Techstars Music主催【Demo Day】オンライン開催、2020年の有望なスタートアップ10社紹介
Techstars Music主催【Demo Day】オンライン開催、2020年の有望なスタートアップ10社紹介

 現地時間の2020年5月5日、第4回となるTechstars Music主催の【Demo Day】が、今年は新型コロナウィルスの影響によりネットに発表の場を移して開催された。

 毎年米カリフォルニア州のNeuehouse Hollywoodで開催されていた完全招待制の同イベントは、音楽やオーディオ関係の有望なスタートアップ企業が、投資家や音楽業界幹部の前で活動内容をプレゼンテーションする。
 米ビルボードが独占配信した2020年版では、Techstars Musicによる3か月間のアクセラレーター・プログラムを終えたばかりの10社が参加した。このプログラムを通じ、各社はTechstars Musicが出資した資本金12万ドル(約1,300万円)を受領すると同時に、音楽/テクノロジー/ベンチャー・エコシステムから300人を超えるメンターに師事することができた。

 プレゼンテーションの冒頭で、Techstars Musicの最高責任者Bob Moczydlowskyは、アクセラレーター・プログラムのメンバー企業であるビル・シルヴァ・エンターテインメント、Qプライム、eOne、ワーナー・ミュージック・グループ、レコチョク、ペロトン、コンコード、ソニー、ロイヤルティ・エクスチェンジを紹介し、イベントには各社からの代表者が登壇した。また、Moczydlowskyは、2021年度のプログラムにアマゾン・ミュージックがメンバー企業として参加することも明かしている。
 以下、今年ショーケースされた10社とその活動内容を紹介。なお、Techstars Musicは、世界第2位という日本の音楽市場の風要請を踏まえ、また支援メンバーとしてエイベックス、ソニー、レコチョクという日本の企業が加わっていること、日本のスタートアップ企業のプロジェクト応募も増えていることを考慮し、今回 日本向けに「Demo Day」の映像を日本語字幕付きで5月22日(予定)から5月末まで期間限定で再配信する。
◎Strangeloop Studios
 ヴィジュアル・コンテンツ制作会社であるStrangeloop Studiosでは、既にザ ・ウィークエンド、フライング・ロータス、ケンドリック・ラマーなどとコラボしており、覆面アーティストであるマシュメロやDeathpact(デスパクト)との仕事を通じ、”ヴァーチャル・アーティスト”の可能性を追求し始めた。
 Strangeloopでは現在、人間が作り出した音楽に100%バックアップされたヴァーチャル・アーティストたちの世界を開発している。アクセラレーター・プログラムでは、”Spirit Bomb”と呼ばれる第1陣のキャラクターのための音楽制作を、自社クライアントであるNosaj Thing、Justin Baretta、Autry Fullbrightに依頼した。ゆくゆくはこのような”世界”を数多く世に送り出し、有名アーティストに支えられた数百ものヴァーチャル・パフォーマーが”ツアーを開催”し、関連商品を生み出し、他のメディアへのライセンス供与を可能にすることが目標だ。
 既に多くのファンを持つアーティストの協力を求めることでこれらのキャラクターに興味を繋げることが同社の狙いだが、アーティスト側にもメリットがある。自身のヴァーチャル関連キャラの活躍により、主要アルバム・サイクルに当てはまらない時期にも新たな収入の機会がつくられるためだ。
◎Audigo Labs
 テスラの元エンジニアリング・マネージャー、Armen Nazarianが立ち上げたAudigo Labsは、音楽の録音/編集/共有をよりポータブルにすることを目的として設立された。携帯ワイヤレス・マイク、モバイル・アプリ、クラウド型データ管理プラットフォームを活用することにより、ユーザーが高価な機材を使わずに直接スマートフォンでプロ品質のオーディオとビデオを録ることを可能にする。

 同社のテクノロジーは、人気ポッドキャスターSklar Brothers、ラッパー/音楽プロデューサーHeno、ナイジェリア人アーティストTeeklefが既に使用を開始しているほか、プレゼンテーションではミュージシャン同士がリモート・セッションを円滑に進めるために使えることを紹介するデモンストレーションが行われた。

