『ベルベット』アダム・ランバート(Album Review) 〈Billboard JAPAN〉|AERA dot. (アエラドット)

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『ベルベット』アダム・ランバート(Album Review)

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『ベルベット』アダム・ランバート(Album Review)

『ベルベット』アダム・ランバート(Album Review)


 ここ最近、70~80年代に回帰するアーティストが増えている。ディスコやシンセ・ポップ、ニューウェイブなど、当時の音をそのまま再現した曲も少なくない。最新の米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”(2020年3月28日付)でいうと、2位にランクインしているザ・ウィークエンドの「Blinding Lights」や、3位のデュア・リパ「Don't Start Now」あたりが、まさにそう。

 アダム・ランバート5年ぶりの新作『ベルベット』も、そういった風潮をとらえている。米ニューヨークのソングライター・デュオ=キネティクス&ワン・ラヴがプロデュースしたオープニング・チューン「Velvet」は、“79年ヴィンテージ”というフレーズが登場する歌詞直結の、ディスコ・フロアを再現したダンス・ポップ。アダムのレトロ感あるボーカルとも相性良く、当時のファッション、ヘアスタイルを取り入れたミュージック・ビデオも、“ならでは”の世界観に溢れていた。

 イントロ&アウトロのギターソロに陶酔する「Superpower」は、ファンキーなトラック、ファルセット使い全てが故プリンスに紐づいた仕上がりで、この曲もまたヴィンテージの風合いがある。フェミニンで淫らなウラ声、上下にうねるベースラインがまんまのファンク・ポップ「Loverboy」も、殿下やジョージ・マイケルへのリスペクトに満ちていてカッコいい。

 紫と緑のベルベットを纏ったカバー・アートからして、ディスコ~ファンク時代を彷彿させる本作『ベルベット』。当の本人も、両親が聴いていた時代のレコードからインスパイアされ、ソウルフルに焼き直したと話している。これが彼にとっての“原点回帰”であるのは、根底にある音楽がこの時代のヒット・チューンだから、だろう。

 冒頭から力強いボーカルを聴かせる「Stranger You Are」は、「PLAY THAT FUNKY MUSIC」(1976年)のヒットで知られるファンク・バンド=ワイルド・チェリー路線のディスコ・ファンク。当時チャートを荒らしていたロッド・スチュワートっぽい歌い方も、ファンキーなトラックと見事マッチした。その70年代後期にヒットを連発した、シックのメンバーで音楽プロデューサーのナイル・ロジャースを招いた「Roses」でも、彼等最大のヒット曲「Good Times」(1979年)を下敷きにしたようなディスコ・ブギーを聴かせてくれる。クイーンのタイトルでは、「Another One Bites the Dust」(1980年)に近い感じか。

 メンバーのブライアン・メイとロジャー・テイラーに招かれ、「クイーン+アダム・ランバート」としての活動を成功させたアダム。ステージでは、敬愛する故フレディ・マーキュリーを継承した見事なパフォーマンスを披露したが、本作はクイーンの作品とは線引きをし、ソロ・アルバムとしての個性をしっかり表現している。

 腰が浮きそうになる前5曲から形勢を変え、6曲目にはエレクトロニカやエフェクトを使わないピアノのシンプルなバラード曲「Closer to You」を配置。美しいメロディラインとエモーショナルなボーカルが魅力のバラード曲では、大編成のアンサンブルにゴスペルのバック・コーラスを乗せた「Feel Something」も絶品。フィナーレを飾るに相応しいゴージャス感と、不安定な心情を綴った歌詞は、今のアダムだからこそ表現できる業。

 「New Eyes」は、前半のディスコ~ファンクとはまた違うテイストのオールディーズ・ロック。芯に響くギター・フックと、ずっしりとしたドラム・ビートいずれも70年代風で、ヒッピーやロック・シンガーを真似たロングヘアで登場するサイケなMVも、当時をイメージした作りになっている。ロックでは、パワフルなボーカルとエネルギッシュなトラックに圧倒させられる「Love Don't」もいい。

 英ロンドンのシンガーソングライター=MNEKとブッチ・ウォーカーが参加した、ノスタルジックなシンセ・ポップ「Overglow」、音楽プロダクションのザ・モナークがプロデュースした、殿下まんまのブルージーなミッド・ファンク「Comin in Hot」、ハイトーンとエレクトリック・ギターが映えるグラム・ロック「Ready to Run」等、1曲1曲が丁寧に作られていて、パフォーマーとしての成長が伺えるアルバムに仕上がった。LGBTQフォロワーからも支持されるアダムだが、歌詞においてはにはそういった要素やトランプ政権へのダイレクトな批判はみられず。どちらかというとトラックのインパクトが強い。

 2009年にオーディション番組『アメリカン・アイドル』で準優勝し、同年リリースしたデビュー・アルバム『フォー・ユア・エンターテイメント』が米ビルボード・ソングチャート“Billboard 200”で3位にランクイン。2012年の2ndアルバム『トレスパッシング』は同チャート1位に輝き、シンガーとして大成功を収めたアダム・ランバート。最高3位を記録した前作『オリジナル・ハイ』(2015年)に続く本作で、さらなる飛躍の時を迎える。

Text: 本家 一成


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