『ビフォア・ラヴ・ケイム・トゥ・キル・アス』ジェシー・レイエズ(Album Review) 〈Billboard JAPAN〉|AERA dot. (アエラドット)

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『ビフォア・ラヴ・ケイム・トゥ・キル・アス』ジェシー・レイエズ(Album Review)

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『ビフォア・ラヴ・ケイム・トゥ・キル・アス』ジェシー・レイエズ(Album Review)

『ビフォア・ラヴ・ケイム・トゥ・キル・アス』ジェシー・レイエズ(Album Review)


 1991年生まれ、カナダはトロント出身。わずか7歳で曲を作り始めたという生粋のシンガーソングライター、ジェシー・レイエズ。2016年発表のデビュー曲「Figures」が、本国カナダで58位、米ビルボード・リズミック・チャートで32位まで上昇。同曲が収録されたデビューEP『Kiddo』は、米R&Bアルバム・チャートで23位を記録し、内容そのものも大きく注目された。

 2018年に発表した2枚目のEP『ビーイング・ヒューマン・パブリック』は、同R&Bチャートで13位をマークし、自己最高位をさらに更新。今年1月に開催された【第62回グラミー賞】では、<アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞>にノミネートされる快挙を達成した。本作『ビフォア・ラヴ・ケイム・トゥ・キル・アス』は、その2枚に収録されたタイトル含む、自身初のスタジオ・アルバム。AllMusicやPitchforkの担当者が絶賛し、2020年の大本命との呼び声も高い。

 アルバムの最終曲として収録された先述の「Figures」は、ギター&ベースのシンプルなサウンドに、ジェシーの感情を振り絞ったボーカルを乗せたレトロなソウル・ミュージック。どうしようもない男に引っかかってしまった女の嘆き…とでもいおうか。女子の“あるある”も、表現に個性派ならではの強烈さがある。椅子に座ってひたすら歌うミュージック・ビデオも、構成は超簡素だがジェシーの荒々しい表情だけで十分間が持つ。

 『ビーイング・ヒューマン・パブリック』からは、米アトランタのラッパー/シンガーの6LACK(ブラック)と共演した「Imported」が収録されている。同曲は、米R&Bチャートで14位を獲得し、シングルとしては自身初のランクインを果たした出世曲。両者のお得意とするドリーミーなトラックに、中毒症状をイメージする歌詞をブレンド。トータルで完成度の高い曲だが、中でもブラックのパートに割り込むようファルセットを重ねる、ジェシーとのハーモニーは最高。ヒットしたのも納得の、本作の目玉曲と推したい。

 1月には、アルバムからの正式な先行シングル「Love in the Dark」という曲がリリースされている。想いを卓抜した表現で綴ったバラード曲で、響き渡るコーラスをバックに、声高らかに歌う壮大さには、感情のひだとも呼ぶべきものが込み上げてくる。満天の星と大自然に包まれたジェシーがあまりにも美しい、絵画タッチのMVも楽曲の世界観そのものですばらしかった。この曲も、「Imported」と争う最高傑作。

 冒頭の「Do You Love Her」は、ノルウェー出身の音楽プロデューサー=フレッド・ボールとの共作曲。ピアノを主とした美しい旋律のミディアム・メロウだが、何かが乗り移ったかのように歌うジェシーのボーカルと、「私はあなたが生み出した怪物」という狂気な歌詞が、ある意味アルバムへの期待値を高める。次曲「Deaf (Who Are You)」は、甲高いシンセ音が不気味に響くダーク・アンビエントで、この曲では見事なラップ・スキルも披露した。

 3曲目の「Intruders」は、エリカ・バドゥあたりをお手本とした典型的なネオ・ソウル。生音を活かしたナチュラルな空気感と、終始リラックスしたジェシーの歌い回しが前曲の興奮を一気に鎮静させる。次曲「Coffin」は、約1年半ぶりとなるエミネムとのコラボレーション。エミネムが2018年に発表したアルバム『カミカゼ』では、日本のアニメ『東京喰種トーキョーグール』の挿入歌をサンプリングした「Good Guy」と「Nice Guy」の2曲に参加し、知名度を一気に高めた。今作の「Coffin」は、その2曲とは全く違うテイストのブルージーなハチロク・メロウで、輪廻転生や宗教といったフレーズ含む、死をテーマにした内容になっている。

 死をテーマにしたといえば、アルバムの発売と同時に公開されたビデオで幽体離脱する「I Do」という曲がある。一度霊体験をしたかのリアリティがある歌詞、そのものを再現した同ビデオは、白装束のダンサーに囲まれフェイドアウトしていくエンディングが印象的で、「人ってこういう風に死んでいくんだ」と、そんな想いがこみ上げてくる。ジャズのインタールードや、ゴスペルによるコーラスをうまく起用したサウンド・プロダクションも完璧。

 音楽プロダクションのザ・モナークがプロデュースした「Ankles」は、性犯罪を比喩的表現で非難した曲。インタビュー記事なんかをみると、本人にとって思い入れの強い曲であることが分かる。スペイン語で情熱的に歌う、コロンビアの血を受け継いだラテン・トラック「La Memoria」、古いレコードを回しているかのような錯覚に陥るアコースティック・メロウ「Same Side」、一転してガチガチに今っぽい、黒さを醸したトラップ「Roof」、「Deaf (Who Are You)」以上に難易度の高いラップを操る“アガる”系のダンス・トラック「Dope」と、後半カメレオンのように変幻自在に実装するジェシー。評論家や著名アーティストが大絶賛するのも当然だ。なお、「Dope」は昨年配信されたNetflix映画『サムワン・グレート』で、ジェシー自身が出演し曲を披露している。

 本作は、愛、自己認識、喪失感、宗教、社会情勢などがテーマだそうで、歌詞を読み取ってみるとその主題に納得させられる曲で統一されている。サウンドのみならず、歌詞の難易度も相当高いが故、どちらかというとマニア向けのアイテムといえなくもないが、彼女を絶賛するビリー・アイリッシュの世界観と多少精通していることもあり、多くの支持者を獲得することも期待できそう。

Text: 本家 一成


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