柴那典、玉井健二、グランジ・遠山大輔が ウィズ・コロナ時代の音楽を語るYouTubeLiveレポート
柴那典、玉井健二、グランジ・遠山大輔が ウィズ・コロナ時代の音楽を語るYouTubeLiveレポート

 2020年6月13日、agehaspringsがプロデュースを手掛ける会員制の音楽コミュニティagehasprings The Lab.リニューアルオープン記念トークプログラムが、MC・遠山大輔(グランジ)進行のもと、音楽ジャーナリスト・柴那典と音楽プロデューサー兼agehasprings代表玉井健二によってagehasprings YouTube Channelで生配信された。

 「どうなる?2020年の音楽~激動のパラダイム転換期の中で~」と題されたプログラムは、コロナ禍にある2020年の音楽業界の状況から始まり、2020年以降の音楽や音楽業界の在り方、今後活躍するアーティスト・クリエイター像までを柴、玉井がそれぞれの見地から縦横無尽に語る内容となった。

 先ず初めにトピックとなったのは、他の業界よりいち早く自粛という体制を余儀なくされ、約3ヶ月以上も打撃を受け続けているLIVE産業についてだった。

<LIVE産業への大打撃>

 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、2月末よりあらゆるLIVEやフェスが開催を自粛に追い込まれたことにより、LIVE産業に関わる企業・人々が相当な大打撃を受けている。そして、緊急事態宣言が解除された現在でも、これまでのような日々が戻る見通しはまだ見えない。

 そのような苦しい状況下においても、それぞれのライブハウスが早々に代替策を個々に打ち出して対応している事例を挙げ、柴は様々な困難が伴う状況であっても、ネガティヴな態度の人は少ないことに言及する。玉井も同様に、これまでに構築された確固たるシステムを今一度見直し、やろうと思ってもなかなか誰も出来なかった事への取り組みを加速させる良い機会であると捉えるなど、現状の痛みを理解しつつもポジティヴな見解を述べた。加えて、メディアなどで表立って語られるライブハウスの現状の裏側でLIVE制作の根幹を支える舞台監督、PA、照明、美術に携わるプロフェッショナル達がこのままでは廃業してしまう危機も、我々が問題視すべきであると指摘した。

 続けて、自粛期間に入ってからは、プラットフォームごとに多種多様な形式の配信LIVEが行われていることを柴が事例と共に説明。

・アーティスト本人のアカウントから配信されるインスタライブ
・YouTube等の配信プラットフォームを使ったLIVE配信
・無料視聴から投げ銭形式
・チケットを有料で購入して観るLIVE

 といった様々な新しい形のLIVE体験が同時多発的に生まれる一方で、巨大なTravis Scottの登場で世界的に話題になったシューティングゲーム「フォートナイト」に代表されるような、自らのアバターを使った仮想空間における参加型のLIVE体験、そして、韓国で既に話題になっている参加型の配信LIVE「Beyond LIVE」など、実際にLIVE会場に脚を運ぶのではなく全く違う環境で、全く違うストーリーでの興奮を生むLIVE体験やカルチャーが次々と台頭してきている状況について述べた。

 そして、自粛期間中の変化として、様々なアーティストが自らのアカウントで且つ自らの意志でLIVE配信をし始めた事に言及すると、ONE OK ROCKのTakaの呼びかけにより同年代のアーティストが終結、先日、YouTubeで公開された「[ re: ] /『もう一度』」においても、TakaからAimerへ直接連絡があったことにより話が進んだと玉井がエピソードを語った。

<音楽制作への影響>

 玉井はコロナ禍におけるレコーディングなど音楽制作に関しては、そこまでの影響が無いと述べた。まさに密閉空間である音楽スタジオだが、

・そこで作業を行う人物がそもそもそこまで多くない(プロデューサーにエンジニアの2人だけとか)
・ボーカルブース等、区切られている。
・編曲作業もオンライン可能。

 加えて、これまではある意味儀式的に人を集めて行っていたトラックダウンの作業も、最近では環境さえ整えればオンラインで行うことができる。わざわざスタジオに脚を運ばなくてもよくなった事から、複数人で集まる必要のあるグループ等は例外として、音楽制作はむしろこれまで以上にクリエイティブの面でもコストの面でも利点が多くなったという印象を語った。

<コロナ禍で台頭していくアーティスト>

 そして、話題は現在のコロナ禍の中でも、これまでとは全く違う文脈でメインストリームに躍り出た2組の新人アーティスト、YOASOBIと瑛人に及んだ。現在進行形で様々なチャートの1位、2位を独占しているこの2アーティストについて、柴は真逆のアーティストであると分析。大手レコード会社のソニーミュージックがアーティストの才能と叡智を結集して世間に仕掛けたYOASOBIに対して、全くの無名無所属の状態でバズを起こした瑛人はまさしく対極の存在だと語った。

 玉井も瑛人「香水」に対する独自の分析を展開。中でも「恋愛は当たり前の如く皆がするもの」という設定自体が無くなった今だからこそ、皆が歌いたくなる歌であると指摘した。また、コロナ禍の中で同様に台頭してきた新人アーティストとして、藤井風やVaundyの名前を上げ、彼らのような所謂音楽的に「本物」のアーティストがどんどん現れ、そして支持され始めていると語った。そして、Official髭男dismやKing Gnuの台頭以降、本物の音楽を求めるリスナーが増えているのは、非常に素晴らしいことだと付け加えた。

 最後に柴、玉井の両者は、新型コロナウイルスの世界的流行により、あらゆるものが変化を余儀なくされており、音楽業界、エンタテインメントも未曽有の大打撃を受け岐路に立たされているが、そんな中でも一つ別の視点を持つだけで、新たなクリエイティブのチャンスが生まれている現状に着目する重要性について触れる。オンラインでのイベントをはじめとした配信による新しいLIVE体験や、CDビジネスの文脈に当て嵌まらない全くの新しい方法論でメインストリームへと躍り出るアーティストの台頭など、新しくポジティヴなニュースに注目するべきだと結論づけた。

 これまでの方法論がこれまでどおり通用しなくなった現在は、全ての人が同じスタートラインに立っている状態であり、誰もがチャンスを掴めるとも言える。このコロナ禍のパラダイムシフトにおいて、音楽を諦めない、明るい未来を垣間みることができたトークセッションだった。次回の生配信にも期待したい。

 なお、本配信のアーカイブ映像は現在、agehaspringsのYouTubeチャンネルで公開されている。