どんなときも逆境を跳ね返すことができるはずだ――桑田佳祐が歌う普遍の人間賛歌「SMILE~晴れ渡る空のように~」 〈Billboard JAPAN〉|AERA dot. (アエラドット)

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どんなときも逆境を跳ね返すことができるはずだ――桑田佳祐が歌う普遍の人間賛歌「SMILE~晴れ渡る空のように~」

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どんなときも逆境を跳ね返すことができるはずだ――桑田佳祐が歌う普遍の人間賛歌「SMILE~晴れ渡る空のように~」

どんなときも逆境を跳ね返すことができるはずだ――桑田佳祐が歌う普遍の人間賛歌「SMILE~晴れ渡る空のように~」


 どこか懐かしさを感じさせるオリエンタルなイントロに導かれて、浮遊感のあるサウンドの中で歌が始まる。やがてドラムがビートを刻み、ギターが軽やかなカッティングで躍動感を演出する。ボーカルとユニゾンの鍵盤とコーラスが、足並みを揃えて階段を上るようにサビに突入すると、開放感のあるメロディが晴れ渡る空のように広がっていく。

 桑田佳祐の「SMILE~晴れ渡る空のように~」は、もともと民放共同企画「一緒にやろう」応援ソングとして書き下された楽曲だ。東京オリンピックが行われるはずだった2020年のさまざまな共同企画や各種イベント、スポーツ・シーンなどを、この曲が彩ることになっていたという。ところが、楽曲の初公開以降に深刻化した新型コロナウィルス感染拡大、東京オリンピック延期という事態を受けて、リリースされないまま現在に至っている。

 多くの人々や事柄同様に、まさにコロナ禍に巻き込まれてしまったこの曲は、2021年3月7日にBlue Note Tokyoで行われた無観客配信ライブ【静かな春の戯れ ~Live in Blue Note Tokyo~】にて、ついにライブ初披露された。さらに3月24日に放送された日本テレビ系列『Premium Music 2021』にて、配信ライブ映像が地上波初公開。ライブテイクということもあり、アレンジも変わり、より力強くエモーショナルな映像になっていた放送を見た視聴者からネット上で、「この曲に元気をもらった」という声が上がり、CDも配信もリリースされていないのにもかかわらず、既に多くの人に愛される曲となっている感がある。それはどうしてなのだろう。

 サビのメロディは、桑田の作品の中でも随一の、繰り返すごとに感情がこみ上げてくるエモーショナルな旋律。ただし、激しく煽り立てるわけじゃない。心の高ぶりを感じさせつつも、どっしりと腰を据えながら、グッと感情をコントロールして己を律しているような歌いまわし。そして、後半の複数の声が重なるパワフルなコーラス。1人ひとりが力を蓄えて、いざとなればチームとして1つになれる強靭なスピリットを思わせる。オリンピック、スポーツの精神を的確に音で表現していると同時に、長い歴史で脈々と続いてきた人間の生命力の豊かさ、個人個人に秘められた力、人々の力を集結させたときに開かれていく未来、そんなことを連想した。

 アレンジは、シンセなどの装飾音が散りばめられつつ、ギターやベースがあまり前には出ずに、音を詰め込みすぎていない。引き締まったタイトな演奏の中にも、ふんわりとした空気感を内包した音像は、聴く者が歌に参加できる余白が残されている。桑田の歌声を中心に、人々が集まって合唱できる歌。常に大観衆を集めてライブを行ってきた桑田にとって、曲の中で大勢の人たちと同じ空間を分かち合えることは、何よりも大切なこと。そんなサウンドプロダクションにも、包容力、やさしさを感じざるを得ない。

 歌詞には<愛情に満ちた神の魔法も/悪戯な運命(さだめ)にも/心折れないで>、<世の中は今日この瞬間(とき)も/悲しみの声がする/次の世代に/何を渡そうか!?/今この時代(とき)を生きて>といった意味深な箇所がある。楽曲誕生の経緯からすると、オリンピックの景色を連想してこの曲を聴くことは、もちろん正しい。一方で、アスリートたちへのメッセージが転じて、今となってはその意味の捉え方が違ってくるというのも、頷ける。コロナ禍で世の中が変化して、オリンピックも延期となったことによって、この曲が持つ意味も変わってしまった……のだろうか? いや、決してそうは思わない。この曲で歌われているのは、古くから人類が持っているエネルギーはどんなときも逆境を跳ね返すことができるはずだという、揺るぎない信念だ。だからこそ、桑田は“地球の歴史”、“奇跡”、“永遠”といった言葉を意識的に冒頭の歌詞に入れているような気がする。そしてその力強いサウンドと歌声が、多くの人の心を震わせ、コロナ禍で傷つき膝をつきかけた人たちに、もう一度立ち上がり笑顔で空を見上げる勇気を与えている。「SMILE~晴れ渡る空のように~」とは、どんな時代も人々のパワーを信じているというメッセージ、普遍的な人間賛歌だ。

 近年はサザン、桑田のソロ楽曲共に、文字通りの“みんなのうた”が多くなったと思う。言葉遊びを駆使した歌詞による桑田節を読み解く面白さも魅力だが、ここ数年の代表曲は、できる限り平易な言葉を選び、素直でより多くの人々の心に響く歌詞、寄り添い共に歩いていくようなテンポ感による、やさしさと力強さに溢れた作風が際立っている。「SMILE~晴れ渡る空のように~」も、そんな年輪を重ね強く太くなった幹のような現在の桑田佳祐が生んだ、新たなスタンダード・ナンバーとなっていくのではないだろうか。

歩みを止めないで この世に生まれた以上
愛情に満ちた神の魔法も 悪戯な運命にも
心折れないで でなきゃ勝利は無いじゃん!!

 ハートフルな中にも、沸々と湧き上がるマグマのように熱い魂の滾りを感じる「SMILE~晴れ渡る空のように~」。この時代に、多くの人の心を奮い立たせるメッセージ・ソングを届けてくれる桑田佳祐というミュージシャンが日本にいることを、心から誇りに思うのだ。


Texy by 岡本貴之


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