Nulbarich、さいたまスーパーアリーナ公演 レポート到着
Nulbarich、さいたまスーパーアリーナ公演 レポート到着

 Nulbarichが、12月1日にさいたまスーパーアリーナにて、ワンマンライブ【Nulbarich ONE MAN LIVE -A STORY-】を開催した。
Nulbarich その他ライブ画像

 終わりにして始まり。JQ自身、「ここが第一章の終わり、次はセカンドフェーズ」と語っていた通り、疾風のごとくシーンを駆け抜けてきたNulbarichの最初の集大成が今日のアリーナライヴである。Nulbarichは15000人を集めたさいたまスーパーアリーナ公演を終え、バンドとしてのネクストシーズンへと踏み出す。
 
 波形のようなライティングと、シルエットしか映らない演者達による「Rock Me Now」でライヴはスタート。続く「Zero Gravity」でもまだメンバーの姿は映らず、壮大な音楽宇宙を体験するようで、極上のアートを目の当たりにしていくライヴである。

 この時点で特徴的だったのが、恐らく彼らにとっても初の試みであろう、ツインドラムを含めた7人編成である。深みを持ったボトムがダイナミックな縦ノリを生み出し、バンマスの鍵盤をに変わったことで、スキルフルな上音を中心に美々しいアンサンブルが鳴り響く。JQがこぼした「楽しめそうな予感がしておる」という言葉が頼もしい。

 ライヴにおける場面転換が起こったのが「ain't on the map yet」だ。ここで初めて花道を歩くJQ。恐らく、この日集まったオーディエンスと、本当の意味で喜びを分かち合った瞬間だろう。イントロが鳴った瞬間歓声が上った「It's Who We Are」とポップなナンバーを続けていく、最初のハイライトである。ジャジーな鍵盤や豪快なギターソロなど、原型からは完全に化けた姿で聴かせていく、ツアーも経験していく中で醸成された進化形のNulbarichを堪能した。

 「ご褒美タイム」と称し始まったのが、JQを除く6人によるセッションだ。MPCに同期させたラップとトラックをループさせ、向かって左のベース、ドラム、ギターのチームと、向かって右の鍵盤、ベース、ドラムのチームの二組に分かれて演奏がスタート。JQ曰く「普段の制作風景に近い」とのことだが、次第に結合されていく音の掛け合いが凄まじく、これが日々行われていると思うとあまりに豪華な制作である。

 絶品の演奏で会場のヴォルテージが上がると、すかさず「NEW ERA」へ。<たどり着いたワンダーランド>、<ラフにタフにゴー>というリリックを聴いていると、彼らの原点であるこの言葉こそが、彼らの現在進行形のアティテュードなのだと気づかされる。

 さらに「おお! ヒップホップドラマー!」とJQ自身がテンションを上げた「Kiss Me」では、新曲ながら1.5万人が手を振る絶景を演出し、続いて屈指の名曲だと言い切りたい「Sweet and Sour」へ。作品毎に大きく変化してきたNulbarichだが、こうした誰もが口ずさみたくなるような歌こそ彼らの真骨頂だろう。「幸せな気分になったね」とサラっと本音を言えちゃうJQがニクいくらいだ。

 続いて「一気にバンといくやつやるから!」という一言で始まったのが「Kiss You Back」。豪快な四つ打ちが爽快で、まるで曲自身がこのステージを待っていたように気持ちのいい高揚感をもたらした。何よりこの日は作り込まれた映像美が凄まじく、とにかく彼らの演奏も含めて千変万化。間違いなくキャリア史上最もスペクタルな一夜である。オルタナティブR&B仕様で生まれ変わった「Ordinary」は、誰もがエクリーンに飲み込まれるように見入っただろう。

 音楽ファーストで行われてきたこの日のライヴで、初めてしっかりとしたMCが語られたのがこのタイミングである。

 「みんなここまで連れてきてくれてありがとう。やってみるもんです。証明してますよ、夢は語るべきです。だが、まだ終わっちゃあいない。僕たちが購入したこの片道切符はどこにつながっているのか僕らにもわかりませんが、この列車止まるまで見ていたいでしょ」という感慨深いセリフから、後半戦の「Almost There」へ。メンバーが映像の中に溶けていくような、まるで音楽と一体化するメンバーを見るような凄まじい演出である。

 キャリアを満遍なく見せていた前半から打って変わり、ここからは『Blank Envelope』、『2ND GALAXY』のみの楽曲で構成された後半へ。いわば数万人規模のライヴを視野にして作られた「Stop Us Dreaming」を収録した前者と、スペイシーな音色とオーディエンスを飲み込むような余白を持った楽曲が多く収められた後者の、現場での本領を見るステージである。「Silent Wonderland」ではアコギをフィーチャーし、そしてこの日最大の感動を呼んだ「Lost Game」が始まった。

 バンド史上最大のスケールと言って差し支えないだろう。座席に設置されていたリストバンドに光が灯り、スクリーンに地球が映し出される。まるで宇宙の中で星々が揺れているような壮観な景色が広がった。それこそ、演者から見たフロアはまさしく息を飲むような絶景だろう。JQが思わず「果てた」と本音を漏らしながらも、「Nulbarich、クライマックスへご招待しましょう」という頼もしい宣言で「Get Ready」へ。

 既に濃厚過ぎるセットリストを見せていながら、さすが、彼らの本当の実力を見るのはここからである。ライヴで見る度に進化していく「Super Sonic」が圧巻で、ヤバすぎるバチバチのソロをぶつけ合うスリリングな演奏を披露。そして訪れた本当のフィナーレが「Stop Us Dreaming」だ。

 「今日は本当にありがとうございました。長かったようであっという間だったな。やっぱデケーな。この人数が一個になったらヤバそうじゃない? いいっすか?」というJQらしい誘い文句で、一気に会場のスイッチはオンに。腹の底に響く地鳴りのようなドラミングと、会場中から響き渡るコーラスとハンズクラップ、天まで昇るような高揚感の中歌うJQとバンドメンバー。そうか、JQが思い描いていたのはこの光景だろう。作品にパッケージしきれなかった、楽曲の真のポテンシャルを初めて見たような気がした。

 彼らの音楽を求め、鳴りやまない歓声が響き渡るもアンコールはなし。本編でやり切ったと言わんばかりの、潔い終演である。彼らの歩みの最初の総括に相応しい感動的な一夜であり、この日のライヴに足を運んだすべてのリスナーが、来年以降のさらなる飛翔を確信しただろう。マディソン・スクエア・ガーデンも夢ではない。そんな大胆な想像をしながら帰路に着いた。

なお、この模様は後日、WOWOWで独占放送される。

撮影: 岸田 哲平・本田裕二 / レポート: 黒田 隆太朗