『Still Over It』サマー・ウォーカー(Album Review)

2021/11/09 14:45

『Still Over It』サマー・ウォーカー(Album Review)
『Still Over It』サマー・ウォーカー(Album Review)


 米ジョージア州アトランタ出身。シザやエラ・メイ、H.E.R.、ケラーニなどの実力派と肩を並べ存在感を示す女性R&Bシンガーのサマー・ウォーカー。2018年にシングル「Session 32」でデビューし、同年発表のミックステープ『Last Day of Summer』が米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で44位、R&Bアルバム・チャートでは6位にランクインするスマッシュ・ヒットを記録。本作からは、ドレイクとコラボレーションした「Girls Need Love (Remix)」が米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で37位、R&Bソング・チャートでは2位の大ヒットとなり、名前が世に知れ渡るキッカケを掴んだ。
 以降の活躍・飛躍は見事なもので、ブライソン・ティラーをフィーチャーした「Playing Games」がHot 100で16位、R&B/ヒップホップ・ソング・チャートでは9位にそれぞれ最高位を更新し、同曲を収録したデビュー・アルバム『Over It』はBillboard 200で2位、R&B/ヒップホップ・アルバムとR&Bアルバム・チャートでは2冠を達成した。本作は、イギリス(7位)やカナダ(4位)でも初のTOP10入りを果たし、アッシャーの「You Make Me Wanna」(1997年)をサンプリングした本人参加の「Come Thru (with Usher)」もR&Bチャート5位のヒットを記録している。
 本作『Still Over It』は、2020年の【ソウル・トレイン・ミュージック・アワード】で<最優秀年間アルバム>を受賞したその『Over It』の続編となる2年ぶり、2作目のスタジオ・アルバム。これまでの作品や、90年代R&Bのジャケ写(トータルのデビュー作あたり?)にありそうなサングラス・ルックのカバー・アートからも予想できる通り、当時のR&B/ヒップホップ(ソウル)を基としたサウンド・プロダクションで構成されている。
 カーディ・Bのナレーションを起用したオープニングの「Bitter」をはじめ、どの曲にも彼女のむき出しの感情が綴られていて、前作以上に内省的な曲が多い印象を受ける。米アトランタの強みを発揮したクラブ・アンセムから、70年代まで網羅するメロウまでサウンドの幅も広く、歌唱もより濃厚な味わいがたのしめる。「Bitter」を手掛けたのは、彼女のビジネス&プライベートのパートナーでも“あった”同アトランタの音楽プロデューサー=ロンドン・オン・ダ・トラックで、その他収録曲2/3のプロデュースも彼が担当した。
 2曲目に収録された「Ex for a Reason」は、前月に発表したアルバムからのリード・シングル。現時点でソング・チャート“Hot 100”で56位、ラップ・チャートで18位、R&Bチャートでは6位に14曲目のTOP10入りを果たしている。シェイクスピア&キャンディのヒット曲を連想する90年代後期(風)のフロアライクなナンバーで、ゲスト参加した米マイアミ出身の女性ラップ・デュオ=シティ・ガールズのJTによるドスのきかせたハード・ラップもいいアクセントになっている。ソングライター/プロデューサーには、ヒットメイカーのブッダ・ブレスも参加。
 JTの他には、3曲目の「No Love」に前述のシザが、11曲目の「Unloyal」に米ワシントンD.C.出身の女性R&Bシンガー=アリ・レノックスが、そして最終曲「Ciara's Prayer」には彼女の思春期のスターでアトランタの女王シアラの3者が、女性アーティストとして参加している。「No Love」はヒップホップ“ノリ”のミディアムで、両者の黒さを纏ったボーカルが曲に彩りを添える。サウンドはシザっぽいといえばぽいが、彼女の曲とは若干ニュアンスが異なるというか、ラインをしっかり引いているところがいい。
