<インタビュー>40代で大ブレイク、人気女優トレイシー・エリス・ロスが語る今後の作品作り「誰もが人生の主役、誰かの許可なんていらない」
<インタビュー>40代で大ブレイク、人気女優トレイシー・エリス・ロスが語る今後の作品作り「誰もが人生の主役、誰かの許可なんていらない」

 厳しい音楽業界を舞台に、リスクを背負ってでも新曲制作にチャレンジしたい歌姫グレースと、音楽の成功を夢見るアシスタントのマギーの紆余曲折を描く『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』が劇場公開スタート。グレースを演じたトレイシー・エリス・ロスにオンライン・インタビューを実施し、本作について話を訊いた。

 トレイシーは、モータウンを象徴するシュープリームスのリード・ヴォーカル、そしてソロ・アーティストとして、現在の音楽シーンの礎を築いた重要アーティストと言っても過言ではない世界的な歌姫ダイアナ・ロスを母に持つ。名門ブラウン大学で演技を学び、モデル、雑誌編集者を経てテレビや映画で知名度を上げた彼女の一番のブレイク作品は、現在アメリカで第7シーズンが放送されているTVドラマ『Black-ish』だ。白人上流階級地区で暮らす黒人一家の生活を描いたこのシットコムで、トレイシーは【エミー賞】に4年連続ノミネートされ、2017年には【ゴールデングローブ賞】を受賞。次世代スターの代表格であるヤラ・シャヒディと“ハリウッド最年少プロデューサー”としてギネス認定されたマルセイ・マーティンが娘役で出演するホットな作品でもあり、派生ドラマ『Grown-ish』、『Mixed-ish』も好調だ(残念ながら国内放送・配信は未定)。音楽通であれば、タイラー・ザ・クリエイターの「EARFQUAKE」のミュージックビデオに出てくる司会、ドレイクの「Nice For What」のMVでゴージャスな髪の毛を振りまく女性、と言えば思い出す方もいるかもしれない。

 トレイシーは初主演となる本作で素敵な歌声を披露。ポップやR&B、ソウルといった心踊らされるサウンドトラックは、ビヨンセやシアラ、メアリー・J. ブライジ、ジャスティン・ビーバーを手掛けたロドニー・ジャーキンスが担当し、アイス・キューブやディプロも出演するなど、音楽好きにはたまらない。

 インタビューでは、アクティビスト、プロデューサーの顔を持つ彼女らしい鋭いコメントも。「怖いのは自分が成長する証。失敗することもあるけど、挑戦する価値はある」と、いくつになっても新しいことに挑戦する彼女の言葉は、次に踏み出すための一歩がなかなか出せない人の背中をポンと押してくれそうだ。

――本作の主演のオファーは『Black-ish』の活躍とアワード受賞が大きなきっかけだと思いますか?
 これまでのキャリアと成功も関係していると思うけど、正直これまでのオファーは(テレビで活躍していたから)わざわざ映画に出たいと思えるほどの作品ではなかったの。私の興味を引く脚本は少ないのよ。めったに遭遇する機会がないような、成長して羽ばたけるようなものが見当たらなかった。でもこの映画はそんな脚本のひとつ。グレースとマギー(ダコタ・ジョンソン)の2人の女性を主人公に、いくつになっても夢を諦めないことを描いたこの作品で、私は歌うこともできた。制作側もストーリーに合わせて私にオファーしてくれたんだと思う。私も「これは私の役だよ!」って言いふらしたんだ(笑)。

――伝説の歌姫役ということで、お母様と比較されることも当然予想されながら、このオファーを受けたのでしょうか?
 母の姿は脳裏になくて、映画のプロモーションで受けたインタビューや記事が出て初めて気がついた。そう書かれる(比較される)のはしょうがないし、十分理解もできる。でも、この映画は母のストーリーでは全くないし、母は世界でも指折りのアイコンだから、そんな偉大なエンターテイナーと比較されるのも悪くないよね(大げさにウインク)。ハハハ!

