チープ・トリックの新作は、甘美なメロディーのダイナミックロックを全編に配した“ベテランらしからぬ捨て曲ナシのアルバム”に
チープ・トリックの新作は、甘美なメロディーのダイナミックロックを全編に配した“ベテランらしからぬ捨て曲ナシのアルバム”に

 チープ・トリックが20枚目のスタジオ作となるニューアルバム『IN ANOTHER WORLD』をリリースした。もうすぐキャリア50年を迎える大ベテランながら、ロックを未だ心から楽しんでいることが手に取るように分かる捨て曲ナシ&全力投球の秀作に仕上がっている。

 「The Flame(永遠の愛の炎)」「I Want You to Want Me(甘い罠)」「Surrender」といった大ヒットシングルをはじめ、初来日公演の模様を収めたライブアルバム『チープ・トリックat武道館』などで知られるアメリカのレジェンドバンドであり、2016年にはロックの殿堂入りを果たしたチープ・トリック。およそ50年間のキャリアで2,000万枚以上のレコードセールスを記録し続ける彼らだが、ジュリアン・レイモンドをプロデューサーに迎え発表した通算20作目の新作『IN ANOTHER WORLD』でも、“チープ・トリック節”満載のエネルギッシュなロックンロールを楽しむことができる。

 ロビン・ザンダー(ボーカル、リズムギター)は「このバンドは音楽によって支えられている」とし、「曲を書き続け、レコードを出し続けるための超強力な接着剤なんだ」と語る。そんな彼らの音楽に対する熱量は、往年のヒット作を生んだ当時からなんら変わることなく、新作でもロックを心から楽しんでいる。それはリック・ニールセン(リードギター)のインタビューからも明確だ。

 リックは「いまでも日本で初めて「Clock Strikes Ten」(今夜は帰さない)が1位になったときのことを思い出すんだ。100年以上も前の話だけど(笑)」、「おかげでロックンロールできるし、自分の好きなことをやれて、同じような仲間と一緒に演奏できるわけで、幸運だとは思うよ」などと笑いながら話している。

 アルバムは、爽快なコーラスワークから奥行き豊かなサウンドのギターリフが牽引するロックチューン「The Summer Looks Good On You」で幕を開け、そしてキャッチーなメロディー全開の「Quit Waking Me Up」、“これぞ”の甘美なメロディーをフィーチャーしたミドルバラード「Another World」へと流れる。

 このオープニング3曲のテンションはアルバムの最後まで続き、先行シングルとなった「Boys & Girls & Rock N Roll」「Light Up The Fire」が特に突出している訳では全くない。アルバムではさらに魅力的な楽曲を見つけることができ、先行シングル2曲で期待を膨らませたファンを良い形で“裏切る”ことになる。

 ちなみに、前述の「Another World」は“(Reprise)”とするアップテンポ・バージョンがアルバム後半にも収録されている。一聴しただけでは同じ曲とは分からない魅力的な曲に仕上げており、各曲をとことん練り上げるべく、様々なアレンジを試した結果の産物だろう。ここからも彼らの音楽制作に対する情熱が窺える。

 緩急に富んだロックを甘くキャッチーなメロディーで堪能できるニューアルバム『IN ANOTHER WORLD』は、とにかく捨て曲が無い。音楽を創造するにおいて“自身が一番楽しむこと”が重要であることは良く言われることだが、それもミュージシャンとして技量、そしてソングライティングの才能が根底にあってのモノだろう。チープ・トリックはおよそ50年間にわたり、その才能を全く枯らすことなくキープしているのだ。キャッチーなロックが持つダイナミックなエネルギーを若い世代にも感じてもらいたい。

◎リリース情報
アルバム『In Another World』
2021/4/9 Release
輸入盤CD/LP/配信にてリリース