が会場を包み、『海獣の子供』のアニメーション映像を背後にマイクを力強く握りしめた米津が、朗々と歌声を響かせる。息を呑むような瞬間が次々と訪れる。
 MCで米津は「このツアーで初めてコンタクトレンズをつけたんですけれど、みんなの顔がめちゃめちゃよく見えます」と観客に語りかける。「次にやる曲は、こないだ結婚した友達がいて、そいつに捧げた曲です」と、菅田将暉への提供曲「まちがいさがし」をセルフカバーで披露。メインステージには再びバンドメンバーが揃い、椅子に座った中島がガットギターを爪弾く。新たなライブアレンジでの演奏だ。「アイネクライネ」では米津がギターをかき鳴らしながら歌い、続く「Pale Blue」では花道で優雅に舞う男女二人のダンサーが目を引きつける。曲間にはアンビエントや残響音、軽いセッションが挟まれ、バンドの演奏が途切れない形で次々と楽曲が披露される。「調子どう、みんな? 楽しんでいこうね」と声をかけ、続けては「パプリカ」。茜色の照明に照らされ、ゆっくりと昇降していくステージに腰掛けて声を揺らして歌う米津の背後に、花火や大きな月など郷愁を誘う映像が映し出される。ダンサーたちがステージを駆け回り、曲後半では無数の紙吹雪が舞う。幻想的な光景に惹き込まれる。
 続くMCで米津は、2年半ぶりのツアーを経て感じたこと、思ったことを訥々と語った。観客が声を出せないという制限下でのライブについて「始まる前には不安だったんだけど、いざ始まってみれば、そんなに変わるもんじゃないな」と率直な感想を語り、「自由に楽しんでくれたらって話ですね。みんな好きにいてほしいと思います」と観客に呼びかける。「帰ったらまたイヤなことがいっぱいあるでしょう。やりたくないこととか、神経に触れるような出来事がまったくない人はいないと思う。人生はクソだなあと思う瞬間はいつになっても絶えないけれど、今日くらいはそういうことがまったくない一夜を過ごせたら」と語った。
 続けては「次の曲は、もういない親友のために歌っていいですか」と告げた「ひまわり」。ギターをかき鳴らし、迫真のシャウトを響かせる米津の姿に、大切な感情を解き放っていくような熱量を感じて、胸を揺さぶられる。「アンビリーバーズ」では「楽しんでいこうね!」と告げた米津がダンサブルなビートに乗せて跳ね回りながら歌い、ハイテンションな曲調に会場の熱気がさらに高まった「ゴーゴー幽霊船」を経て、「ピースサイン」では右手を高々と掲げて歌う。力強いバンドサウンドと歌声でどんどん興奮を呼び覚ましていくような展開だ。そして「表記未対応(※正式表記は、Aliceの中国語簡体字表記)」では、米津が「ギター、常田大希!」と告げて、この曲の共同アレンジとギターに参加した常田大希(King Gnu/millennium parade)を呼び込む。サプライズの登場に客席がこの日一番の驚きに包まれるなか、米津と常田は向かい合って演奏に没頭。かきむしるようにギターを弾く常田の姿も印象的だった。
 「調子はどう?」と常田が言い、MCで感謝を告げ合う二人。「こないだ二人で一緒に筋トレしたんだけど」と「KICK BACK」のミュージック・ビデオの話題になると「やばいね、あれ」と笑い合い、拍手が巻き起こる。「彼が出てきたとなれば、みんなわかると思うけど、次が最後の曲です。みんなと一緒にやりたいと思います」と、常田が共同アレンジに参加したテレビアニメ『チェンソーマン』オープニング・テーマの最新曲「KICK BACK」を披露。ステージには炎が燃え盛り、ダンサーたちが躍動し、常田が拡声器を持って叫ぶ。米津の手持ちカメラがモノリスに映し出され、バンドやダンサー、常田を映しながら、自身もカメラに向かって荒々しい声でシャウトする姿は衝撃の演出で、この日一番の狂騒のパフォーマンスでクライマックスを作り出し、熱狂のなか、ライブ本編を締めくくった。
 会場全体の大きな拍手に応え、再びステージに登場した米津は、ステージ中央に設けられた座布団に落語家のように正座する。アンコールの1曲目は「死神」だ。続く「ゆめうつつ」は、シャボン玉が舞うなか、しっとりとしたバンドの演奏に乗せて柔らかな歌声を届ける。
 メンバー紹介を経て、米津はツアーの思い出を振り返る。「コロナ禍で外に出ず、家で曲を作ったり映画を観たりする日々が続いていて、そういう生活は苦じゃないタイプなんだけど、それを2年くらい続けていたら身体がバキバキになっていた。このツアーは“人間に戻る旅”だったような感じがします。このツアーのおかげで、人間に戻してもらった。来てくれる人がいるというのがどれだけ得難いことかというのを痛感したツアーだったと思います」と、久しぶりの再会となったファンへの感謝の思いを語った。
 再びTEAM TSUJIMOTOの面々を呼び込むと、続く「馬と鹿」は花道のベルトコンベアを巧みに使い、米津を中心にダンサーたちが互いに追い抜き追い抜かれるさまを見せる、迫真のパフォーマンスを繰り広げる。圧倒的な歌唱力に豊かな身体表現が加わり、感動的な光景を作り上げていた。
 そしてラストは、ステージに一人残った米津が歌った「M八七」。ビジョンに映し出されたクリスタルの煌めきも、光に包まれながら伸びやかな歌声を届ける米津の姿も、どこか崇高なものを感じさせる。中間部でミラーボールから放たれた無数の光にも目を奪われた。
 すべての曲を歌い終えると、米津は大きな拍手に送られながらステージを下りた。モノリスに現れたエレベーターが下降すると、冒頭と同じ地下駐車場の光景。エレベーターの扉が開くと、そこには“NIGI Chan”の姿が現れる。車に乗り込み、夜の街をドライブする映像からエンディングへ。まさに“変身“というツアータイトルの意味を観客全員が噛みしめるような演出だ。現実と夢の世界とが交錯するような余韻を残し、ライブは終了した。
 胸が高まる瞬間、鳥肌が立つような瞬間のたくさんあるステージだった。ボーカリストとしての米津の新たな境地も体感したし、彼のエンターテイナーとしての気概のようなものにも触れた気がした。終演後には次のツアー【米津玄師 2023 TOUR / 空想】も発表された。今度はどこに連れていってくれるのか、楽しみになるような終幕だった。
Text:柴那典
Photo:太田好治/立脇卓/横山マサト/八尾武志

◎公演情報
【米津玄師 2020 TOUR / 変身】
2022年10月27日(木)
埼玉・さいたまスーパーアリーナ

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