<ライブレポート>坂本慎太郎、ニューヨーカーを魅了したUSツアー最終公演
<ライブレポート>坂本慎太郎、ニューヨーカーを魅了したUSツアー最終公演

 坂本慎太郎の北米ツアー【Shintaro Sakamoto Tour 2019】が、現地時間10月20日に米ニューヨーク・ブルックリンのElsewhereで幕を閉じた。
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 季節が秋から冬へと移りゆくNY。会場となるElsewhereはブルックリンのブッシュウィック地区にある比較的新しいヴェニューだ。大小2つのホールとバースペースを持ち、収容人数750人近くの大きなホールが今宵の会場で、チケットはソールドアウト。当日はあいにくの雨模様だが、会場の前には何人もの人が列をなし開場を待っていた。中には坂本のアートブック『Sketches for Music』を持ち込み、サインをもらうことを意気込む人や、ゆらゆら帝国として10年前に行なったNY公演を観たものなど、コアなファンもいたほど。

 坂本のUSツアーの最初の会場となるはずだった【Desert Daze】フェスの出演を、開催前から西海岸の音楽キッズやミュージシャンまでもが楽しみにしていたのだが、台風の影響により飛行機が飛ばず彼の出演は当日キャンセルとなり多くの人が落胆したのだが、その後の公演は無事に開催され、そのほとんど全てがソールドアウトとアメリカでの人気を実感する。

 会場はいつもならセットチェンジの間、観客がバーカウンターに行き、酒を飲みショーが始まる前のひと時を楽しむのだが、その光景が今宵はあまり見られず、静かに彼の登場を待っている人が多く見られる。その様子はどこかピンと張りつめた緊張感に似た空間が出来ていたようだ。ステージが暗転しスーツ姿の坂本がステージに上がり、続いてベースのAYA(OOIOO)、ドラムの菅沼雄太、サックス・フルートの西内徹らも登場すると、一気に歓声が上がり「超人大会」で幕を開けた。

 序盤から静寂で穏やかでノスタルジックな空間へ誘う。彼の声質の特色であるユニークで温かみのある中低音とギターの音が豊かに会場に響き渡る。観客はただひたすら音に身を委ね、体を揺らす。その表情は彼の世界観に心酔しきっているかのようだ。アメリカのスタンディング会場で良い意味でこんなにも静寂が保たれているのは珍しい。それだけ観客が彼に魅了されているのが分かる。「死者より」ではどこからともなく手拍子が起こり音に身を委ねダンスする。一気に観客との距離を無効化したようだ。「仮面をはずさないで」の坂本のシンプルで露わなビート感のギターと西内のサックスがフロアをディスコ状態に。

 坂本のファンは言わずもがな、観客にはベースのAYAのファンも多数いて彼女と坂本の掛け合いにも観客の歓声が上がる。ドラムの菅沼は緻密な音を歪ませ坂本のギターを際立たせる。「君はそう決めた」では西内のサックスのソロが観客の歓声を誘い、その後もフルートやマラカスなどを次々と魔術師のように操り、始終、飽きさせない。これほどまでに洗練された音圧の轟音や精緻なプログラミングでニューヨーカーを魅了した日本人アーティストのステージが今までにあっただろうか? 「あなたもロボットになれる」では会場全体がシンガロング。ディスコボールが回り、オーディエンスの高揚感が最高潮になった。

 これまでのディスコグラフィから最高のヒットチューンを次々と演奏し、MCもギターチェンジもなくシンプルに駆け抜けた1時間半だったが、今宵の空間を簡単な言葉で表現することをためらうくらい非現実的に美しく、芸術的なステージは彼でしか作れない唯一無二で最高峰のステージであった。終演後、物販ブースには多くのファンが詰めかけ、Tシャツやレコードを手に入れていた。

Text & photos by ERINA UEMURA

◎2019年10月20日公演セットリスト
1. 超人大会
2. スーパーカルト誕生
3. 死者より
4. めちゃくちゃ悪い男
5. べつの星
6. 義務のように
7. 仮面をはずさないで
8. ずぼんとぼう
9. できれば愛を
10. 幽霊の気分で
11. まともがわからない
12. ディスコって
13. ナマで踊ろう
14. 君はそう決めた
ENCORE
15. あなたもロボットになれる
16. 小舟

◎ライブ情報
【坂本慎太郎 LIVE 2019】
2019年11月15日(金)ユニバース 大阪
2019年11月16日(土)YEBISU YA PRO 岡山
2019年11月26日(火)昭和女子大学人見記念講堂 東京
2019年12月06日(金)桜坂セントラル 沖縄