『アンゴッドリー・アワー』クロイ&ハリー(Album Review) 〈Billboard JAPAN〉|AERA dot. (アエラドット)

AERA dot.

『アンゴッドリー・アワー』クロイ&ハリー(Album Review)

このエントリーをはてなブックマークに追加
Billboard JAPAN
『アンゴッドリー・アワー』クロイ&ハリー(Album Review)

『アンゴッドリー・アワー』クロイ&ハリー(Album Review)


 米ジョージア州アトランタ出身、姉のクロイと妹のハリーのよる姉妹R&Bデュオ=クロイ&ハリー。2013年にビヨンセの「ベスト・シング・アイ・ネヴァー・ハド」、「プリティ・ハーツ」のカバー動画を投稿し、本人から絶賛されデビューに繋げるという、まさにシンデレラ・ストーリーを現実のものにした期待の新星。

 2016年には、そのビヨンセが代表を務める<パークウッド>と契約し、EP『シュガー・シンフォニー』をリリース。同年には、大盛況を収めたビヨンセの【フォーメーション・ワールド・ツアー】にオープニングアクとして出演し、その存在をアプローチした。

 翌2017年にリリースしたミックステープ『ザ・トゥ・オブ・アス』は、米ローリングストーン誌のベストR&Bアルバムとして掲載され、その勢いに乗り2018年に待望のデビュー・アルバム『ザ・キッズ・アー・オールライト』を発表。ジェイ・Z&ビヨンセ夫妻の【オン・ザ・ラン・ツアー 2】にも抜擢され、2019年の【第61回グラミー賞】では、<最優秀新人賞>と<アーバン・コンテンポラリー・アルバム>の2部門ノミネートされる快挙を達成した。

 日本で話題となったのは、昨年ハリーがディズニーの実写版『リトル・マーメイド』の主役に抜擢されたことだろう。黒人女性を起用したことで、SNSを中心に賛否を巻き起こしたが、「どんな状況でも前向きに、誰に何を言われても、前進するのみ」とポジティブなメッセージを発信し、評価を高めた。

 人気、知名度が高まった絶好のタイミングで発表したのが、本作『アンゴッドリー・アワー』。前述のデビュー作『ザ・キッズ・アー・オールライト』から約2年ぶり、2作目のスタジオ・アルバムで、2曲のシングルが先行リリースされている。

 1stシングルの「Catch Up」は、ヒップホップ・デュオ=レイ・シュリマーのスウェイ・リーと、マイク・ウィル・メイド・イットという人気ラッパー2人を招いた野心作。独特な雰囲気で煽る不穏なビートは、ビヨンセ他ケンドリック・ラマ―やシザ等のヒットを手掛ける、サウンウェイブによるプロデュース。姉妹のハーモニーとスウェイ・リーの滑かなボーカルのバランスも良く、AIフィギュアと化したスウェイ・リーの上半身に、タトゥーで掘られたクロイ&ハリーが歌う……という演出のミュージック・ビデオも、今っぽくて面白い。

 2000年代にヒットを連発したスコット・ストーチと、アリアナ・グランデやフィフス・ハーモニーといったポップ・シンガーまで幅広く手掛ける、女性シンガー・ソングライターのヴィクトリア・モネがタッグを組んだ2ndシングル「Do It」は、動画投稿アプリTikTokでプチ・ブレイクし、米ビルボードR&Bソング・チャートでは自己最高位の9位を記録するスマッシュ・ヒットとなった。チキチキしたサウンド・プロダクションは、かつてのバウンズ・ビートっぽく、ファルセット使いも故アリーヤを彷彿させる。スタジオ・セットをロケ地と錯覚させるユニークなミュージック・ビデオも、ダンス・パフォーマンス含め完成度高かった。

 美しいハーモニーによるイントロから繋ぐ「Forgive Me」は、売れっ子プロデューサーのジェイク・ワンとサウンウェイブが手掛けた、90年代後期~2000年初期を彷彿させるミディアム・チューン。タイトルとは裏腹に芯の強い女性が描かれていて、ファイターのような衣装で妖艶にパフォーマンするミュージック・ビデオでも、歌詞の世界観を表現した。

 3曲目の「Baby Girl」は、MeToo時代を引き継いだ女性のエンパワーメント・ソング。サビのコーラスが応援歌のように聴こえるのは、歌詞のせい……だろうか?「Do It」を挟んではじまる「Tipsy」は、タイトルをそのまま音にした、ホロ酔い気分に浸れるミディアム。エッチな表現も、“ちょっとだけ”なところが逆に官能的。この曲と、昨今のヒット・アルバムには欠かせないボーイ・ワンダー&ビニールズによるプロデュース曲「ROYL」では、トラップ・ビートに乗せてラップ・スタイルも披露した。

 英イングランドのダンス・デュオ=ディスクロージャーがプロデュースした「Ungodly Hour」は、彼等らしい英国産のフューチャー・ガラージに、浮遊感あるクロイ&ハリーのボーカルを乗せたダンス・トラック。R&B色は薄まるが、「こんな曲も歌えちゃうのよ」というアプローチには繋がった。一方、カミラ・カベロやH.E.R.のデビュー・アルバムで知名度を上げた、ジェフ・ギッテルマン作の「Busy Boy」は、アタマにこびりつく中毒性の高いゴリゴリのR&Bで、何でも柔軟に熟してしまうんだなと、感心させられる。

 ジェフ・ギッテルマンが手掛けたもう一曲の「Don't Make It Harder on Me」は、ハリーの実体験を基にしたもどかしい恋のお話、だそう。穏やかな旋律とジャンルをクロスオーバーしたトラックが、フリー・ソウルっぽい雰囲気を醸す。ドラマチックな展開を歌う次曲「Wonder What She Thinks of Me」もまた、ハリーの経験が含まれている。歌詞の繊細さもさることながら、この曲は2人の歌唱力が最もフィーチャーされたボーカルワークこそ聴きどころ。シングルとしてはインパクトに欠けるが、次作ではこういった壮大なバラードも積極的に取り入れていただきたい。

 歌い上げ系ではないライトなボーカル、美形過ぎない、絶妙なラインのエキゾチックなビジュアル。そして、姉妹だからこそ表現できるハーモニーやシンクロ・ダンスと、彼女たちでしか成し得ない表現の数々に、すっかり魅了されてしまった。なお、姉のクロイは、ビョークやグライムスといった個性派の女性ソロ・アーティストを、妹のハリーはジャズ界のレジェンド=ビリー・ホリデイを愛聴していたという。それぞれに個性が明確なのも、聴いてきた音楽に違いがあったから、かもしれない。

Text: 本家 一成


トップにもどる billboard記事一覧

続きを読む


おすすめの記事おすすめの記事
関連記事関連記事
あわせて読みたい あわせて読みたい