『マッカートニーIII IMAGINED』ポール・マッカートニー(Album Review) 〈Billboard JAPAN〉|AERA dot. (アエラドット)

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『マッカートニーIII IMAGINED』ポール・マッカートニー(Album Review)

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『マッカートニーIII IMAGINED』ポール・マッカートニー(Album Review)

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 昨年12月にリリースした通算18作目のスタジオ・アルバム『マッカートニーIII』が、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で初登場2位を記録し、1970年代、80年代、90年代、2000年代、10年代、そして20年代の6年代でTOP10にランクインするという快挙を成し遂げた、ポール・マッカートニー。本作は、同チャートでいずれもNo.1をを記録した『マッカートニー』(1970年)、『マッカートニー?』(1980年)に続くセルフ・プロデュース第三弾という意味合いでも話題を呼び、御年78歳とは思えないパワーと貫禄でファンを沸かせた。

 表題の『マッカートニーIII IMAGINED』は、タイトルが示す通りその『マッカートニーIII』を基に参加陣が個性と想像を広げて制作した作品で、ポール自身はメインからサブに一歩引き、リテイク&リミックスを担当したアーティストに一任したような形をとっている。クレジットされたのは、ポールが厳選した友人、ファン、コラボレーションを望んだ面々など様々で、大幅に塗り替えた曲もあれば、イメージを崩さず丁寧に焼き直した曲もある。

 例えばオープニングを飾る「ファインド・マイ・ウェイ」では、ウエストコースト・ロック風の原曲から、自身の『ミッドナイト・ヴァルチャーズ』(1999年)や現時点での最新作『ハイパースペース』(2019年)とも共通項があるベックらしい“踊れる”エレクトロ・ファンクにイメチェンを図った。異才音楽トリオ=クルアンビンをフィーチャーした「プリティ・ボーイズ」は、穏やかなアコースティック・メロウで構成された原曲の跡形は(ほぼ)なく、彼等のサウンド・プロダクションを下敷きにしたサイケ・ロックにリアレンジしている。ポールの曲がダンス・ロックになったり、残響音の広がるレア・グルーヴに変貌を遂げるというのも面白い。

 先行シングルとしてミュージック・ビデオも制作された「ザ・キス・オブ・ヴィーナス」は、米フロリダ出身のシンガー・ソングライター/ラッパーのドミニク・ファイクがアレンジを担当。こちらはアコースティック・ギターによる弾き語りの原曲を崩さずも、自身のルーツである黒っぽさを滲ませたテイストに仕立てている。60年代を踏襲したソウルとロックンロールの混合、古き良き音の再現に感服。終盤エフェクトに切り替わるボーカルもドミニクっぽくていい。

 米オクラホマ州タルサ出身の女性シンガー・ソングライター=セイント・ヴィンセントがリミックスを手掛けた「ウィメン・アンド・ワイヴズ」は、コーラスやインタールードできかせる“泣きの”ギタープレイなど、絶妙な変化を加えたアンダーグラウンド・ロックに、ブラッド・オレンジがリミックスした「ディープ・ダウン」も、ファンキーな音をそのまま活かしつつ、デヴ・ハインズのなめらかなハーモニーとウィングス時代を連想させるアレンジで、よりゴージャスな曲に進化を遂げた。

 中でも注目を集めたのが、ブルーノ・マーズとのコラボ・プロジェクト=シルク・ソニックとして「リーヴ・ザ・ドア・オープン」を全米首位に送り込んだばかりのアンダーソン・パークによる「ホエン・ウィンター・カムズ」。1992年に録音した当時のポールによるボーカル&フォーキーなトラックもよかったが、シルク・ソニックのプロジェクトを引き継いだ、風通しの良い西海岸の雰囲気で包み込むリミックスも最高。ベタではあるが、サウンドも冬から春に季節が移行したような印象を受ける。

 グレッグ・カースティンが手掛けた「スライディン」は、レディオヘッドのギタリストとして知られるEOBことエド・オブライエンによるシャウトとエレキが唸るハード・ロックに、ブラーのフロントマン=デーモン・アルバーンがリミックスを担当した「ロング・テイルド・ウィンター・バード」は、彼の参加プロジェクトであるゴリラズ路線のトリップ・ホップに、それぞれのバンド・スタイルが反映した。

 トリップ・ホップといえば、その元祖であるマッシヴ・アタックの3Dが担当した「ディープ・ディープ・フィーリング」が11分を超えるダンス・トラックに生まれ変わった……という衝撃。ポール・マッカートニーの世界観を大胆にフロア映えさせる業は、3Dだからこそ出来た賜物。ビートルズ直球の旋律に、透明感と毒素の二面性をもつ米LA出身の女性シンガーソングライター=フィービー・ブリジャーズの気怠いボーカルを乗せた「スィーズ・ザ・デイ」~クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのジョシュ・オムが敬意を払い、忠実に再現した「ラヴァトリー・リル」も、それぞれの個性が発揮されている。

 ジャンルをクロスオーバーしたヒットといえば、No.1に輝いたスティーヴィー・ワンダーとの「エボニー・アンド・アイボリー」(1982年)や、近年ではリアーナとカニエ・ウェストをフィーチャーした「フォー・ファイブ・セカンズ」(2015年)があるが、両曲同様、本作に収録されたナンバーも、存在感とアクの強さ故クレジットを見ずとも“誰の曲”だろうと予想できる、コンセプト通りの傑作揃いとなった。

 余談だが、原盤である『マッカートニーIII』をリリースした際、テイラー・スウィフトの『エヴァーモア』と被らないよう発売日を1週間延期するという配慮があったが、今回も前週にテイラーの2ndアルバム『フィアレス』の再録盤『フィアレス(テイラーズ・バージョン)』がリリースされているのは、ただの偶然なのか、はたまた……?

Text: 本家 一成


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