『SUGA』ミーガン・ジー・スタリオン(EP Review)
『SUGA』ミーガン・ジー・スタリオン(EP Review)

 EPとしては3作目となる本作『SUGA』のリリースを巡っては、レーベル<1501 Certified Entertainment>との相違により一時危ぶまれるという事態が勃発したが、発売4日前解決に至り、無事発表することができたという経緯がある。翌々日には、アートワークと全9曲のトラックリストをSNSに投稿し、ファンを沸かせた。

 本作からは、1月にリリースされたリード・シングル「B.I.T.C.H.」が、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で31位、ラップ・ソング・チャートでは11位まで上昇するスマッシュ・ヒットを記録。同曲は、故2パックの「Ratha Be Ya Nigga」(1996年)をサンプリングした90年代ベースのミディアム・トラックで、自信満々で披露した“女版”を見事に演じ切っている。黄色の毛皮を纏ってオープンカーを走らせるミュージック・ビデオ含め、リメイクは大成功だったといえよう。なお、インスタグラムではノトーリアス・B.I.G.の「Hypnotize」(1997年)に乗せたフリースタイルも披露している。

 引っ張りだこのR&Bシンガー、ケラーニが客演の「Hit My Phone」もナインティーズ感満載。中期あたりのサウンドを下敷きにしたこの曲からも、ミーガンの先陣に対するリスペクトが感じられる。線の細いケラーニと、ドスのきいたミーガンのハスキー・ボイスの対比も相性良く、2分半で終わってしまうのが惜しいくらい。プロデュースは、ファンク・ユニット=タキシードとしても活動しているジェイク・ワンが担当している。

 ミーガン・ジー・スタリオンは、そのヘンのビッチじゃない。冒頭の「Ain't Equal」では、周囲の雑音をものともしない、確立した強い女性像を強調した。 なお、アルバムのタイトルの『SUGA』とは彼女の別人格(オルター・エゴ)のことで、問題だらけの自分自身を認めることを恐れない、そういったキャラクターを描いてるのだそう。巧みなフロウやクールなトラック含め、芯からカッコいい媚びない女性であることが、本作で明白になった。

 2曲目のシングルとしてカットされた「Captain Hook」は、“ホット・ガール”らしいセクシャルな示しを内包した、フィーメール・ラッパーらしい一曲。低速・高速を巧みに使い分けたラップ・スキルもすばらしく、この曲もどこか90年代っぽさを醸した一面がある。J・ホワイト・ディド・イット(カーディ・B、イギー・アゼリア等)が手掛けた「Savage」や、昨年アリアナ・グランデの「thank u, next」や「7 rings」を大ヒットさせた、トミー・ブラウンによるプロデュース曲「Rich」も、彼女が愛聴していたレジェンドたちの風格を漂わす。

 一方、人気ラッパーのガンナをフィーチャーした「Stop Playing」や、次曲「Crying in the Car」は、どちらかというと今っぽい仕上がり。しかも、これがファレル・ウィリアムスによるライティング/プロデュースだというから驚きだ。良い意味でファレルらしさが緩和されているのは、サウンドよりもミーガンの存在感が強いからだろう。ティンバランド作の 「What I Need」では、ボーカルとラップを使い分けたアーバン・メロウに挑戦している。

 米テキサス州ヒューストン出身。2018年に<300 Entertainment>と契約し、翌2019年にはニッキー・ミナージュ&タイ・ダラー・サインとコラボした「Hot Girl Summer」が全米11位の大ヒット。同曲が収録された初ミックステープ『フィーバー』が、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で10位、R&B/ヒップホップ・チャート6位、ラップ・チャート5位のスマッシュ・ヒットを記録した。カーディ・Bやリゾが牽引するフィーメール・ラップ・シーンの次なるヒットメイカーは、彼女かもしれない。

Text: 本家 一成