<ライブレポート>Anonymouzが“希望”の花を咲かせた単独公演【Daisy】

2022/08/05 18:37

<ライブレポート>Anonymouzが“希望”の花を咲かせた単独公演【Daisy】
<ライブレポート>Anonymouzが“希望”の花を咲かせた単独公演【Daisy】


 2019年3月からYouTubeでの動画投稿を中心に活動を開始したAnonymouz。アーティスト名が示す通り、本名や素顔を隠した状態でキャリアを歩み始めた彼女だが、YouTubeでは様々なJ-POPの名曲を独自解釈した英語翻訳で歌い上げ、単なるカバーの枠に留まらないユニークなセンスが注目を集めつつ、CMソングやドラマ主題歌への起用なども経て、着実にアーティストとしてステップアップを重ねてきた。
 そんなAnonymouzが7月16日、渋谷WWWにて単独公演【Anonymouz Live 2022 ~Daisy~】を開催。単独公演としては昨年5月の恵比寿LIQUIDROOM、そして今年1月の日本橋三井ホールに続く自身3度目となる今回、タイトルに据えられたのは“希望”の花言葉を持つ“Daisy”。9月には“愛のメッセージ”の花言葉を持つ“Iris”を表題にした公演も予定されている。内容はそれぞれ異なるコンセプトになるそうで、おそらくセットリストも変わるだろうことを考えると、この地続きの両公演で彼女は、カバーにしろオリジナルにしろ真摯に楽曲と向き合い、音楽への愛と豊かな表現力を歌に注ぎ込んできた3年間の経験値を惜しみなく発揮してくれるにちがいない。
 定刻を迎え、蔦が絡まったスタンド・マイクがピンスポットによって照らされる幕開け。続いて紗幕に映像が投影されると、バンド・メンバーとAnonymouzがオンステージ。セピア色の海面が真っ白に覆われる映像の変化を経て、ショーは1st EP『No NAME』収録曲の「Wonders of Art」でスタートした。周囲の人間関係に馴染めず、自分らしさや主体性を抑圧される環境の中で、自分の居場所を大切に守ろうとした学生時代、そんな彼女のバックグラウンドともリンクするこの曲を、キーボードの物悲しい音色が退廃的な空気感に拍車をかける。この日のバンドは、キーボードにクレハリュウイチ、ギターに林利通を迎えたトリオ編成が基本フォーマットで、同期のバック・トラックに生演奏の生命力を吹き込む役割を担う。
 攻撃的なサウンドとリリックで思いっきりガール・クラッシュしてみせる「Lips」にしろ、火遊び的な恋の抗いがたい誘惑を歌う「Thrill」にしろ、冒頭のセクションはAnonymouzの尖った感性、そのパーソナリティの生々しい深淵の部分を覗き見るような感覚だ。間髪を入れず始まった1st EP表題曲「No NAME」は、そうした彼女のリアルで切実な心情が直反映された、Anonymouzのはじまりの1曲。
<You just took one look at me/You thought you knew everything(あなたは私を一目見て、私のすべてを知った気になっている)>
<I hid my name/I hid my face/Just listen to me now/You will see what's in my heart(私は名前を隠した。私は顔を隠した。今すぐ聴いて。あなたは私の心の中にあるものを見るだろう)>
 雨音とピアノの音色が重なり、一転して優し気な歌声を紡ぎ出した「Eyes」は最初の展開部で、暗闇の中に一筋の光が差し込むような、鬱屈や抑圧からの解放を予感させるような一幕に。視覚的な演出も、序盤は幾何学模様やビビッドなカラーリングによる不穏な空気感を基調としていたのに対し、このあたりから温もりを感じさせるアブストラクトな光の表現が増えていく。アコギとキーボードのミニマム編成とシンプルなライティングで届けた「シンデレラボーイ」(Saucy Dog)の英語カバーは、多くの音楽リスナーに馴染み深いヒット・ソングを介して、Anonymouzの表現世界にリスナーを招き入れる間口の役割を果たすカバー企画の一環という点も含めて、対リスナーとの親密な空間を生み出したパフォーマンスだった。その後も、過ぎ去った恋を想い、それでも前を向き進もうとする優しい力強さに鼓舞される「Unbreak」や、EP『Essence』に収録される「東京フラッシュ」(Vaundy)など、オリジナルとカバーを交えながら多彩な歌声の表現力をアピールしていく。