 「Unloyal」は、サックスの演奏やボサノヴァっぽいビートなど、ジャズやワールド・ミュージックを随所に取り入れた意欲作で、アリ・レノックス独特のスタイル&存在感、スモーキーなサマー・ウォーカーのボーカルいずれも文句のつけどころがない、本作の中でも才気が最も溢れた秀作。「Ciara's Prayer」は、ピアノの演奏をバックにシアラが「結婚に至るまで」を間髪入れずに喋り倒すいわば“ソロ・パフォーマンス”で、単曲ではピンとこないがアウトロとしては絶妙。本人不参加のエンディングという演出もおもしろい。
 男性陣では、サイケ・ロックとヒップホップをブレンドしたような斬新なトラックがまさしく「トキシック」な「Toxic」に人気ラッパーのリル・ダーク、00年代中期のプロデュース曲(ケリス、シアラ、ビヨンセなど)を彷彿させる“らしい”パーティー・チューン「Dat Right There」にファレル・ウィリアムス(プロデュースはザ・ネプチューンズ名義)、バック・サウンドは添える程度に、ほぼアカペラに近い仕上がりのアダルトR&B「Screwin」には「Ice Box」(2006年)などのヒットで知られるオマリオンが参加している。男女ともいずれも知名度が高く、いわゆる「豪華客陣」と呼べる面々だが、決してゲスト頼りではない。
 サンプリング曲では、米オハイオの中堅R&Bシンガー=アヴァーントとキキ・ワイアットの「Nothing In This World」(2001年)を使用した「Throw It Away」や、モータウンのR&Bグループ=プロファイルの「Liar」(2004年)を早回しした「4th Baby Mama」がある。前者は、同アトランタのヒットメイカー=OGパーカーによるプロデュース曲で、ドラムとベースの低音、イントロ&アウトロのギターが映える都会的な雰囲気が“今の”サマー・ウォーカーにフィットした。後者は、dvsnのナインティーン85がプロデュースしたトラップで、絶妙なカットで小節を刻んでいく難易度の高いボーカルワーク、そしてロンドン・オン・ダ・トラックへの“あてつけ”とも“良好な関係の主張”とも、どちらともとれる歌詞も聴きどころ。ギターの演奏に歌うというよりは重い口調でリーディングしていく「Session 33」から、9thワンダーのジャジーなピアノの弾き語り「4th Baby Mama (Prelude)」~「4th Baby Mama」の3曲は、いずれも彼に対する“男性としての責任”について問いていて、本作で最も主張したい(であろう)思いの丈が綴られている。
 ロンドン・オン・ダ・トラック関連では、自由と自立を主張したずっしり重たくドス黒いスロウジャム「Reciprocate」や、90年代の音をそのまま再現したようなヒップホップ・ソウル「Circus」、ラップを絡めたトラップ・メロウ 「Closure」~ジャズの崩しを取り入れた独特のムードが、自身の持ち味と噛み合った「Insane」などでも“その主張”を繰り返している。メロウでは、アコースティック・ギターの演奏をバックに、ソフトな歌い回しで聴き手を魅了する「You Don't Know Me」や、ガールズ・グループの代表格SWVのような見事なコーラスと、ストリングスが奏でるゴスペル風のバック・サウンドが美しい「Constant Bullshit」、清涼感のあるハイトーン~ファルセットが舞う涼やかなネオソウル「Broken Promises」が好曲。
 「今の感情」を惜しみなく吐き出し、影響を受けて来たアーティストに敬意を込めたサウンド、自身に満ちたボーカルまで揺るぎない傑作続きの『Still Over It』。もう終盤に差し掛かっているが、2021年のR&Bアルバム大本命といえるクオリティで、各音楽誌の評価も軒並み高く、発売週末のストリーミングも好調。強豪もいないことから米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”でのNo.1デビューも期待できそうだ。実現すれば、シングル、アルバム両チャートいずれにおいても初の首位獲得作品になる。
Text: 本家 一成

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