<ライブレポート>Kroi、アクシデントさえもグルーヴで包み込んだ初のフリーライブ【TAKE OFF】
<ライブレポート>Kroi、アクシデントさえもグルーヴで包み込んだ初のフリーライブ【TAKE OFF】

 Kroiが、8月12日に【Kroi FREE LIVE「TAKE OFF」@Zepp Haneda】を東京・Zepp Haneda(TOKYO)にて開催した。

 同公演はタイトルの通り、7月27日にリリースされた2ndアルバム『telegraph』封入の応募券で当選したファンを招待して開催されたフリーライブ。YouTubeでも同時配信が行われ、現地のみならず、画面の向こうのファンも踊らせた約1時間となった。

 今回は、1階の客席フロアのど真ん中にステージが組まれるスペシャルなセッティングに。拍手に包まれながら暗いままのステージにメンバー5人が続々と登場すると、機内アナウンスを模した開演前アナウンスが流れ出した。公演タイトル、また羽田空港のすぐそばという会場の立地にかけたユニークな演出に、思わずニヤッとしてしまう。

「気持ちのシートベルトを外していただけますよう、よろしくお願いします。よいフライトを」とアナウンスが締めくくられ、注意喚起音がカウントのように響くと、そのまま1曲目「熱海」がスタート。ステージ上で5人が内向きの円を作るポジショニングでセッションが繰り広げられるさまは、いつものライブというより、まるでKroiのプライベートセッションをのぞいているかのような新鮮な感覚におちいる。

 さわやかなサウンドで会場にリゾート感あふれる風を吹かせたあとは、すぐに「Juden」へ。繰り返される<止めなきゃ日々Confusion>のフレーズ、また内田怜央(Vo. / Gt.)の叩くボンゴと、益田英知(Dr.)のシンバルのアレンジが疾走感ある楽曲に陽気なスパイスを加える。途中のソロの掛け合い、内田のシャウトのようなフェイクもテンションを加速させ、それに自然と手を高く挙げて応える観客の姿も印象的だった。

 MCでは、なんと長谷部悠生(Gt.)のギターにトラブルが起きていたことが明かされる。「俺たちのアドリブで繋いだのがうますぎて、みんなギターがトラブってたのわかんなかったんじゃない?(笑)」とメンバーも笑いとばしていたが、まさにそんなピンチも感じさせない、彼らのスキルの高さを実感させられるエピソードだ。

 内田の小気味よいギター(今回はエレキ)から始まる「selva」は、落ち着いたコーラスでのスタートと、Aメロ以降に爆発する演奏とのコントラストが面白い一曲。原曲より少し早いBPM、より“爆発的”ともいえるような力強いボーカルと演奏に、身体を揺らさずにはいられない。そのままスムーズな繋ぎで「Page」へ流れこむと、リズミカルなイントロのコーラス部分から自然と手拍子が起こる。サビではまばゆい照明のなかで長谷部もリズムにあわせ飛び跳ね、観客も手を大きく挙げて力いっぱいこのグルーヴに応えているようだった。途中、アース・ウィンド・アンド・ファイアの「Let’s Groove」をサンプリングとして入れ込むところも、彼らのバンド名の由来にもなったブラック・ミュージックへのリスペクトがひしひしと感じられる。

 和気あいあいとしたMCを挟むと、ゴージャスなイントロのハーモニーから「Drippin’ Desert」がスタート。千葉大樹(Key.)の浮遊感たっぷりのシンセが響くAメロから、曲が進むにつれ、長谷部のカッティングギターと関将典(Ba.)のスラップベースの粒立ったビートにどんどん乗せられていくようなアレンジがなんとも心地よい。内田のラップも原曲よりフリーキーに聴こえてきた。

 先の「Drippin’ Desert」で、実はコーラス用のマイクをセットし忘れていたという益田の失敗エピソードでひと笑いしたのち、「じゃあ新曲ゾーンですね。緊張する曲パート2いきます」と関が語ると、ベースソロが繰り出される。そこから流れ込んだのは、アルバム『telegraph』収録の「Not Forever」だ。これまでのとことん飛び跳ねさせるようなサウンドとは一転、穏やかに横ノリできるチルなサウンドが心地よい。そのまま、同じく『telegraph』収録の「Airport」に続くと、観客もギターとエレピの甘い音色に身を委ね、うっとりと聴き入っていた。

 「ここからブチ上げゾーンだと思いますので、みなさん踊って帰ってください!」との予告ののち、内田のシャウトからスタートしたのは「Small World」。イントロのギターや、間奏のキーボードソロではサイケデリック・ロックの雰囲気を感じさせる一方、内田のラップと相性のいい、ギターメインのカラッとしたAメロ、優しくしっとり落ち着かせるBメロと、ひとつの曲のなかでコロコロ変わる音色が面白い。「HORN」では、曲の持つさわやかな疾走感はそのままに、2番頭でのブレイクなどスキルフルな遊び要素が入ってくるアレンジが効いていてたまらなく楽しい。セッション感たっぷりのアウトロでは内田のフェイクにも熱がこもっていき、何よりKroiの5人がこの演奏を心から楽しんでいることが伝わってくる。

この疾走感のまま続いた「Network」は、内田のラップを支える関のスラップベースがとことんファンキーなナンバー。2番頭では、会場も暗転し完全な無音状態(内田が小声で「まだよ!」と声をかけているのがお茶目だ)からの完璧な入りを披露し、思わず頭を振ってしまう観客の姿も。

 「(今日は初めて)イヤモニつけてるからカウントの音が聴こえない!(笑)」と、またまた訪れたアクシデントに笑い合うと、関と千葉の「ムードちょうだい!」との声に合わせて照明が落ちる。千葉がしっとりとエレピのリフを奏ではじめ、「WATAGUMO」がスタートした。これまでのフリーキーなそれとは違い、歌いあげるようなエモーショナルさを見せる内田の歌い方が魅力的だ。そして、関の這うようなベースリフに乗せた「なんとなんとKroiちゃん、ラスト1曲でございます。悲しい~!」との内田のお茶目なMCに続けて、ラストナンバー「Fire Brain」へ。イントロでのセッションですでに観客の熱気は最高潮になる。それに応えるように、シャウトのような力強い内田のボーカルがグルーヴィーに響いた。途中、ブレイクで観客の手拍子を煽ると、その後は爆発するようにセッション感たっぷりの演奏へ。また、曲が終わったと見せかけて、ふたたび爆速でのセッションが続く……といったアレンジも。その場の盛り上がりと比例するように熱を増す演奏に酔いしれたまま、ライブは幕を下ろした。

 圧倒的な演奏技術から繰り出されるアドリブの応酬と、メンバー間でも笑いの絶えない楽しげなMCの緩急こそ、Kroiをライブで観ることの大きな意味だと私は思う。今回のフリーライブでも、アクシデントさえもエンターテインメントに変えるスキルの高さを見せつけた。9月からはさっそく初の全国ツアー【Kroi Live Tour 2022 “BROADCAST”】の開催を控えている彼ら。今度は全国各地で、思う存分観た人たちを楽しく踊らせてくれることだろう。

Text by Maiko Murata
Photos by jacK

◎公演情報
【Kroi FREE LIVE「TAKE OFF」@ Zepp Haneda】
2022年8月12日(金)
東京・Zepp Haneda(TOKYO)