 本人によると「可愛い恋の始まりの曲」だという「Pink Roses」と、「もし疲れちゃったら全部放り投げてもいいよという曲」と紹介された「03」は、リリース前の新曲をお披露目する流れ。ベッドルーム・ポップ的なトラックのミニマリズムと脱力ラップも交えたボーカルのピュアな響きが際立つ「Pink Roses」も、ポツポツと点描のように置かれていくシンセとマシン・ビートに幼気な歌声、端正なファルセットが映える「03」も、Anonymouzのディスコグラフィに新しいエッセンスを加える意欲作というべき仕上がりで、彼女の歌のアウトプットが継続的に拡大中であることがわかる。
 「特別なゲストをお迎えしています」と招かれたのは、藤井風の実の兄で、自身も楽器奏者として音楽活動を行っている藤井空。ドラマ『嫌われ監察官 音無一六』主題歌として起用された「カタシグレ」を、雄大な自然を切り取った映像を背負ってパフォーマンスすると、藤井はキーボードからトランペットへ楽器を持ち替え、ともにYOASOBIの「夜に駆ける」の英語カバーへ。
 続く「Don't Need the Pain」で再び会場の空気を引き締め、緊張感を取り戻したところで、メンバー紹介を挟み未発表の新曲「Melodies」」(出光興産 新テレビCM「手紙」篇CM楽曲)をパフォーマンス。叙情的なピアノの旋律に導かれるように泣きメロを奏でる歌声も驚くほど伸びやかになっていく、ポップ・ソングとしての確かな求心力を秘めたバラード・ソングで、正式な音源化が早くも待ち遠しいプレゼントになった。心地いい横揺れグルーヴのアーバンなR&Bナンバー「Hide&Seek」にしろ、ピアノが跳ね踊るエレクトロ・ポップでオーディエンスのハンド・クラップを巻き起こした「Snake Love」にしろ、その指揮棒を振るのは紛れもなくAnonymouzの変幻自在に表情を変えるボーカルで、意外にもフロントマンとしてのアイコニックな存在感に驚かされたのがこのあたりだ。
 改めて今回の公演について「デイジーって太陽の光の下でしか咲かない花なんだって」「この夜を越えて、雨を越えて、その向こうへっていうテーマで準備してきました」とAnonymouz。最後は、そんな彼女の「新しい一面が見せられると思う」という次回公演“Iris”への期待値を高めつつ、アカペラの歌い出しからピアノ、ギターと順番に重なっていき、やがて荘厳なサウンド・スケープでフィナーレを結ぶ「In Our Hearts」へ。演者が去り、ふとステージに目を向けると、マイク・スタンドに絡まっていた蔦にはいつの間やら花が咲いている。
 表現者としての確実なステップアップを感じさせるとともに、Anonymouzというアーティストの軌跡、“名前のない少女”が明けない夜はないと信じ、“希望”を追い求める成長の物語、その第一章を総括するようなメモラブルな一夜だった。
Text:Takuto Ueda

◎公演情報
【Anonymouz Live 2022 ~Daisy~】
2022年7月16日(土)東京・渋谷WWW
<セットリスト>
01. Wonders of Art
02. Lips
03. Thrill
04. No NAME
05. Eyes
06. シンデレラボーイ
07. Unbreak
08. 東京フラッシュ
09. Pink Roses
10. 03
11. カタシグレ
12. 夜に駆ける
13. Don't Need the Pain
14. Melodies
15. Hide&Seek
16. Snake Love
17. In Our Hearts

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