<ライブレポート>君島大空が立ち上がらせた漠然と美しい風景【『汀の袖』vol.2】

2021/07/29 14:26

<ライブレポート>君島大空が立ち上がらせた漠然と美しい風景【『汀の袖』vol.2】
<ライブレポート>君島大空が立ち上がらせた漠然と美しい風景【『汀の袖』vol.2】


 君島大空という音楽家の生み出した「袖の汀」――あるいは「汀の袖」――という言葉を聞いて、それが一体なにを意味するのか、瞬時に理解することは難しい。そもそも単語自体に耳馴染みがない人も多いだろう。「汀(みぎわ)」とはつまり「渚」のことである。もともと「袖」が「涙」と結びつきの強いことを踏まえると、なるほど少しもの悲しい。しかし清涼感もある。なんとなく青い。そして白も浮かぶ。透明かもしれない。
 ただ、漠然と美しい。君島大空にはこの形容が一番しっくりくる。今回のステージもそうだった。ぎらぎらとした太陽の眩しい真夏日となった2021年7月22日の海の日、海が見える横浜のBillboard Live YOKOHAMAにて行われた【『汀の袖』vol.2】1stステージ。キーボードに手を添え、熱気のすき間を縫う涼風のようなウィスパーボイスで最初に歌われたのは、未リリースの「世界はここで回るよ」だ。この前衛的なドローン・ミュージック風のナンバーを届けた君島大空はさらに、楽曲名を可聴化したかのように眩く脆い「午後の反射光」、新曲を演奏。序盤から引力の強いパフォーマンスを行い、観客を一気に自らの世界へと誘った。
 2014年からギタリストとして活動しながら、多重録音で制作した自身の音源をSoundCloudに公開し続けてきた君島大空。2019年3月13日にリリースした独創的且つ郷愁的な1st EP『午後の反射光』は評判を呼び、正気と狂気の挟間でさまよっているような安らぎと危うさを秘めた感性、それを体現する高い技術力で一躍脚光を浴びる。幅広い作風も魅力の一つで、2020年11月11日にはプログレッシブでアグレッシブな2nd EP『縫層』、2021年4月21日にはガットギターとボーカルを中心に据えた3rd EP『袖の汀』を発表した。
 本公演は、その『袖の汀』リリースを記念したもの。君島大空は椅子に腰かけ、自身の代名詞でもあるガットギター、前述のキーボードに加え、サンプラー、エフェクター、ペダルなどを駆使して音楽を構築していくことになる。EP『袖の汀』の象徴的な一曲「向こう髪」で、技巧的なガットギターの旋律と繊細なメロディを紡いだかと思えば、次の「散瞳」では、軽やかに弾む原曲とは全く違う、不規則であるがゆえに自然発生的な音や心地よいメロディの破壊で意表を突き、ガットギターの音色も先ほどとは異なる様相を呈する。君島大空の“独奏”を“弾き語り”とは括れない。
 そもそもコーラジュ的な多重録音という手法で多角的な作品を生み出してきたわけだが、ステージ上でもその手腕を発揮するのが君島大空である。どの楽曲のときだったか、背後で人がこそこそ駄弁っているのかと思った瞬間もあった。それほどまでに立体感のある音像、日本文学の詩や散文を思わせる歌詞は、周りに風景を立ち上がらせる。たとえば<幽霊みたいになって君の胸に滑り込もう><幽霊みたいになって溶けだした夜を抜けて>というフレーズがある「白い花」の演奏中、君島大空の背後からは放射状の白光が射し、影となったその姿に“幽霊”を見たような気がしたが、そういった演出がなくとも君島大空は“幽霊”を見せることができるのだ。
 あるいは誰かの目の前に“大空”を広げたかもしれない。観客の一人ひとりが各々のイメージを膨らませながらステージを凝視していたことだろう。公演が後半に差し掛かると、そこにはゲストの石若駿が招かれた。ドラマーとしてアーティストのサポートや様々なプロジェクトに携わる石若駿は君島大空と親交が深く、君島大空合奏形態のメンバーとしても活動している。この日はドラムとグランドピアノでの参加で、訥々とした歌と一貫したリズムが儚さと芯の強さを感じさせる「きさらぎ」から始まり、七月に相応しい「扉の夏」では憂いを帯びたアルペジオにピアノの音色を絡み合わせ、石若駿のEP『Songbook2』に収録されている「Purkinje」も披露。君島大空は心底楽しんでいるのがひしひしと伝わってくる満面の笑みである。
 また、いくら雨が降っていようとも晴れやかな気持ちになる「傘の中の手」、歌詞にある“春の陽”のような温かみがむしろ切ない「銃口」を演奏。残り数曲を残したところで、思い出したように「あんまりしゃべっていないような気がします。うん、そんな気がする。曲をずっとやりました」と呟いた。その通り、いくらか口は開いたものの、ひたすら音楽を届けることに徹した君島大空は最後、代表曲の一つである抒情的なナンバー「遠視のコントラルト」から、柔らかなガットギターと歌声の魅力が最大限に引き出される「光暈(halo)」を繋ぎ、客席の全方向へ向けたお辞儀で感謝の意を伝えると、静かに袖へ捌けていった。
 あっという間の蠱惑的な一時間半。君島大空が去ったステージの上には、ばら撒かれた光の破片が残されていた。ほかの誰かには違うものが見えていたかもしれない。しかし私には見えたのだ。それは汀のように煌めいていた。ただ、漠然と美しかった。
Text by 佐藤悠香
Photo by 垂水佳菜
◎セットリスト
【君島大空『袖の汀』発売記念夜会『汀の袖』vol.2】
2021年7月22日(木・祝)Billboard Live YOKOHAMA
<1stステージ>
01. 世界はここで回るよ
02. 午後の反射光
03. 新曲
04. 向こう髪
05. 散瞳
06. 白い花
07. きさらぎ
08. 扉の夏
09. Purkinje(石若駿『Songbook2』より)
10. 傘の中の手
11. 銃口
12. 遠視のコントラルト
13. 光暈(halo)

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