――(笑)。映画では素敵な歌声を披露されていますが、歌唱デビューの裏側や苦労をお聞かせください。
 短いスケジュールの間に準備がたくさんあって、それはもう大変だった! ドラマの撮影に合わせてスケジュールを調整してくれたんだけど、アルバム作りに撮影にダンスの練習に、もう頭がパンク状態。レコーディングは撮影の1か月半前から始めて、そこから曲選定された。ステージこそグレースが輝く場所なんだっていう心情に、短い時間で辿り着かなきゃいけなかったし、ステージに立つことが居心地良く見えなくちゃいけない。新しいことばかりで疲れたし、怖かったんだけど、本当に楽しかったの! 私自身、ステージに立つのは問題ないんだけど、コメディ(演技)や衣装が助けになってる。でもシンガーは隠れる場所がないんだよね。どれだけ大変か実感したから、ボーカリストにはリスペクトしかないわ。

 (映画で)歌うことをずっと夢見てきたの。なんたって、音楽一家で育ったし、歌が血に流れているようなものよ。今回、その夢の実現と不安に同時に立ち向かわなければならなくて、それは素晴らしい経験ができた。感覚的に知っている世界だったから、私にとっては居心地の良い、馴染みのある世界で、そんな感覚を体現することができて楽しかった。

――グレースのように、年齢やキャリアにかかわらず、新しいことに挑戦することはお好きですか?
 成長したい、輝きたいと思っているし、オープンで好奇心旺盛でありたいから、色々なことにチャレンジしたいし、怖いものにこそ挑戦したい。グレースも勇気を出して自分の夢に飛び込んだ。撮影中の私は監督や脚本家、スタッフなど、女性チームに囲まれて、安心して取り組めたんだけど、実際の私は、ある意味、怖れを感じることも好んでる。怖いのは自分が成長する証だもん。もちろん失敗することもあるんだけど、挑戦する価値はあるよね。

――今作のニーシャ・ガナトラ監督のように、女性監督作品または黒人女性がメインの作品はハリウッドのみならず映画界では少数派ですよね。
 才能のある女性はもっといるし、伝えるべきストーリーももっとあるのにね。これは正しい方向に目を向けていないトップの人たちの責任でもあると思うの。私は自分の制作会社を持っているから、マルチレイヤー(多層構造)の側面を持ったストーリーを伝えていきたいと思っている。性別にこだわらず、この世界に生きる人間全員が体験する物語を作っていきたい。

 私が【エミー賞】にノミネートされたとき、【ゴールデングローブ賞】のTVコメディ部門で主演女優賞を受賞したときに「黒人女優としては30何年ぶり」と聞いて、「今までどんなストーリーしか描いてこなかったわけ?」って思ったのをすごく覚えてる。黒人女性も日本の女性もラテン系の女性も、どの人生においても自分という主役を演じている。それに、私たち女性には、素晴らしい監督も脚本家もジャーナリストもいるもんね。これからもっといい環境にしていかなきゃ。これは女性だけに課されたものではなく、男女全員で取り組んでいくべき課題。どんな・誰のストーリーを描くのに、誰かの許可なんていらないの。テーブルにあなたのためのスペースを作ってくれる人がいないなら、新しいテーブルを作っちゃえばいいのよ。今はそういう“誰もやらないなら、自分でやる”という精神が生まれていて、すごく刺激的。

 興味深かったのは、グレースが多くの女性のように、成功するために本当の自分を押し殺さなければならないという問題に直面していること。女性が享受して当たり前の成功を手に入れるために、本当の自分を部分的に消さなければならない。この作品は彼女のターニングポイントを描いていて、ずっと歩んできた道をそのまま歩み続けるか、自分の枷になっているものから解放され、正直に情熱に従い、隠していたものを才能と化して輝くか、グレースはそのどちらかの選択に迫られるの。

Interviewed by Mariko Ikitake

◎公開情報
『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』
全国公開中
監督:ニーシャ・ガナトラ
出演:ダコタ・ジョンソン、トレイシー・エリス・ロス、ケルヴィン・ハリソン・Jr.、アイス・キューブほか
配給:東宝東和
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