『ブライテスト・ブルー』エリー・ゴールディング(Album Review) 〈Billboard JAPAN〉|AERA dot. (アエラドット)

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『ブライテスト・ブルー』エリー・ゴールディング(Album Review)

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『ブライテスト・ブルー』エリー・ゴールディング(Album Review)

『ブライテスト・ブルー』エリー・ゴールディング(Album Review)


 キャッチ―なメロディと嫌味のない端正なビジュアルで、日本でも多くのファンを獲得しているイングランド出身のポップ・シンガー=エリー・ゴールディング。本国イギリスのアルバム・チャートでいきなり1位を獲得したデビュー・アルバム『ライツ』(2010年)のリリースから10年が経過し、今や後のアーティスト等に影響を“与える側”に。時の経過はなんとも早いと、我々リスナーのみならず、本人も実感しているはず。私生活でも色々あったみたいだし……。

 本作『ブライテスト・ブルー』は、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で最高3位を記録した前作『デリリアム』(2015年)から約4年半ぶり、4作目のスタジオ・アルバム。当初は前月の6月にリリースされる予定だったが、新型コロナウイルスの影響で1か月押しでの発表となった。なお、国内盤の発売は8月19日に延期となっている。

 アルバムの制作は、遡ること3年前の2017年初頭にスタートさせ、SNSで音源を公開したり、いくつかのシングルを発表してきた。2018年10月にリリースした「クロース・トゥ・ミー」は、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で24位を記録し、アメリカでは13位まで上昇した「オン・マイ・マインド」(2015年)以来、約5年ぶりのTOP40入りを果たしている。

 「クロース・トゥ・ミー」は、自身最大のヒット曲「ラヴ・ミー・ライク・ユー・ドゥ」(2015年)で共作したサバン・コテチャとの再タッグ曲で、DJ/プロデューサーのディプロをパートナーに迎え、彼の提案によりラッパーのスウェイ・リーがゲストとして参加することになったという。エリーの軽やかなハイトーン・ヴォイスと、スウェイ・リーのマイルドなヴォーカルが見事調合されていて、メジャーからマイナーに切り替わるサビのコード進行も絶妙。歴代のシングル曲では、3つ指に入る出来栄えでは?ハンガリーのブダペストで撮影した、ファッション・ショーばりの豪勢なミュージック・ビデオも必聴。

 ストリーミング・サービスではあまり意味を示さないが、本作は『ブライテスト・ブルー』の本編「Side-A」と、『EG.0』と題された「Side-B」の2部構成(2枚組)で、「クロース・トゥ・ミー」は後者に収録されている。同曲の他、『EG.0』には前週に遺作『レジェンズ・ネヴァー・ダイ』を発表した故ジュース・ワールドとのコラボ曲 「ヘイト・ミー」や、ジャスティン・ビーバーやGイージーなど、他者への楽曲提供も定評のラッパー/R&Bシンガー=ブラックベアーをフィーチャーした「ウォーリー・アバウト・ミー」、それから前月にシングル・カットされた、ラウヴとのコラボレーション「スロー・グレネード」など、計5曲を収録。

 『EG.0』のコンセプトは「恐れ知らずの一面」とのことで、たしかにこれまでにない挑戦がたのしめる。新しさと古さを兼ね備えたダーク・ポップ風の「ウォーリー・アバウト・ミー」、優しい旋律のフォークトロニック 「スロー・グレネード」、ラップを絡めて歌うジュース寄りのトラップ「ヘイト・ミー」など、ジャンルも様々。若干取っ散らかってる感はあるが、そういう意味で2部構成としたのは正解かも。

 本編の方は、米ボルチモア出身のR&Bシンガー=サーペントウィズフィートとのコラボレーション「スタート」で幕を開ける。華やかなオープニングとは言い難い、ミステリアスなオルタナティブR&B風の曲だが、本作のテーマともいえる「過去の葛藤と現在の思想」にも通ずる言葉のもつ熱量は凄まじく、初期の“キュートなエレポップ・シンガー”では決して表現できなかった説得力がある。ザ・ウィークエンドのようなサーペントウィズフィートのボーカルもグレイト。後半徐々にペースアップし、次曲「パワー」へと繋げる。

 「パワー」は、5月にリリースした本編からの先行シングル。キャッチ―な旋律のアンセミックな80’s風シンセ・ポップで、ゴスペル風のゴージャスなコーラスをバックに、広がりのある音域で歌い上げるエリーのパフォーマンスには圧倒させられるほど。この曲では、昨今(いろんな意味で)問題視されているSNSの表現や、それに付随した人間関係にも言及している。

 10年以上にわたりエリーの作品に携わってきているスタースミスは、次曲「ハウ・ディープ・イズ・トゥー・ディープ」に参加。彼と共作した「アンダー・ザ・シーツ」(2009年)をリリースした頃は、タイトルにもある「より深いもの」を求めることに必死だったそうだが、それが何なのか分からず、33歳という年齢を迎えてようやく見えてきたものについて、この曲では歌っている(ように思える)。サウンドは機械的だが、感情を振り絞って歌うエモーショナルな要素もあり、聴きごたえ抜群。

 自身の思想を詞的にまとめたインタールード「シアン」から繋ぐ「ラヴ・アイム・ギヴン」は、2ndアルバム『ハルシオン』(2012年)~前作『デリリアム』にも参加した、英ロンドン出身の音楽プロデューサー=ジム・エリオットを迎えた意欲作。後悔からの脱却、というべきか。心の葛藤を「パワー」や「ハウ・ディープ・イズ・トゥー・ディープ」以上にダイナミックなヴォーカルで表現する。この曲や「オード・トゥ・マイセルフ」なんかは、自分の本質をそのままに表現しようという意思がメラメラ伝わる。その「オード・トゥ・マイセルフ」も、短編ながら心温まるメロディーの好曲。

 息を呑む静かなイントロではじまるピアノ・バラード「ウーマン」は、まるで讃美歌のような美しさ。ヒット曲でみるとアップが圧倒的に多いエリーだが、メロウもため息が出るほどすばらしい。この曲では、ひとりの女性、そして女性アーティストという立場で思うこと、すべきことを歌っていて、これまで抱えていた鬱憤を晴らしたようなフレーズもみられる。同調の曲では、祈りを捧げるようなコーラスに包まれるクリスチャン・バラード「フラックス」や、フォーキーなメロウ・チューン「ブリーチ」も傑作。アップでは、ツーステップっぽいリズムの「タイズ」がいい。

 前作『デリリアム』ほどのインパクトには欠けるが、エリー・ゴールディングの本質が垣間見えた、過去作にはないパーソナルな内容がたのしめる本作『ブライテスト・ブルー』。キャリアを積んできたからこそ語られる…というのもあるが、こういった世界情勢を受けて考えさせられたであろうニュアンス要素も含まれている。希望溢れるユートピアを画いたタイトル曲「ブライテスト・ブルー」には、そういった想いがぎっしり詰め込まれた。

 昨年秋にアート・ディーラーのキャスパー・ジョプリングと結婚したばかりのエリーだが、夫はオックスフォードの大学に、自身は制作のためロンドンへと移住し、現在は別居中だという。とはいえ、不仲によるものではなく、あくまでお互いのライフスタイルを優先したうえでの決断ということで、ひと安心。「愛してるけど年中一緒にいる必要はないし、子供は欲しいけど今すぐってわけじゃない。そうでなくても私はすごく幸せだから」という、彼女の思想や生き方には頷かされずにはいられない。

Text: 本家 一成


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