<ライブレポート>三月のパンタシア「自分自身の物語をありのままの姿で」 邂逅を経て、物語は新章へ
<ライブレポート>三月のパンタシア「自分自身の物語をありのままの姿で」 邂逅を経て、物語は新章へ

 透明色だった一人の少女がシンデレラ・ストーリーを駆け上がり、空想が現実になった瞬間が目の前に広がった――。

 ボーカリスト“みあ”を中心として、オリジナル小説を軸にネット音楽の様々なクリエイターと楽曲を生み出すクリエイター・プロジェクト、三月のパンタシアが11月27日に豊洲PITでワンマン・ライブ【物語はまだまだ続いていく】を開催した。

 今年6月にメジャー・デビュー5周年を記念した配信ライブ【もう一度、物語ははじまる】で「これまでよりもさらに極彩色の物語を描くこと」と「必ずあなたを今よりもっと楽しくて明るい場所に連れていくこと」を約束したみあ。昨年1月に開催したワンマン・ライブ【18時33分、冬もまた輝く】以来、有観客ワンマンとしては約1年10か月ぶりとなる本公演で、三月のパンタシアはあの日交わした約束を叶えた。

 1曲目は、ステージの紗幕にミュージック・ビデオの映像が投影された最新シングル「101」。紗幕の奥にみあの存在が確認できた途端、オーディエンスは立ち上がった。疾走感あるシンセのメロディーに合わせて、生命感に満ちた姿を覗かせていくみあ。紗幕に映り込んだ淡いパステル・ピンクの模様とピュアな恋心を表現するボーカルによるシナジー効果が甘酸っぱさをさらに引き立てた「ピンクレモネード」でも、こぶしを突き上げたり、全身をゆらゆらとなびかせたり、自由度の高いモーションを披露した。三月のパンタシアは、曲ごとにコンポーザーやイラストレーターが入れ替わるクリエイター・プロジェクトで、実質ボーカルはみあひとり。様々なクリエイターと作品作りができる柔軟性が、すべてを包み込むこの風柄の強さに映し出されているようにも見えた。

 紗幕上に淡いタッチのパステル・カラー模様が瞬く間に広がった「フェアリーテイル」に、小説『8時33分、夏がまた輝く』のEDテーマ「恋はキライだ」を続ける。みあが片手を大きく左右に振ることで、寄せては返す波が生まれた会場には、すでに一体感が生まれていた。ドラマティックな歌声だったり、囁く歌声だったり、めくるめくスピードで変わっていくみあのボーカリゼーション。常に新鮮な音楽性を生み出すことができるのは、コンポーザーを固定しない三月のパンタシア独自の妙味だ。緊迫感がリアルな温度で伝ってきたのは、虚しさを踊る音に詰め込んだ「パインドロップ」。三月のパンタシアは楽曲を通して、本当は言いたい本音を飲み込んでしまったときのもどかしさを描く一方、ライブでは届けたいことのすべてを全身全霊で届けていると思う。そんな姿に鼓舞されるように、客席の拍手が大きくなっていく。

 バラード「キミといた夏」で、みあのきらびやかな高音が紗幕に投影された打ち上げ花火のアニメーションとシンクロして打ち上がった後は、みあによる初の長編小説『さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた』の主題歌になった「夜光」。水が跳ねるかのごとく透明感あふれるエレクトロな「ミッドナイトブルー」では、ウィスパー寄りのトーンを響かせる。ビルドアップでその場を一回転しながら勢いよくジャンプしたみあに、客席の熱量も急上昇。

