<ライブレポート>milet、初ワンマンで感じた新潮流 さらなる飛躍を予感させて
<ライブレポート>milet、初ワンマンで感じた新潮流 さらなる飛躍を予感させて

 今年3月にONE OK ROCKのToruをプロデューサーに迎えた楽曲「inside you」を発表し、その曲がTVドラマのオープニング・テーマに起用、バイオグラフィのほとんどがベールに包まれているという神秘性も相まって、そのデビューは非常にセンセーショナルなものとなったシンガー・ソングライター、milet。この8か月間、幾度かのショーケース・パフォーマンスはあったものの、正式にワンマン・ライブと打ち出したショーは今回が初めてだ。
milet その他ライブ画像

 【milet first live “eye”】と題された今回のワンマンは、11月7日に大阪・UMEDA CLUB QUATTRO、そして11日に東京・LIQUIDROOMにて開催。どちらも1,000人弱を収容できる中規模ライブ・ハウスだが、チケットは即日ソールド・アウトした。会場に集まったオーディエンスは、年代も性別もばらばらの混然状態で、彼女のファンダムがすでに幅広い層から構成されていることが一目瞭然。新世代ディーヴァの記念すべきステージを一目見ようという期待と好奇心が渦巻く中、神秘的なBGMが鳴り始めると、バンド・メンバー、次いでmilet本人が登場。デビュー・ライブの幕開けに相応しい「航海前夜」からショーがスタートした。

 4つ打ちのエレクトロ・ナンバー「航海前夜」に続いて、「Undone」や「Waterfall」は、ラナ・デル・レイやロードを思い出させるミニマムなビートとほんのりダークなアンビエンス。さらにその流れでパフォーマンスされた「us」や「Runway」の、ハスキーな声質でオクターブを軽々しく飛び越えていくヴォーカルの跳躍力は、アデルを引き合いに出されてもおかしくないほど。彼女自身、幼少期にクラシックを聴いて育ち、カナダ留学を経験した思春期を経て、様々な音楽、カルチャーと触れ合ってきたのだろう。そうして育まれてきた豊かな含蓄性が、国内外で活動するRyosuke "Dr.R" Sakai(Crystal Kay、Ms.OOJA、中島美嘉など)や、この日キーボードも担当したTomoLow(安室奈美恵、乃木坂46、フェアリーズなど)といった音楽プロデューサーたちとの邂逅もあって、どこか無国籍感を漂わせるアーティスト像を作り出している。

 とりわけ荘厳なバラードにアレンジされた「Runway」以降、サウンドがどんどん削ぎ落されていった中盤戦は、やや狂気じみた恋愛感情を歌う「Imaginary Love」、サブ・ベースの低音とデジタル・クワイアの重厚感、そしてボソボソ呟くようなヴォーカリゼーションの「Fire Arrow」など、ビリー・アイリッシュあたりとの共振も感じさせる、物悲しいダーク・サイド的な世界観を深めていく展開に。そして、そこからアニメ『ヴィンランド・サガ』エンディング・テーマの「Drown」を経て、ムードが徐々にポジティビティへと転じ、暗雲の隙間から光が差し込んでくるような「inside you」のパフォーマンスはとてもドラマティックで、客席からも万雷の拍手喝采が送られた、この日のハイライト部分の一つだ。

 未音源化の楽曲「Parachute」がそんな前半のスリリングな緊張感を解きほぐしたところで、ここからはサウンドの圧を抜き、身軽なアンサンブルを紡いでいくセクションへ。この日のmiletは、黒地に白いフリルのような装飾、そしてショルダーカットのエレガントかつフェミニンな衣装だったのだが、そんな装いも相まって、軽快なストリングスが弾む「Fine Line」で楽し気にダンスする姿はとてもフォトジェニック。物腰柔らかでありつつ、時折お茶目な一面も覗かせるMCトークも含めて、ラフな佇まいでもオーディエンスを魅了したのだった。

 また、アコースティックver.の「Wonderland」、オーストラリア出身シンガー、Lenkaの代表曲「The Show」のカヴァー、そしてピアノ伴奏のオリジナルをこの日の編成で再構築した「I Gotta Go」は、打ち込みも含めて現代的なプロダクションの妙が目白押しだったこの日のセットの中にあって、生楽器の最少音数でナチュラル・カラーを描いていく3曲で、また違った角度から彼女の魅力を浮き彫りにしていく。ジャンルを横断するカッティング・エッジな音楽性を見せつけた前半部分に対し、後半部分は中毒性の高いグッド・メロディを高らかに歌う、そのシンプルかつ圧倒的なポピュラリティがとにかく印象的だった。

 それにしても音響のフィット感、あるいは貴重な機会を共有した連帯感などを考えると、このキャパシティの会場で初ワンマンを見ることができたオーディエンスは本当に幸運だったと言っていい。きっと今後、その飛躍のたびに反芻し、思い出したくなるような一夜になっただろう。ただ、本編ラスト2曲「You & I」「Rewrite」の祝祭的なメロディとコーラスの高揚感、そしてアンコール最後「Diving Board」の歌声が見せたこの日最大の躍動は、さらに広く、大きな会場でこそ真価を発揮できるのではないかと、思わずそんな感慨を抱かざるにはいられないフィナーレでもあった。2020年3月からは7か所8公演の全国ツアーが控えているmilet。世界が新たなディケードを待つ中、早くも音楽シーンに訪れた新潮流とも言える彼女は、次なるステージでどんな歌声を響かせるのか、楽しみだ。

Text by Takuto Ueda

◎公演情報
【milet first live “eye”】
2019年11月11日(月)
東京・LIQUIDROOM
<セットリスト>
01. 航海前夜
02. Undone
03. Waterfall
04. us
05. Runway
06. Imaginary Love
07. Fire Arrow
08. Drown
09. inside you
10. Parachute
11. Fine Line
12. Wonderland
13. The Show
14. I Gotta Go
15. You & I
16. Rewrite
-En-
17. us -acoustic ver.-
18. Diving Board