『ファット・ポップ』ポール・ウェラー(Album Review) 〈Billboard JAPAN〉|AERA dot. (アエラドット)

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『ファット・ポップ』ポール・ウェラー(Album Review)

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『ファット・ポップ』ポール・ウェラー(Album Review)

『ファット・ポップ』ポール・ウェラー(Album Review)


 UKアルバム・チャートで7作目、1980年から2020年の5年代で首位を獲得した前作『オン・サンセット』から約10か月という短いスパンで完成した、ポール・ウェラー通算16枚目のスタジオ・アルバム『ファット・ポップ』。新型コロナウイルス感染によるロックダウンでツアーは延期となったが、来たるその日のステージをイメージしてアルバムを制作したというファンへの愛情がギッシリ詰まっている。

 本人曰く『ファット・ポップ』というタイトルには「音楽が人に与えてくれたことへの感謝」という意味が込められているそうで、人々が離れて過ごすことを余儀なくされても音楽でひとつになれる、という希望が溢れている。世代、ジャンルをクロスオーバーした、良い意味で一貫性のないサウンドもタイトルに通じている。

 これまでも様々な新しい挑戦をしてきたポール・ウェラーだが、本作ではスマートフォンに音入れをすることから制作をはじめたという、現代、そしてこの時世ならではの工夫が凝らされている。制作の進行が早まったのも、外での活動が自粛されたから……という捉え方ができる。曲を作り始めたのは前作『オン・サンセット』がリリースされる前の昨年春からだそうで、数か月後にバンドを自身のブラック・バーン・スタジオに招集し、完成させたという。主要メンバーは、前作『オン・サンセット』と同じくスティーヴ・クラドック、アンディ・クロフツ、ベン・ゴードリエの3人。

 アルバムは、80年代のデヴィッド・ボウイ流ニューウェーブ・ディスコ「コズミック・フリンジズ」で始まる。新旧の世代で通用する“コズミック”なサウンド、遊び心のあるヤンチャな歌詞いずれもファンキーで、冒頭からワクワクが止まらない。2曲目の「トゥルー」は、ザ・ミステリンズのリア・メトカルフェがライティング&ボーカルに参加した、古典派ブリティッシュ・ロック。高低差ある両者のハーモニー、インタールードのサックス・プレイが都会的で、かつてのカフェバーで好まれそうな仕上がりだ。

 タイトル曲「ファット・ポップ」は、弾力あるベースと滑らかなギターで彩るオルタナティブ・ロック。「世界が闇に包まれた時、誰が(何が)光を照らしてくれた?」というメッセージは、まさにコロナ禍を経て綴られたもの。次の「シェイズ・オブ・ブルー」には、ポールの娘リア・ウェラーがサプライズ・ゲストとして参加している。あくまでバックを務めるに徹した、控えめでソフトなコーラスが美しく、クラシカルでフラットなバロック・ポップにも見事ハマった。5曲目の「グラッド・タイムズ」も、シロフォンやストリングスが上品に響くスロウ・ジャム。ロックというよりは、70年代のスウィート・ソウルに程近い。

 「自分が幸せであることが、周りや世界をも救う術となる」というポジティヴな節が印象的な「コブウェブ/コネクションズ」も、パンデミックの影響が伺える曲。アコースティック・ギターの弾き語りではじまるノスタルジックなブルーグラス調のサウンド、諭すように歌うポールのボーカルも心地よく染み渡る。一転、ジャズの旋律を奏でるフルートをバックに従えた「テスティファイ」は、クールでファンキーな曲。制作、演奏、バック・ボーカルには、クラプトン・フォロワーにも高い人気を誇るアンディ・フェアウェザー・ロウが参加している。国内盤には、同曲のライブ・バージョンも収録。

 昨年全米を揺るがせた<ブラック・ライヴズ・マター運動>をテーマに、人と人がどう向き合っていくべきかを歌った「ザット・プレジャー」もいい曲。怒りとやさしさの二面性をもつポールの表現力がすばらしく、ルーツ・レゲエに乗せた感傷的なメロディ・ラインも相乗してメッセージ性を強めた。イギー・ポップに敬意を表したガレージ・ロック「ムーヴィング・キャンバス」では、グルーブ感や荒々しさで本人を再現。それについて「彼のようには聴こえないかもしれないけど、気に入ってくれることを願う」と謙虚な姿勢をみせる、ベテランの余裕には感服だ。ファンも納得できる相応の完成度、といえるのでは?

 「イン・ベター・タイムズ」は、いわゆるZ世代に向けたメッセージ・ソング。シンプルなバンド・サウンド、やさしいメロディ、そして包み込むようなボーカルで、それぞれの問題に苦しむ若者たちにエールを送る。タイトルにもある「辛い時期を乗り越えれば良い事がある」というフレーズは、年齢とキャリアを重ねたポールだからこその説得力がある。そして最後は、自己分析とも受け取れるピアノとストリングスによる悲壮感漂うバラード「スティル・グライズ・ザ・ストリーム」で締め括った。同調の曲がなくそれぞれの尺も短いからか、12曲聴き終えたとは思えないスピード感と充実感がある。

 アルバムを作るにあたり、前作を越えることを指標としているポール・ウェラーだが、ファンやメディアの反応からしても前作『オン・サンセット』を上回る出来高となった『ファット・ポップ』。ベテランの中には、スタイルを崩さないことが美学とするアーティストもいるが、長いキャリアで培ってきたことも、新しい要素も受け入れて巧妙に完成させる意欲的な姿勢も、彼の魅力といえる。40年以上第一線でいられるのは、そういうところ(が大事)なんだろう。

 『ファット・ポップ』は、週半ばの中間集計時点で全英1位もかたいだろうと報じられている。作品のクオリティはもちろん、功績も含めて今なお現役。まさに生きる伝説。

Text: 本家 一成


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