『シュート・フォー・ザ・スターズ、エイム・フォー・ザ・ムーン』ポップ・スモーク(Album Review)
『シュート・フォー・ザ・スターズ、エイム・フォー・ザ・ムーン』ポップ・スモーク(Album Review)

 今年2月、米ハリウッド・ヒルズの自宅で、何者かに射殺されたポップ・スモーク。2019年にデビューしたばかりということもあり、誰もが知る大ヒット曲はないままその生涯を終えたが、ニッキー・ミナージュとスケプタをフューチャーしたデビュー曲「Welcome to the Party」~同曲が収録されたデビュー・ミックステープ『Meet the Woo』は高く評価されていたし、今年2月に発表した2作目のミックステープ『Meet the Woo2』が、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で7位に、自身初のTOP10入りを果たしたばかり。まさに“これから”のアーティストだっただけに、ファンやアーティスト等が肩を落としたのも無理はない。

 ポップ・スモークは、米ニューヨーク・ブルックリン出身の新星ラッパー。出身地やラップ・スタイル、自ら影響を受けていると公言していたこともあり、50セントのファンからもこれからの活躍に期待が寄せられていた。そういった思いを受け継ぎ、同ニューヨークのレジェンド(となりつつある)50セント自身がエグゼクティブ・プロデューサーとして、本デビュー・アルバム『シュート・フォー・ザ・スターズ、エイム・フォー・ザ・ムーン』を完成させたのだそう。あの頑固者が率先して……というだけで、ポップ・スモークがいかに優れたアーティストだったかを物語る。

 その50セント自身は、自身のNo.1ヒット「Candy Shop」(2005年)をサンプリングした「The Woo」にゲストとして参加。同曲には、今年の上半期最大のヒットを記録した「The Box」でブレイク中のロディ・リッチもフィーチャーされている。また、2003年の年間アルバム1位を記録したデビュー作『ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン』からは、「Many Men (Wish Death)」を使用した「Got It on Me」もあり、自身をリスペクトしていたポップ・スモークのルーツを伺わせる曲が連なる。

 2000年代のヒップホップ・ヒットからは、「What You Know Bout Love」にジニュワインの「Differences」(2001年 / 4位)と、「Something Special」に米NYの代表格=ファボラスの「Into You」(2003年 / 4位)が、サンプリング・ソースとして使われている。

 重低音が腹にずっしり響く「Bad Bitch from Tokyo」~ミーゴスのクエイヴォが参戦したボースト「Aim for the Moon」と、冒頭から強烈なギャングスタ・ラップが炸裂。両曲には、トラヴィス・スコットやドレイク等のヒット・アルバムに提供してきたワンダガールが、ソングライター/プロデューサーとして参加している。

 クエイヴォは、フューチャーも加わったミーゴス路線のトラップ「Snitching」と、DJマスタードと共作したタイガとのコラボレーション「West Coast Shit」の計3曲に参加している。「Snitching」は、ヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲインの「Make No Sense」やミーゴスの新曲「Need It」を手がける、ブッダ・ブレスがプロデュースを担当。

 「For the Night」には、最新の米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で「Rockstar」を首位に送り込んだダベイビーと、アルバム・チャート“Billboard 200”で『マイ・ターン』が5週目の1位をマークしたリル・ベイビーの2大人気ラッパーが、ゲストとして参加。頭にこびりつくマイナー・メロもキャッチ―で、(タイミング的にも)シングル・カットしたらヒットが狙えそうな高水準の出来栄え。プロデューサーにはお馴染み、マイク・ディーンがクレジットされている。

 巻き舌でまくしたてる、畳みかけのラップ・スキルを披露した「44 Bulldog」、50セントまんま、タイトルまんまのギャングスタ・ラップ「Gangstas」、ヒップホップの典型ともいえるリリックの「Yea Yea」と、コアなファンが拍手喝采しそうなトラックが満載。ここ最近ポップ路線に転身しつつある(?)スウェイ・リーも、本作の「Creature」ではラッパーらしい一面をアプローチしている。「Creature」には、現ユニバーサルA&R部門の副社長であるスティーヴン・ビクターが、プロデューサーとして参加している模様。

 先行シングルの「Make It Rain」は、米ブルックリンのギャング集団GS9のメンバー、ロウディ・レベルをフィーチャーした、強靭なブルックリン・ドリル。押しつぶされそうな不穏なビートがむしろ心地よく、あえてこの曲をシングルとして起用したのも納得できる。前述のソング・チャートで51位、R&B/ヒップホップ・ソング・チャートでは21位のスマッシュ・ヒットを記録した。なお、シングル曲で最高位を記録したのは、ボーナス・トラックとして収録された「Dior」で、ソング・チャートで30位、R&B/ヒップホップ・ソング・チャートでは16位をマークしている。

 コロンビア出身の女性レゲトン歌手=カロルGがボーカルを担当したエキゾチックな「Enjoy Yourself」や、同米NY出身のラッパー=リル・ティージェイ参加のメロウ・チューン「Mood Swings」、ディディの息子でラッパーのキング・コムズをフィーチャーした、夏っぽい雰囲気のイースト・コースト・ヒップホップ「Diana」など、同世代の若手が活躍した意欲作も上出来。しかし、ディディの息子がデビューする年になったことには、少々驚かされる…。

 ここ最近のパヤパヤしたヒップホップとは少々温度差がある、攻撃的で男気溢れるギャングスタ・ラップを残してくれたポップ・スモーク。50セントのようなアーティストが不在だっただけに、20歳という若さでこの世を去ったことが“惜しまれる”と、声を大にして言いたいファンも多いだろう。処女作、遺作にして最高傑作。あたらめて凄い逸材だったと思い知らされた。

Text: 本家 一成