<ライブレポート>羊文学【Hidden Place】最終公演、待望の有観客&配信のハイブリッド開催
<ライブレポート>羊文学【Hidden Place】最終公演、待望の有観客&配信のハイブリッド開催

 羊文学が9月24日、東京・USEN STUDIO COASTにて【羊文学 Tour2021 Hidden Place】の最終公演を開催した。

 バンドは2020年12月にメジャー・デビュー・アルバム『POWERS』をリリース、本作を引っ提げて1月からツアーを行う予定だったが、緊急事態宣言の発令に伴い、これが延期に。3月には配信ライブ【羊文学 Tour 2021 "Hidden Place" Online Live】を実施したが、楽曲をオーディエンスに直接届ける機会は持ち越しとなった。

 待望の有観客開催となった今回のツアーだが、最終公演では同時にライブ・ストリーミングも実施。その模様は一部無料でも配信された。『POWERS』のリード曲「あいまいでいいよ」がエアプレイを中心にじわじわと広がり、Billboard JAPANの新人チャート“Heatseekers Songs”にランクイン、菅田将暉と有村架純のW主演による映画『花束みたいな恋をした』の劇中でも、音楽好きの若者が共通の話題として挙げる羊文学は、次世代音楽シーンを担うロック・バンドとして強く期待される3人組であり、今回の最終公演の間口が広く開かれたことで、そんな彼女らの上昇気流はますます拍車がかかる形になったはずだ。

 最低限のライトが照らす薄暗いステージ上に、3人がゆるりと登場すると、塩塚モエカ(Vo/Gtの)のギターからフィードバックが漏れ出す。そのまま歪んだサウンドでイントロを奏で始めたのは、アルバムのオープニングを飾る「mother」。河西ゆりか(Ba)とフクダヒロア(Dr)が刻むリズムは極めてミニマムで、ポツポツと置かれていくその点描をなぞるように、塩塚の叙情的な歌声が揺蕩う。

 「こんばんは、羊文学です」と挨拶し、2曲目に披露したのは、2018年リリースの『オレンジチョコレートハウスまでの道のり』から「ブレーメン」。<音楽をならして/一番高い場所まで行こう/どうせいつになっても/自由なんかに なれやしない>というラインには、どうしても社会情勢との共振を感じずにはいられない。

 約2時間弱に及んだ今回のセットは、もちろん『POWERS』の楽曲を中心としつつ、こうして過去の作品からもチョイス。「変身」で<わたしだけが一番可愛くなきゃやだ/両手いっぱいのハッピーをつかんでなきゃ嫌だ/ごまかさないで、大変身よ!>と欲深く叫んだかと思えば、2017年の1st EP『トンネルを抜けたら』収録曲「踊らない」では<きみはかわいい/とてもかわいい/僕ではとても愛せない>と自嘲気味に歌う。作品を重ねるたび、羊文学が描くリリカルな世界はどんどん拡大されていく。

 3人のアンサンブルが絶妙に調和し、そのバランス感覚は保ったまま、後半一気に膨れ上がっていくサウンド・スケープが感動的な「砂漠のきみへ」を経て、約7分間の大作バラード「おまじない」へ。続く「花びら」への流れはアルバムの収録順と同じで、静から動への移り変わりが鮮烈な展開だ。2020年のEP『ざわめき』収録の「人間だった」に続き、アルバム『POWERS』表題曲の「powers」は、ポエトリー・リーディングな歌唱も織り交ぜた、小気味よく跳ね踊るナンバー。

 「子供のために書いた曲をやります」と語り、NHK Eテレ『NHK for School』内の音楽コーナー『ほうかごソングス』とのコラボレーション楽曲「ハロー、ムーン」以降、ノンストップで楽曲を投下。フクダもコーラス参加する「ロックスター」、ソリッドで疾走感のあるギター・ロック「Girls」と『POWERS』の2曲を披露したのち、「ブレーメン」と同じく『オレンジチョコレートハウスまでの道のり』から、オーディエンスのクラップと一体化した「涙の行方」、雲間から差し込む光芒のようなライトと浮遊感のあるサウンドで神秘的な空間を作り出した「マフラー」をパフォーマンス。最後は『POWERS』から「1999」「ghost」と続け、眩い光が溢れるなかでの「あいまいでいいよ」で本編を締めくくった。

 アンコール・パートでは、河西のグッズ紹介から始まり、TVアニメ『平家物語』オープニング・テーマの「光るとき」が近々リリースされること、そして12月に横浜、大阪のビルボードライブで公演を開催することをアナウンス。そして演奏を再開、まずはGOING STEADY「銀河鉄道の夜」のカバーを披露し、8月にリリースしたばかりの最新EP『you love』から、アニメーション映画『岬のマヨイガ』主題歌の「マヨイガ」をパフォーマンス、ミラーボールの演出も交えてドラマティックな一幕を作り上げ、ラストは『you love』収録のストレートなロック・ナンバー「夜を越えて」で小細工なし、プリミティブで痛快なフィナーレを迎えたのだった。

Photo by Yuki Kawashima

◎公演情報
【羊文学 Tour 2021 “Hidden Place”】
2021年9月24日(金)東京:USEN STUDIO COAST
<セットリスト>
1. mother
2. ブレーメン
3. 変身
4. 踊らない
5. 砂漠のきみへ
6. おまじない
7. 花びら
8. 人間だった
9. powers
10. ハロー、ムーン
11. ロックスター
12. Girls
13. 涙の行方
14. マフラー
15. 1999
16. ghost
17. あいまいでいいよ
18. 銀河鉄道の夜
19. マヨイガ
20. 夜を越えて

◎リリース情報
シングル「光るとき」
※リリース情報近日発表

◎リリース情報
EP『you love』
2021/8/25 RELEASE
<収録曲>
1. マヨイガ
2. あの街に風吹けば
3. なつのせいです
4. 白河夜船
5. 夜を越えて
6. マヨイガ with 蓮沼執太フィル

◎公演情報
【まほうがつかえる 2021】
2021年12月4日(土)ビルボードライブ横浜
1stステージ 開場14:30 開演15:30
2ndステージ 開場17:30 開演18:30
2021年12月11日(土)ビルボードライブ大阪
1stステージ 開場14:30 開演15:30
2ndステージ 開場17:30 開演18:30