『ドーンFM』ザ・ウィークエンド(Album Review)

2022/01/11 18:32

『ドーンFM』ザ・ウィークエンド(Album Review)
『ドーンFM』ザ・ウィークエンド(Album Review)


 2020年3月にリリースした前作『アフター・アワーズ』は、翌4月に初登場から4週連続で首位を獲得し、「Heartless」(2019年12月)、「Blinding Lights」(2020年4月)、「Save Your Tears」(2021年5月)の収録曲3曲が、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で3年連続1位を獲得するという史上2人目の快挙を達成した。中でも、「Blinding Lights」は同チャートでTOP10滞在記録を歴代最長の57週に更新し、2020年の年間チャートで首位、2021年は3位にランクインする史上最高のモンスター・ヒットとなったのも記憶に新しい。
 本作『ドーンFM』は、その『アフター・アワーズ』が大ヒットしている最中に制作を開始したという自身5作目のスタジオ・アルバム。 新型コロナウイルスの終息にかけて「このパンデミックが終わるまでに次のアルバムをリリースする可能性がある」と示唆し、そのタイトルを「夜明け」を意味する『ザ・ドーン(The Dawn)』と発表していたが、最終的には“Dawn FM”と名付けられた。後述にもあるが「FM」の意味についてはアルバムをお聴き頂ければ理解できるだろう。
 プロジェクトは、昨年8月にリリースした1stシングル「Take My Breath」に始まり、10月にはラジオ番組でアルバムが完成したと発表。翌11月のインタビューでは本作のテーマについて述べ、年明けには自身のSNSでリリースとトラックリストを告知した。直前に公開したティーザー動画では、完成に至るまでのプロセスやコンセプト、年老いた自身を画いたカバー・アートなどがお目見えする。
 スペイシーなデジタル・サウンドをバックに「あなたは今、ドーンFMを聴いています」というナレーションではじまるタイトル曲「Dawn FM」は、長年ヒット曲に携わってきたマックス・マーティンとオスカー・ホルター、そしてワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(OPN)がプロデュースを担当。サイケデリックなラジオ・ステーションは、そのOPNが一昨年の秋に発表したアルバム『マジック・ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー』とも類似する。実質上のオープニング曲である次の「Gasoline」も3者によるプロデュースで、前作に続き80年代直系のUK(風)テクノがたのしめる。曲調にフィットしたラップを絡めたボーカル・ワークもいい。
 続いて3曲目の「How Do I Make You Love Me?」は、スウェディッシュ・ハウス・マフィアが手掛けたプログレッシブ・ハウス。フロア映えするサウンド・プロダクションは、彼らの出身地であるスウェーデンをはじめヨーロッパ諸国で受けが良さそうだ。スウェディッシュ・ハウス・マフィアとは、昨年10月にリリースした「Moth To A Flame」で共演したばかりで、人間の欲望をコンセプトとしたミステリアスなMVも話題となり、オーストラリア(8位)や本国スウェーデン(5位)などでTOP10入りするスマッシュ・ヒットを記録した。本作では、2ndシングルとしてカットした後述の「Sacrifice」でも共作している。
 「How Do I Make You Love Me?」のアウトロから間髪入れずにはじまる「Take My Breath」は、イントロ~インタールード~アウトロがフロア使用のロング・バージョンとなっている。キャッチ―なサビ、毒々しさを緩和させたシンプルな歌詞、スリリングな展開の煌びやかなMV……と文句のない出来栄えだが、前作からの流れからすると若干マンネリ感否めず、チャート・アクションも伸び悩んだ印象。しかし、アルバムの趨勢からすると類稀な存在感を放っている。オープニングから途切れることなく続いたシンセウェーブの波はこの曲で完結し、新章「Sacrifice」へ……。
 「Sacrifice」は、『アフター・アワーズ』より前々作『スターボーイ』(2016年)路線のディスコ・ファンクで、本作にも「I Feel It Coming」で共演したダフト・パンクや故マイケル・ジャクソンを彷彿させるパッセージが見受けられる。“80年代初期”をニオわせるのは、アリシア・マイヤーズのディスコ・クラシック「I Want to Thank You」(1981年)をサンプリングしているからだろう。フロアで倒れたザ・ウィークエンドがトラップに引きずり込まれる「Take My Breath」の続編となるミュージック・ビデオも完成度高く、本作のハイライトともいうべき活況を呈した。