 Audigoはこのレコーディング・テクノロジーを月々20ドル(約2,100円)以下という手頃な価格で提供する方針で、マイク数、クラウド・ストレージ量、コラボレーション・レベルによってスケールアップされるオプションも用意される。
◎Entertainment Intelligence (EI)
 EIでは、クライアントの必要に応じ、Spotify/YouTube/Pandoraなどの大手ストリーミング・サービスや、Sub Pop/Concord/Secretly Groupなどのレコード・レーベルや代理店などから直接抽出されたデータを基に細分化されたデータ・セットに再構築できるようにしている。
 いずれ米国音楽業界全体の20%のデータを扱うことが目標で、達成された時点で機械学習モデルがマーケット全体を推定できるようになり、EIの製品をレーベルやアーティスト、ツアー・マネージャー、ストリーミング・サービス、ブランドなどに売り込むことが可能になるという。
 プレゼンテーションでは、”ブロードウェイのサウンドトラックをフィリピンのリスナーに売り込みたいと考えているレコード・レーベル”という仮定シナリオが用意された。EIのデータを使うことにより、どのような人が聴いているのか、どのプラットフォームを利用しているのか、そしてさらに多くの消費者に届けるにはどうすればいいのかなどが分かるようになる。
◎Elastic Audio
 UnityやUnreal Engineなどのリアルタイム開発プラットフォームがゲーム業界のグラフィックにもたらしたようなツールを、ビデオゲームのサウンド面で提供することを目標とする企業。

 ゲーム業界のサウンド・デザイナーの仕事は現在、過度に複雑で時間がかかるものだが、これは利用できるツールが”それぞれ孤立してしまっているため”であるとアンドリュー・ベックCEOは指摘する。同社のサブスク・ベースのデスクトップ・アプリケーションを利用し、個別にしか使えなかったツールのオーディオ・ストリームにElastic Audioプラグインを挿入、シームレスでリアルタイムなサウンド・メイキングが可能になる。

 同社推薦者としてプレゼンテーションに登場した、受賞サウンド・デザイナーでオーディオ・ディレクターのアンドリュー・ラッキー(Andrew Lackey)は、Elastic Audioの技術について、「これまで何年もかかって構築してきたシステムを作り直すのではなく、再利用することができる」と太鼓判を押した。
◎Fanaply
 Twitch、Fortnite、どうぶつの森などのゲームやゲーミング・プラットフォームにおける、デジタル・コレクションやヴァーチャル・グッズの人気の高まりを受け、Fanaplyでは同様のコンセプトをスポーツ、音楽、そしてエンターテインメント業界にも広げることを目指している。
 同社は、2019年の【コーチェラ】でフェスティバル公式デジタル・コレクション・セールス・パートナーとして満足のいく結果を出した。【コーチェラ】公式アプリ内でデジタル・コレクションにアクセスできるようにしたところ、6万人の来場者が4万個以上のアイテムを受け取った。2020年10月に延期された今年の【コーチェラ】にも参加予定で、既にアリアナ・グランデやトラヴィス・スコットなどの有名アーティストとパイロット版のテストを行っている。
 グラント・デクスターCEOは、有名人やアスリートとの提携を拡大することにより、一人当たり5万ドル~25万ドル(約500万円~2,700万円)の収益がもたらされると推定している。今後もフェスティバルやスポーツ・チームなど、公式アプリへの導入を望む企業へ自社の技術をライセンス供与することで、年間25万ドルのライセンス収入を得たいとしている。
◎Unidentified Landed Object (ULO)
 ULOでは、アーティストやブランドなどがプロモーション・ツールとして利用できる、ショート形式の没入型の体験を可能にするグローバル・プラットフォームを提供している。独自仕様で低価格のこれらの”マイクロ体験”は、1,000平方フィート(約92平方メートル)のスペースに収まり(グッズとロビー・エリア含む)、複数感知型のデジタル・コンテンツを特徴とするインタラクティブなショーが実世界に投影される。
 Snapchatで拡張現実を担当していたULOのDani Van De Sande CEOによると、最近行われた大手不動産会社との試験運用では、10日間の開催期間中に1,000枚のチケットが売れ、ULOが収益の10%を獲得した。今後は前払金や分配収益のほかにも、ULOのシステムを自社敷地内で保管するクライアントから月額使用料を徴収することもできるようになる。また、現地に足を運ぶことができないユーザーのためにスマートフォンなどのデバイスでストリーミングできるデジタル・ヴァージョンも開発できるとのことだ。同社では現在メジャー・レーベルやアーティスト、ロケーションなどと交渉中で、2021年の開始を目指している。
◎Tribe XR
 Tribe XRは、DJ機材の使い方を体験しながら学べるヴァーチャル・スタジオだ。VRヘッドセットがあれば誰でもこのスペースを利用でき、先生についてもらいながら現実でも再現できるDJスキルを学ぶことができる。また、ヴァーチャル・スタジオでは他のユーザーと音楽制作でコラボすることが可能で、楽曲をアップロードし、Twitchや他の生配信プラットフォームでヴァーチャル・パフォーマンスを披露することもできる。
 Tribe XRでは現在、16,000人のユーザーから月々3万ドル(約320万円)の収益があり、毎週8%ずつ増加しているとTom Impallomeni CEOは報告している。TribeのシステムはDJだけでなく、楽器やダンス、演技や映画制作、ファッション・デザインなどの実用的なスキルにも応用できることから、2024年までに15種のスキルに増やし、年間1億ドル(約106億円)の収益を目指したいとしている。
◎Splashmob
 Splashmobでは、ライブやヴァーチャル・イベントなどをリモートで楽しむ視聴者のために、ユニークでインタラクティブな体験をアーティスト側が提供できるセルフサービス方式のセカンド・スクリーン体験プラットフォームを開発している。アンケートなどのツールや商品ページやSNSへのリンク、ゲーム、歌詞表示など、その内容は多岐にわたる。