 会場が三月のパンタシアのカラーであるブルーのライティングに包まれたのは、2015年に初めてYouTubeに公開した初のオリジナル曲「day break」。ここまでは比較的、小説を軸にした楽曲の物語に没入することのできるセットリストが並べられていたものの、次のメジャー・デビュー曲「はじまりの速度」では想定外のサプライズもあった。イントロで突然落ちたステージの紗幕。そこから飛び出したのは、イラストレーターのダイスケリチャードが描いてきた、みあのキー・ビジュアルをリアル化した、みあだった。眩しいほどに明るくなったステージで笑顔を放ちながら曲を歌い終えると、割れんばかりの拍手が贈られた。これまでは照明を落とし、素顔を見せないスタイルでライブを行ってきただけに、このサプライズが今後の三月のパンタシアのメッセージ性をまた一段と輝かせることにつながるのは明白だった。

 MCで「今回のライブのテーマは“再会の喜びと幸福を分け合う”だったので、私もテーマに沿った光あふれるステージを作ってみたいなと思ったのがひとつと、まだみんなが十分に声を出せない状態の中で、お互いの表情をより見えやすくすることで、さらに音楽を感情的に共有できるんじゃないかなと思ってのチャレンジでした」と語ったみあは、フラグを掲げたまま「幸福なわがまま」「三月がずっと続けばいい」を客席と顔を合わせながら奏で、これまで素顔を明かしてこなかった理由についても、赤裸々に打ち明けた。

 「活動を始めたころは歌をうたうことだけで精一杯だったこともあって、三月のパンタシアの中での自分の役割は、誰かが紡いだ三月のパンタシアの物語をリスナーに伝えるという、いわば語り手だと思っていたんです。語り手のパーソナルな情報はあまり多すぎないほうが、みんなに楽曲の世界観に没入してもらえるんじゃないかと思って、素顔を公開しないスタイルを取ってきました……。でも、活動を続けていくなかで、自分でも音楽でこういう表現がしてみたいなとか、こういう想いを歌ってみたいなという気持ちがどんどん膨らんでいったんです。それで今、三月のパンタシアの音楽表現の軸になっている小説を自分で書き下ろすようになったり、作詞をするようになったり、少しずつ表現が変化していきました。以前は誰かの物語を伝える存在だったんですけど、今はみあの物語を伝える当事者としてみんなの前に立つようになりました。そういったなかで、いつかは自分自身の物語を素顔のまま、ありのままの姿で届けてみたいなと思うようになったんです」

 自身とファンの物語を描いた「ランデヴー」で、本公演のライブ・タイトルにもなっている<物語はまだまだ続いていく>というフレーズを晴れやかに歌い上げたあとのアンコールは、柔らかな日常を彩った「たべてあげる」から。「再会を祝福する歌です」と前置きして、新曲「幸せのありか」へ。「自分にとっての幸せって何だろう?」と考えながら心情を綴ったという手書きの歌詞が、気力旺盛なみあの姿と一緒にステージ上のスクリーンに映し出される。自身の幸せを見つけ、次の夢に向かって歩き出すポジディブな曲と、等身大のみあが重なり、あふれだした光。本公演を結んだ曲は、三月のパンタシアの門出を祝福するかのような拍手が響き渡ったギター・ロック・チューン「街路、ライトの灯りだけ」だった。

 2015年から始まった三月のパンタシアは、この日、たしかに新たなスタート地点に立った。自身の物語のレールを素直に歩いていくことを約束したみあが紡ぐ三月のパンタシアの音楽が、ここからどう色づいていくのかが、楽しみで仕方ない夜になった。

Text by 小町碧音
Photo by 鈴木友莉

◎公演情報
【三月のパンタシア LIVE2021『物語はまだまだ続いていく』】
2021年11月27日
東京・豊洲PIT
<セットリスト>
01. 101
02. ピンクレモネード
03. フェアリーテイル
04. 恋はキライだ
05. パインドロップ
06. キミといた夏
07. 夜光
08. ミッドナイトブルー
09. day break
10. はじまりの速度
11. 青春なんていらないわ
12. 醒めないで、青春
13. 幸福なわがまま
14. 三月がずっと続けばいい
15. ランデヴー
<アンコール>
16. たべてあげる
17. 幸せのありか
18. 街路、ライトの灯りだけ