<ライブレポート>星野源が配信ライブ【Gratitude】に込めた「音を奏でる喜び」と「再会の願い」
<ライブレポート>星野源が配信ライブ【Gratitude】に込めた「音を奏でる喜び」と「再会の願い」

 2020年6月23日にソロデビュー10周年を迎えた星野源。そのアニバーサリーを記念した配信ライブ【Gen Hoshino’s 10th Anniversary Concert “Gratitude”】が7月12日に開催された。会場はちょうど10年前の2010年6月23日、星野が初めてソロワンマン・ライブを行った渋谷クアトロで、当日はベニュー内に物販ブースに見立てた一角も用意されるなど、配信というイレギュラーな環境も巧みに生かした場面も多く見受けられた。

 配信は定刻通りに19時半からスタート。チケット販売数は会場キャパシティの100倍を大きく上回る約10万枚にものぼり、総視聴者数はおそらくその数倍であろうことを考えると、改めて彼の注目度や影響力の大きさを実感する。それは彼が単に膨大なファン数を獲得している国民的アーティストであるということだけでなく、この新しいライブ表現が模索され続ける今日において、この星野源ならばきっと稀有で新鮮な体験を提供してくれるはずだという期待、その実験精神に対するある種の信頼感に由来するはずだ。

 そんな多くのリスナーに見守られながら、ショーは「Pop Virus」からスタート。続いて2013年リリースの6thシングル「地獄でなぜ悪い」、2011年リリースの2ndアルバム『エピソード』に収録されている「湯気」へと、冒頭数曲はキャリアを遡っていくような選曲となっていた。今回のセットは、アルバム『POP VIRUS』収録曲や最新シングル「折り合い」などの若い楽曲群からデビュー初期の作品まで、年代を跨いだ選曲だ。

 バンド全体のアンサンブルが絶妙な調和を見せた「ステップ」、星野のギター・カッティングが軽快で、このバンド編成ならではのタフなアレンジが施された「桜の森」。そしてメンバー紹介のMCタイムへ。「最近どう?」と久しぶりの再会を噛みしめる友人同士のように、何気ないラフな会話を楽しむメンバーたち。MCに限らずこの日は終始、親密で和やかな空気が場を満たし続けていた。客席を使ってバンドが円形に配置され、まるでスタジオ・セッションを繰り広げているかのような布陣であることが理由かもしれないし、コロナ禍においてコミュニケーションの在り方が少しずつ形を変えつつある昨今だからこそ、というのもあるかもしれない。もちろんパフォーマンスからも「音を合わせ、一緒に鳴らせる」ことの喜びや充実感が伝わってきたし、とりわけ人間同士の様々な関係性に当てはめて聴くことができる「肌」は、より一層の深い響きを宿して届けられたように感じた。

 星野源流のネオソウルを奏でる「肌」、トム・ミッシュとの共同プロデュース曲「Ain’t Nobody Know」、星野自身がDAWの打ち込みだけで完成させたという「折り合い」と、近年ますます磨きがかかっていく彼のフュージョン感覚を堪能できたのがこのあたりの中盤セクション。「折り合い」のバンド・アレンジも生のグルーヴとサックスの音色が温かみを加え、味わい深い仕上がりだ。

 「この曲を書いたのは20代前半ぐらいの頃」「何度も歌っている昔の曲を歌うと、タイムスリップしたような不思議な気持ちになります。こんなに長い時間、音楽をやっていたんだなと」と弾き語りで披露された「老夫婦」。続く「未来」は東日本大震災の2日後に作られた楽曲で、「あれからもう少しで10年が経ちますね」「その頃には自分がこういう場所に立つとは全然想像できていなかったので、すごく面白いなぁと思うと同時に、やっぱ生きていくのは大変だなと」「でも、その中で面白い瞬間とか楽しい時間とか、ちゃんと自分で作って、ガシガシ生きていきたいなと思っております」と星野。その後に披露された「うちで踊ろう」までを含め、音楽が彼自身の人生に寄り添い続け、やがて多くの人間を巻き込むまでになった10年間の歩みに、想いを馳せずにはいられない一幕だった。

 後半戦の皮切りは「プリン」。もはや曲の尺を超えるほどのブレイク・タイムが設けられ、メンバーが好き放題にトークする展開がお馴染みとなっているナンバーだが、この日はなんと言っても河村“カースケ”智康(Dr)の「ひと月ぐらい前ですかね、孫が生まれました」という発表が大きなトピックだった。そこからは、デレデレしながら孫の愛おしさを(段取りを忘れてしまうほどに)熱弁する河村のトークが続く。

 後半は「Crazy Crazy」「SUN」「恋」と定番ナンバーを畳みかけ、Superorganismとの共作曲「Same Thing」を経て、バンド編成のパフォーマンスとしてはラストの楽曲となる「Hello Song」へ。曲中にシャウトされたのは「画面越しでも別にいいじゃーん!」という言葉。

 「ライブの代わりに“ライブっぽい配信”をやるのではなく」「お客さんが画面の向こう側にいるということをちゃんと意識したほうがいいと思う」と“配信”ライブであることを終始強調していた星野。そうやって自身が生きる社会と時代に対し、音楽を通じて真摯に向き合ってきた彼だからこそ、「いつかあなたに いつかあなたに 出会う未来 Hello Hello」という願いの歌を切実に、凄みを伴って響かせることができるのだと思う。バンド・メンバーを送り出し、「それでは最後に1曲、弾き語りをして終わりたいと思います」と言って披露された「私」の「死ぬのだけじゃ あんまりじゃないか」という一節が、今も頭の中で反響し続けている気がする。

Text by Takuto Ueda
Photos by 西槇太一

◎公演情報
【Gen Hoshino’s 10th Anniversary Concert “Gratitude”】
2020年7月12日(日)
東京・渋谷クアトロ
※無観客での配信ライブ(チケット制)
視聴パス:3,500円(税込)※7月19日(日)19:30まで購入可
(視聴パスをお持ちの方は、7月19日(日)23:59までアーカイブ視聴可)
https://l-tike.zaiko.io/_item/327293

<セットリスト>
01. Pop Virus
02. 地獄でなぜ悪い
03. 湯気
04. ステップ
05. 桜の森
06. 肌
07. Ain’t Nobody Know
08. 折り合い
09. 老夫婦
10. 未来
11. うちで踊ろう
12. プリン
13. Crazy Crazy
14. SUN
15. 恋
16. Same Thing
17. Hello Song
18. 私

◎リリース情報
『Gen Hoshino Singles Box “GRATITUDE”』
2020/10/21 RELEASE
<特典映像ディスクBlu-ray版(CD+DVD+BD)>
VIZL-1793 23,000円(tax out.)
<特典映像ディスクDVD版(CD+DVD+DVD)>
VIZL-1794 23,000円(tax out.)
https://jvcmusic.lnk.to/GRATITUDE