 同社では都度課金制サブスク・モデルを採用しており、無料で利用開始できるが、各種有料アップグレードを通じカスタマイズやアドオンを追加することができる。

◎Fansifter
 ファン層に関するデータを管理するプラットフォームであるFansifterでは、マネージャー、レーベル、プロモーター、権利者などが所属アーティストに関するデータ・セットをアップロードするとそれらが統合され、ファン層の最も重要な区分にターゲットを絞って宣伝するための細分化されたソリューションが提供される。

 同社のシステムを使うことでマーケティングにかかる費用効率を向上させることができ、現在パイロット版をバンドのピクシーズと進めているとAivar Laan CEOは明かしている。
 
 サービス開始の第1段階では、プロモーター/レーベル/グッズやチケット会社は必要に応じて調整可能な月額料金を支払う。十分なデータが集まったところで第2段階に移行、”オーディエンス区分マーケットプレイス”を通じ、コンシューマー・ブランドやエンド・ユーザーが広告キャンペーンなどに対象オーディエンスを事実上”貸し出す”ことができるようになる。収益の80%がデータ所有者に、20%がFansifterに配分される。
◎Delta AI
 現状では動画を検索するのは難しく、ブランドにとってどういう人が自社の知的財産と関わっているのか知る術がハッシュタグやキーワードくらいしか方法がない。このため、毎年200億ドル(約2兆1,280億円)もの広告費が無駄になっているとDelta AIのTiffany Guan CEOは指摘している。
 Delta AI独自の機械学習テクノロジーを使うことにより、動画内のブランドロゴや製品、キャラクターなどに対するオーディエンス・エンゲージメントが確認可能となる。同社の”コンピューター・ヴィジョン”テクノロジーは、人間の動作も”見る”ことができることから、例えばTikTokなどのプラットフォームでダンス・キャンペーンを展開するマーケティング担当者は、単なるハッシュタグ検索だけでは拾いきれなかった成功の全体像を把握することができる。
 最近パイロット版をザ・ウィークエンドの「ブラインディング・ライツ」ダンス・キャンペーンで使用した際、Delta AIはメタデータのみより6.5倍の動画をキャッチすることができた。モニターするアカウント数と検索するプラットフォーム数により料金が異なる月額使用料を徴収する計画で、エンターテインメント分野のみで3,600万ドル(約38億円)の収益を見込んでいる。