『ファザー・オブ・オール…』グリーン・デイ(Album Review)
『ファザー・オブ・オール…』グリーン・デイ(Album Review)

 2016年10月リリースの前作『レボリューション・レディオ』で、8thアルバム『21世紀のブレイクダウン』(2009年)以来約7年振り、3作目の米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”首位獲得を果たした、グリーン・デイ。その直後行われたアメリカ大統領選において、勝利を掴んだドナルド・トランプ氏を散々に罵ったことも話題となったが、思えば今年(2020年)もアメリカ大統領選が行われるわけで、リリースのタイミングを図ったようにも捉えられている。

 しかし、本作『ファザー・オブ・オール…』がトランプ氏の暴走に触れた内容かというと、そうではないようで、ビリー・ジョー・アームストロングはインタビューで皮肉たっぷりに否定している。たしかに、1stシングルの「ファザー・オブ・オール…」も直接的なフレーズは見当たらない。音の方は、初期の作品を彷彿させるグリーン・デイらしいグラム・ロックで、エルヴィス・プレスリーの『'68カムバック・スペシャル』から「ギター・マン」を起用したミュージック・ビデオも、相当ファンキーに仕上がっている。

 2分30秒で終わる「ファザー・オブ・オール…」含め、本作に収録された全10曲は、平均2分前後で構成されている。トータル26分と短編ながらも、1曲のインパクトは強い。NHLのテーマ・ソングに起用された2ndシングルの「ファイア、レディ、エイム」も2分を切る短さだが、原点回帰ともいえる良質パンクに、歌詞もシンプルながら攻撃性ある強烈なメッセージがガツンとくる。ここで「嘘つき」呼ばわりしているのは、トランプ氏を想定してのものだと取れなくもないが、果たして……。

 否定はしているものの、本作のタイトルが現場作業に従事する賃金労働者=ブルーカラーに纏わるものだということから、トランプ氏が拡大させた格差社会についての訴えに繋げることはできる。彼らのアルバムにおいて、こうった政治的メッセージがないとは到底考え難いし、3rdシングルの「オー・イエー!」でも、他アーティストがこぞって訴えを起こしている銃規制について取り上げている。

 その「オー・イエー!」には、ジョーン・ジェットの「ドゥ・ユー・ワナ・タッチ・ミー(オー・イエー)」(1980年)がサンプリングされている。グリーン・デイのキャリアにおいて、サンプリング・ソースを起用したナンバーは同曲が初。原曲のソングライター=ゲイリー・グリッターは、有罪判決を受けた小児性愛者。昨年、映画『ジョーカー』にゲイリーの楽曲が使用され、ワーナーからに多額の印税が支払われる可能性があると大炎上を起こしたばかりだが、同曲のロイヤリティについてはRAINN(性暴力相談センター)等に寄付すると発表している。そのゲイリー・グリッターを「作者(の一人)は超イヤな奴」と説明書きで罵ったミュージック・ビデオも、コメディ・タッチで面白い。

 次曲「ミート・ミー・オン・ザ・ルーフ」では攻撃性を緩和し、こじれた男子の恋模様を歌っている。歌詞に乗じた軽快なパワー・ポップと、学園ドラマ風のMVも最高で、非モテ男子がヒーローになるというアメリカらしい作りも微笑ましい。その主役を演じるのは、Netflixドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』でダスティンを演じたゲイテン・マタラッツォ。ネガティブな表現があっても、サウンドや映像により重苦しく感じさせないのがグリーン・デイの作品においての醍醐味とも言える。

 その路線にある「アイ・ワズ・ア・ティーンエイジ・ティーンエイジャー」では、10代の頃を振り返り、学生時代における悩みや葛藤、疎外感について歌っている。初期の作品でいう『カープランク』(1992年)に近い仕上がりで、「原点回帰」と評価された理由のひとつともいえる。ロックの創始者ことリトル・リチャードの名曲「トゥッティ・フルッティ」(1955年)にインスパイアされたというツイスト風の“踊れる”ロック「ステーブ・ユー・イン・ザ・ハート」、90年代のパンク・サウンドを焼き直したような「シュガー・ユース」もカッコいい。

 ドナルド・トランプの自伝に触発されたという「テイク・ザ・マネー・アンド・クロール」のような、まだまだ現役だと知らしめるハジけたパンク・ロックが主である一方、レトロでモダンなサウンドをたのしませてくれるオルタナティブ「ジャンキーズ・オン・ア・ハイ」や、80'sを思わせるポップ色の強い「グラフィティア」といった曲もあり、キャリアを重ねたからこそ醸し出せる“余裕”みたいなものも感じさせてくれる。「グラフィティア」はサウンドこそライトだが、米シカゴの住宅地で黒人の少年が警察官に射殺された、2016年の事件について触れている。

 本作を引っ提げて、翌3月に8年ぶりの来日公演を行うグリーン・デイ。チケットは既にソールドアウトとのことで、日本での人気も健在であることを証明した。

Text: 本家 一成