『ダーク・レーン・デモ・テープス』ドレイク(Album Review)
『ダーク・レーン・デモ・テープス』ドレイク(Album Review)

 2020年5月1日に突如リリースされた、ドレイクの新ミックステープ『ダーク・レーン・デモ・テープス』。ミックステープとしては、2017年発表の『モア・ライフ』から約3年、アルバムとしては昨年夏にリリースした未発表曲集『ケア・パッケージ』から9か月ぶりの作品となる。その間に発表した5作目のスタジオ・アルバム『スコーピオン』は、米ビルボード・アルバム・チャート “Billboard 200”で5週連続のNo.1をマークし、同年の年間チャートでは2位にランクインするモンスター・ヒットを記録した。

 今年に入ってからは、フューチャーとコラボレーションした「Life is Good」が米ビルボード・ソング・チャート “Hot 100”で初登場から8週連続2位にランクインし、本作からの先行シングル「Toosie Slide」は同チャート1位に初登場と、ピークを過ぎたどころか依然好調、他者をものともしない大活躍をみせている。ドレイクの独走はいつまで続くのか…という疑問を抱く中、本作でまた新たな記録を更新するのだろう。なお、『ダーク・レーン・デモ・テープス』に収録されたタイトルは、これまでにSNS等でリークされたナンバーや、<サウンドクラウド>に公開していた曲、未発表の新曲が含まれている。

 大ヒット中の「Toosie Slide」は、昨今ヒットの火種となっているTikTokのダンスチャレンジでブレイクし、ストリーミングを強化させた。リリース同日に公開されたミュージック・ビデオでも、マイケル・ジャクソンのステップを取り入れたダンスを披露。なお、撮影場所である超豪邸はトロントにある自宅とのことで、マスクを覆った衣装からもコロナ対策への配慮が伺える。3月末、隠し子とされていた息子を披露した際も、感染へのリスクを訴えていたドレイク。ダンス動画をSNSで拡散させたのも、そういった意図が含まれているのだろう。

 「Toosie Slide」プロデュースは、先述の「Life Is Good」を手掛けたスイスの音楽プロデューサー/ソングライターのOZ。OZは、「Time Flies」と「Losses」の計3曲を手掛けている。「Time Flies」は、「Life Is Good」の別バージョンとして制作したとの説もあり、トラップ特有のシンセ&ハイハット使いやメロディラインが類似している。「Losses」は、3月に新型コロナウイルスの陰性を発表した際のインスタ・ライブで一部披露されたナンバーで、ライブにも登場した実父であるデニス・グラハムとのやり取りが使用されている。

 オープニング・ナンバー「Deep Pockets」は、「One Dance」(2016年)や「Nice for What」(2018年)等の全米No.1ヒットを手掛けたノア"40"シェビブによるプロデュース曲。ステッツァソニックのクラシック・ナンバー「Go Stetsa I」(1986年)をサンプリングしたクールなトラックで、アルバムの幕開けに相応しい。ノア"40"シェビブがプロデュースしたもう一曲のタイトル「From Florida with Love」は前月にリークされた曲で、『スコーピオン』の制作時に作られた曲とのこと。歌詞の一部には故コービー・ブライアンに触れた内容が含まれている。

 カニエっぽい早回しスタイルの「When to Say When」は、ジェイ・Zの人気曲「Song Cry」(2002年)でも話題を呼んだボビー・グレンのソウル・クラシック「Sounds Like A Love Song」(1976年)がネタ使いされている。サンプリング曲では、エミネムの「Superman」(2002年)を一部使用したレトロなメロウ・チューン「Chicago Freestyle」も傑作。使い方も絶妙で、エミネム世代にはグっとくるものがある。同曲には、米ロングビーチ出身のシンガー=ギヴオンがフィーチャリング・アーティストとして参加している。

 4曲目の「Not You Too」は、クリス・ブラウンのボーカルをフィーチャーしたスロウ・ジャム。ドレイクとクリス・ブラウンは、長年にわたりリアーナを巡ってバトルを繰り広げていたが、昨年「No Guidance」を大ヒットさせ完全に和解した模様。曲の雰囲気も、その「No Guidance」に程なく近い。この曲でも“ある女性”について歌われているようだが、果たして?

 「Life Is Good」で共演したばかりのフューチャーは、「Desires」とヤング・サグが加わった「D4L Freestyle」の2曲に参加。前者は<サウンドクラウド>でのみ公開されていたナンバーで、ファンからは多くの反響が寄せられていた。後者は、昨今大フィーバーを巻き起こしたトラップの走りともいえる、米アトランタ出身のヒップホップ・グループ=D4Lへのオマージュ。彼らを意識した南部らしいトラックを手掛けたのは、同アトランタの売れっ子サウスサイド。ドレイクの曲という前提で聴くと、なかなか違和感を覚える。

 ピエール・ボーンがプロデュースした「Pain 1993」は、プレイボーイ・カルティとのコラボレーション。人気ラッパーのスタイリストとして活躍したイアン・コナーのブランド<Sicko Born From Pain 1993>から拝借した曲で、カバー・アートや歌詞にもファッションに纏わる内容が含まれている。なお、イアン・コナーは以前カルティのマネージャーを務めていたとのこと。米ブルックリン出身のラッパー=ファイヴィオ・フォーリンと、米NY出身のソーサ・ギークが参加したドリル調の「Demons」や、2018年の年間チャートを制した「God's Plan」のプロデューサー、カードーが担当したゴリゴリの「Landed」も上出来。

 アルバムの最後を締めくくる「War」は、昨年末にミュージック・ビデオが公開された話題曲。OVOの主力でマネージャーのオリバー・エル・ハティーによる『El-Kuumba Tape Vol. 1』にも収録されている。金目当てで寄ってくる女性陣への苦言や、ネット民への反論、それから“隠し子”発言を巡って関係が悪化していたザ・ウィークエンドへのメッセージが綴られている等、歌詞が強烈。UKのプロデューサー、AXLビーツが手掛けたドリルフロウも凄まじく、本作の目玉曲といえるだろう。

 収録されたタイトルは、いずれも“寄せ集め”とは到底言い難いクオリティの高さで、アルバムとしても成立している、というか“ひとつの作品”としてのまとまりがある。しかし、SNSで小出しにしたり、ネットにリークさせて話題作りをしたりと、プロモーションの変化には時代の移り変わりを感じさせられる。楽曲のセンスのみならず、そういった流行にも敏感なところがドレイクの強みともいえるか。

 ディディがインスタ・ライブで開催した『チャリティー・ダンス・マラソン』に出演した際、間もなく迎える2020年夏に大ヒット作『スコーピオン』に続く6枚目のスタジオ・アルバムもリリースすると宣言していたドレイク。その出来栄えにも満足しているようで、実現すれば2枚のアルバムがチャートを荒らすことになるだろう。おそらく、ドレイクの快進撃はまだまだ止まらない。

Text: 本家 一成