『ストレンジ・デイズ』ザ・ストラッツ(Album Review)
『ストレンジ・デイズ』ザ・ストラッツ(Album Review)

 2016年、2017年に続き、昨年の【SUMMER SONIC 2019】で3度目の出演を果たし、マリン・スタジアムの大観衆を熱狂させたザ・ストラッツ。クイーンを筆頭にレジェンドたちを継承したスタイルが高く評価され、本国イギリスをはじめとしたヨーロッパ諸国、アメリカ、日本含むアジア圏でも人気を拡大させている。

 本作『ストレンジ・デイズ』は、そのクイーンの再来とリスナーに衝撃を与えたデビュー作『エヴリバディ・ウォンツ』(2016年)、イギリスのクラシック・ロック誌で「2018年ベスト・アルバム50」2位を獲得した2ndアルバム『ヤング&デンジャラス』(2018年)に続く、2年ぶり、3作目のスタジオ・アルバム。プロデュースは前作にも参加したジョン・レヴィーンが担当した。

 今年は映画の様相を呈したような1年で、誰にとっても“いつもとは違う日常”が課されたわけだが、ザ・ストラッツは10日間でほぼ全曲を録音するという、コロナ禍をある意味前向きなカタチで捉え、新作の完成に繋げた。米LAにあるジョン・レヴィーン宅に泊まり込んだ制作過程含め、まさにタイトルの“奇妙な日々”だったといえよう。

 そのタイトル曲「ストレンジ・デイズ」は、彼らにも大きな影響を与えた(であろう)大御所ロビー・ウィリアムスとのコラボレーション。レコーディング・スタイルもまた“奇妙”で、ボーカルのルークが単身ロビーの豪邸に招かれ、玄関先で歌入れをしたのだという。耳を澄ますとかすかに聴こえるオープニングの囀りは、実際にいた小鳥の鳴き声だそうで、ライブならではの演出がそのまま起用されている。煌めくストリングスとシンセ、鬱っぽくも温かみのあるメロディ、しゃがれた高音が映える両者のボーカル、どれをとっても完璧なアンセミックなロック・バラードで、ルークが掲げた“ビートルズに匹敵する”名曲にも十分近づけたのではないかと思う。

 大御所との共演は、トム・モレロをフィーチャーした「ワイルド・チャイルド」という曲もある。コラボレーションの実現は、(トムが所属する)レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンっぽいフレーズがあり、突発的に依頼を持ち掛けたところ快諾してくれた、というもの。さすがと唸らざるを得ないトム・モレロのギター・ソロはもちろん、ずっしり重たいドラム・プレイとロッカーらしさを強調したボーカルもすばらしい、男気溢れるミディアム・ロックに仕上がった。たしかに“それっぽい”ニュアンスが所々に感じられる。

 もうひとつの大型コラボは、デフ・レパードのフィル・コリンとジョー・エリオットを迎えた「アイ・ヘイト・ハウ・マッチ・アイ・ウォント・ユー」。フィル・コリンのギター・プレイが光る、グラマラスなグルーヴ感のブギー・ロックで、どちら“寄り”でもなく両者の持ち味がバランスよく活かされている。ルークとジョーの相性も抜群で、お互いファンだと公言するアーティストへの敬意がボーカルからも伝わってくる。なお、冒頭のやりとりはルークとジョーによる電話の会話を引用したもの、だそう。本来は3曲目に収録されたKISSのカヴァー「ドゥ・ユー・ラヴ・ミー」での共演を依頼したそうだが却下され、同曲が承諾されたという経緯がある。

 同じくコロナ禍に7年ぶりの新作『ザ・ニュー・アブノーマル』をリリースした、ザ・ストロークスのギタリスト=アルバート・ハモンドJr.と共演した「アナザー・ヒット・オブ・ショーマンシップ」も傑作。彼らの作品にも通ずるニューウェイヴやブリット・ポップっぽいライトな感覚が、塞ぎ気味になりがちなテンションを持ち上げてくれる。アルバート自身、同曲のデモを聴いて気力を取り戻したとのエピソードもあり、両アーティストのファンも納得の出来高となった。

 イントロにバイクのノイズを起用した、古典的なブリティッシュ・ロックの「オール・ドレスト・アップ(ウィズ・ノーウェア・トゥ・ゴー)」、セクシーで歯切れの良いボーカル・ワークのパワー・ポップ「クール」、ピアノのメロディをバックに従えたサザン・ロック~カントリー・ロック風味の「バーン・イット・ダウン」、モータウンのアレンジもニオわせる60'sオールディーズ調の「キャント・スリープ」、曲間のギター・プレイとと終盤のコーラスがすばらしい、ノスタルジックな70年代ロック「アム・アイ・トーキング・トゥ・ザ・シャンペン(オア・トーキング・トゥ・ユー)」など、ゲスト不在のナンバーもすばらしく、前2作以上の揺るぎないカリスマ性を見せつけた。

 レコーディング・スタイルもそうだが、ロックダウン中に少人数で制作したことでプレッシャーが緩和され、自分たちの作りたいアルバムを完成させられたという。自由度が高かった分欠ける部分もあるだろうが、コンセプトやサウンドはまとまりがあり、こんなご時世だからこその思慮深さも伺える。クイーンやデフ・レパードはもちろん、AC/DCからコールドプレイまで、幅広いアーティストの良いところだけをコンパイルした作品、ともいえるような。受け取り方はそれぞれあるものの、奇妙な日々を経て完成した本作は、今後のキャリアを形成するにあたり大きな糧となっただろう。

 日本盤には、前述の【SUMMER SONIC 2019】で披露された「プリマドンナ・ライク・ミー」、「ボディ・トークス」、「「ファイアー(パート1)」のライブ・バージョンがボーナス・トラックとして収録される。

Text: 本家 一成