『ヘヴン&ヘル』エイバ・マックス(Album Review) 〈Billboard JAPAN〉|AERA dot. (アエラドット)

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『ヘヴン&ヘル』エイバ・マックス(Album Review)

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『ヘヴン&ヘル』エイバ・マックス(Album Review)

『ヘヴン&ヘル』エイバ・マックス(Album Review)


 デビュー曲でブレイクするアーティストは少なくないが、彼女もまた、そんなシンデレラ・ガールの一人。2018年夏にリリースされた「スウィート・バット・サイコ」は、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で10位、UKシングル・チャートではいきなり1位に輝き、その他ニュージーランドやドイツ、スウェーデンなどのヨーロッパ主要国でもNo.1ヒットとなった。キャッチ―な旋律と大衆受けするサウンド、レディー・ガガ路線のちょっと奇抜なビジュアルから、日本をはじめアジアでもヒットしたのは納得できる。

 本作『ヘヴン&ヘル』は、その「スウィート・バット・サイコ」を含むエイバ・マックスのデビュー・アルバム。制作期間は約1年半を掛け、その間8曲のシングルをリリースしてきた。そのうち、2ndシングルの「ソー・アム・アイ」(13位)と、5thシングルの「キングス & クイーンズ」(19位)が、UKシングル・チャートでTOP20入りしている。アルバムは計15曲で、ほぼベスト盤に近い内容。こういう売り出し方は、かつての日本のマーケットとよく似ているような気がしないでもない。

 トータル・プロデュースを担当したのは、ケイティ・ペリーの「パート・オブ・ミー」(2012年)やマルーン5の「シュガー」(2014年)、ザ・ウィークエンドの「スターボーイ」(2016年)など、2010年代にモンスター・ヒットを連発させたサークット。その他にも名だたるヒットメイカーたちが参加していて、期待度・注目度の高さが伺える。

 前半7曲「ヘヴン・サイド」の冒頭を飾るのは、電子音が不揃いに宙を舞うイントロ「H.E.A.V.E.N」~「キングス & クイーンズ」。ボニー・タイラーの「イフ・ユー・ワー・ア・ウーマン」(1986年)をサビに使用した「キングス & クイーンズ」は、レディー・ガガをブレイクに導いたレッド・ワンがプロデュースを担当している。本作では「スウィート・バット・サイコ」に次ぐインパクトをもたらしたが、シルバー・ホワイトで統一したMV含め、若干二番煎じ感否めず。もう少し個性を際立たせても良かったような……。

 アルバムの発売と同日にカットされた「ネイキッド」は、キラキラ系のシンセ・サウンドにノスタルジックな旋律を乗せた、カーリー・レイ・ジェプセン路線のエレクトロ・ポップ。若干ありきたりではあるが聴き心地良く、我々日本人の耳にも非常に馴染みやすい曲。オレンジ・ヘアのアンドロイド(?)に扮した近未来的なミュージック・ビデオは、1997年公開のSF映画『フィフス・エレメント』にインスパイアされたとの説も上がっている。次曲「タトゥー」も「ネイキッド」のサウンドを継承したミディアムで、個人的にはヒットした「キングス & クイーンズ」より、後者の方が新鮮に聴こえた。

 「OMG ホワッツ・ハプニング」は、今年大ヒットしたドージャ・キャットの「セイ・ソー」やデュア・リパの「ドント・スタート・ナウ」を後追いしたディスコ・ポップ。グロリア・ゲイナーの「恋のサバイバル」(1978年)に酷似しているとの指摘もあったようだが、たしかに70年後期のディスコっぽい雰囲気もある。ピーター・シリングの「メジャー・トム」(1983年)を一部使用したスペイシーな「ボーン・トゥ・ザ・ナイト」や、前述の「キングス & クイーンズ」など、ヘブン・サイドは80年代のヒット曲をコンパイルしたようなタイトルが続く。テイラー・スウィフトの「シェイク・イット・オフ」(2014年)などを大ヒットさせたシェルバックによるプロデュース曲「コール・ミー・トゥナイト」も、懐メロ風の旋律が“あの頃”っぽい。

 この世とあの世の間=煉獄(プルガトリー)として収録されたフューチャー・ディスコ「トーン」を挟み、ヘヴン・サイドから雰囲気を一新したミディアム・テンポのダーク・ポップ「テイク・ユー・トゥ・ヘル」で「ヘル・サイド」がスタートする。同曲は 「フォーギブ・ミー・フレンド」(2018年)のヒットで知られるスウェーデンの男女フォーク・ポップ・デュオ=スミス&テルが手掛けたナンバーで、前半に収録された曲や「スウィート・バット・サイコ」とはまた違うエイバの持ち味をみせた。

 次曲「フーズ・ラッフィング・ナウ」も同路線のミディアム。いずれもスウェーデンの売れっ子ソングライター=ヌーニー・バオとリーナス・ヴィークルンドが制作を担当した。酷い扱いをしたであろう誰かを嘲笑う、サイケな恨み節がマイナー・コードによくハマった曲で、ミュージック・ビデオでは上司や彼氏に復讐する女性を演じている。ジャケットの炎も、その怒りを表現したものだろう。毒性の強い薬草を用いた「ベラドンナ」や、スイスの音楽プロデューサー/DJ=Freedoが手掛けた「ルーマーズ」、涙を塩に例えたマドンナのモンスター・ヒット「ハング・アップ」(2005年)風味の「ソルト」も、なかなか闇が深い。たしかに、「ヘル・サイド」に分類しただけの毒々しさがある。

 一方、前述の「ソー・アム・アイ」では、いじめに苦しんだ自身の過去と照らし合わせ、同じ悩みで塞いでいる女子たちへの激励が歌われている。 ブリトニー・スピアーズの「ベイビー・ワン・モア・タイム」(1998年) を彷彿させるミュージック・ビデオでも、学園を舞台に制服でダンスするシーンで自分らしさを表現した。同曲のソングライターにはチャーリー・プースがクレジットされていているが、それっぽい感じがフィーチャーされていないような?ラストは言わずと知れた大ヒット曲「スウィート・バット・サイコ」で締め括る。

 米ウィスコンシン州出身。オペラ歌手の母親をもつサラブレッドとして生まれ、学生の頃に米LAへ移住し様々なオーディションに参加し続けたエイバ・マックス。2017年に本作のプロデューサーであるサークットに見い出され、アトランティック・レコードと契約を締結。TikTokから火が付いた「ノット・ユア・バービー・ガール」で注目を集め、2018年「スウィート・バット・サイコ」で大ブレイクした。翌2019年には【MTV Video Music Awards】や【MTV Europe Music Award】などにノミネートされ、本作『ヘヴン&ヘル』のアルバム・デビューと共にトップ・スターへの階段を駆け上がっている。

Text: 本家 一成


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