 本作のハイライトといえば、レジェンドのキャリアを振り返ったクインシー・ジョーンズによるインタールード「A Tale By Quincy」~「Out of Time」もそのひとつ。「Out of Time」は、J-POPが誇る亜蘭知子の3rdアルバム『浮遊空間』(1983年)に収録された「Midnight Pretenders」を下敷きにした風通し良いミディアムで、マイケル・ジャクソンの名作「Human Nature」や同曲を手掛けたTOTO等、80年代AORの真骨頂が伺われる。昨今、竹内まりやの「PLASTIC LOVE」(1984年)をはじめ、海外で日本のシティ・ポップがフィーバーを起こしているが、ザ・ウィークエンドがその波に乗ったことで、さらに注目度が高まる可能性も……?この曲がシングル・カットされチャートにトップに立ったら、J-POPでは故坂本九の「上を向いて歩こう(SUKIYAKI)」(1963年)以来の快挙となる。なお、同曲を手掛けたのは、後にTUBEやZARDの仕事でヒットを連発する織田哲郎だ。
 ラジオのナレーションで繋ぐ次曲「Here We Go… Again」も穏やかな空気感のメロウ・チューンで、中盤のこの2曲はアルバムの“休息”的な役割を果たしている。ゲストとして参加したのは、ステージネームを本名に戻すと公言したことが話題となっているタイラー・ザ・クリエイター、そしてキーボードとバックコーラスを務めたザ・ビーチ・ボーイズのブルース・ジョンストン。ソングライターには、リアーナやシアラ、クリス・ブラウンのヒットを手掛けるブライアン・ケネディもクレジットされている。ザ・ウィークエンドは、これまでのキャリアをタイトルの如く“前向き”に捉え、無理にねじ込んだ感のない、タイラーとの相性良いコラボレーションを披露した。
 続いては、デビュー作『キッスランド』(2013年)からすべてのアルバムに携わっている同カナダの奇才、DaHealaプロデュースの「Best Friends」。同曲からテイストが一変し、往年のザ・ウィークエンドらしい不穏な気配を漂わすダーク・ウェーブが包み込む。ここでいうベスト・フレンズは、真のベストではない恨み節……か?
 この曲から繋ぐミディアム「Is There Someone Else?」~抑揚の無さが刹那的な「Starry Eyes」も、初期の作風に近い。この2曲は、アリアナ・グランデの主要プロデューサーとして活躍しているトミー・ブラウンとの共作で、個人的には彼女に匹敵する相性の良さをみせたと賞賛したい。ここで「Best Friends」からの局(流れ)が完結し、天使の毒々しい真相を番組仕立てで訴える長編インタールード「Every Angel Is Terrifying」へ……。
 テクノをバックにお届けする「Every Angel Is Terrifying」に続くのは、『スターボーイ』の人気曲「Die For You」の歌詞を一部使用した「Don't Break My Heart」。スタイリッシュなサウンドは、80年代中期のエレクトロ・ファンクっぽくもあり、00年代初期のUKソウルにも聴こえる。また、2013年にヒットしたドレイクの「Hold On, We’re Going Home」を彷彿させるステップもあり、幅広い年代に受け入れられそうな傑作だ。
 この曲もすばらしいが、リル・ウェインをフィーチャーしたカルヴィン・ハリス作の次曲「I Heard You're Married」も、夜のネオンが映えるお洒落で爽快なスムース&メロウで、甲乙つけがたい良曲が続く。結婚~離婚を経ても様々なゴシップにまみれているリル・ウェインだが、この曲ではその真意に迫る一面も……?
 実質上のエンディング曲「Less Than Zero」が、またいい。30~40年前の映画やゲームのエンディングが蘇るノスタルジックなシンセ・ポップで、甘く軽快なメロディー・ライン 、重奏するハーモニー、デジタル・サウンドからアコースティックに切り替えて幕を閉じる演出等、どの世代が聴いても嗜好が違えど「いい曲」だと頷かせる説得力がある。ラストは、同郷カナダを代表する俳優・コメディアンのジム・キャリーによるアウトロ「Phantom Regret by Jim」で、パンデミックと番組の終わりを告げ、50分強のストーリー仕立てなラジオは終了する。
 過去4作、特に前作『アフター・アワーズ』は“闇”が深かった印象だが、本作はタイトルにもあるように“夜明け”が訪れたようなう感覚がある。パンデミックの影響か、年齢的なものか、理由は定かでないが、これまでとはひと味違うザ・ウィークエンドの世界観が堪能できるだろう。インタビューでも話していたように、世界と自身の平和を見出すためのファースト・ステップだ。
 サウンドは、前述にもあるプリンスからマイケル・ジャクソン、ダフト・パンクにケンドリック・ラマー、テーム・インパラなど、年代・ジャンルを超越した斬新なアイデアに満ちていて、且つ過去の作品を愛聴する往年のファンも肩を落とすことのない仕上がりとなっている。それは、悲惨さや自己嫌悪感を緩和させた解放感のある歌詞もとい。
 『アフター・アワーズ』がリリースされてからの約2年間は、毎日数十万人が病で倒れ、悪いニュースが飛び交い、世界中が淀んだような雰囲気と恐怖に襲われたが、本作『ドーンFM』はその夜明けが訪れ、新たなスタートを切った象徴となるだろう。 
 サウンドは、前述にもあるプリンスからマイケル・ジャクソン、ダフト・パンクにケンドリック・ラマー、テーム・インパラなど、年代・ジャンルを超越した斬新なアイデアに満ちていて、且つ過去の作品を愛聴する往年のファンも肩を落とすことのない仕上がりとなっている。それは、悲惨さや自己嫌悪感を緩和させた解放感のある歌詞もとい。
Text: 本家 一成 

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