『ポニー』レックス・オレンジ・カウンティ(Album Review)

2019/10/28 18:15

『ポニー』レックス・オレンジ・カウンティ(Album Review)
『ポニー』レックス・オレンジ・カウンティ(Album Review)


 1998年生まれ、英イングランド・ハンプシャー州出身。本名をアレックス・オコナーといい、学生時代につけられた「The OC」というニックネームから、米カリフォルニア州のオレンジ・カウンティ(オレンジ郡)と掛け合わせた「レックス・オレンジ・カウンティ」にしたのだそう。
 幼少期から音楽を嗜み、「アデルを育てた学校」としても有名なブリット・スクールに入学。同校での修学・経験と持ち合わせたセンスを開花させ、ロック、R&B~ヒップホップ、ソウルにブルース、さらにはクラシカルな音楽までを自分流に仕立て、自らをトータル・プロデュースするまさに“多彩な”新人の一人。
 2015年、自主制作した1stアルバム『ビコーズ・ユー・ウィル・ネバー・ビー・フリー』でデビュー。本作がタイラー・ザ・クリエイターに注目され、本人とアナ・オブ・ザ・ノースをゲストに招いた「ボアダム」でコラボレーションを果たす。この曲と、同年にベニー・シングスをフィーチャーした「ラビング・イズ・イージー」のヒットを受け、翌2018年には<BBC Sound Of 2018>で2位に選出の快挙を達成した。日本では、【SUMMER SONIC 2018】でのパフォーマンスが大絶賛されのも記憶に新しい。
 本作は、米ビルボードのヒートシーカーズ・チャートで2位をマークした2ndアルバム『アプリコット・プリンセス』(2017年)から約2年半ぶり、ソニーミュージック移籍後初のスタジオ・アルバム。その前作にもクレジットされたベン・バプティを共同プロデューサーとして迎え、楽曲の全てはレックス本人が手掛けた、メジャー・デビューに相応しい意欲作に仕上がっている。ディアンジェロのライブでも活躍する、ピノ・パラディーノも参加しているとのこと。
 アルバムからは、前月に発表した「10/10(テン・アウト・オブ・テン)」が、全米ロック・ソング・チャートで15位をマークするスマッシュ・ヒットを記録。母国イギリスでも、シングル曲としては初のランクインを果たし、アルバムのプロモーションに繋げた。
 カントリー・ポップのような穏やさもあれば、ギターを唸らすロッキンな場面もある、多面性を持ち合わせたサウンドはレックスならではの業。音楽とリンクした、脳内妄想をイメージしたかのようなミュージック・ビデオも、音とリンクした傑作。このビデオは、ザ・ウィークエンドやThe 1975等の人気アーティストの作品を手掛けるウォーレン・フーが監督を務めた。
 2ndシングルとして発表した「プルート・プロジェクター」は、レックスのナイーヴな声質が存分に活かされたメロウ・チューン。ヴァイオリンにチェロ、ストリングスなどの楽器も起用された後半のインストゥルメンタルが特にすばらしく、リリース前にはこのオーケストラ部を視聴できる電話番号をツイートし、50秒間のプレビューをファンにプレゼントするという斬新なプロモーションも話題となった。
 レックス・オレンジ・カウンティの生み出す音楽には、「プルート・プロジェクター」のようにクラシカルな要素が垣間見えるサウンド・プロダクションがある。たとえば、スリリングな展開のブリティッシュ・ポップ「イット・ゲッツ・ベター」なんかは、中盤にストリングスを響かせる「プルート・プロジェクター」っぽい展開をみせる。ひとつの曲の中に、多彩な表情を演じられるのが、彼の作り出す音楽の魅力といえる。ジャンルはカテゴライズできないが、決して取っ散らかってはいない。
 古いレコードに針を落とす音が聞こえてきそうな、ブルージーなミディアムの「オールウェイズ」、ピアノとホーンのバックサウンド、スキャットのようなアドリブさも感じられるボーカル・ワークなど、ジャズをベースにしたような「レイザー・ライツ」、ラップ・パートとボーカルを巧みに操る「フェイス・トゥ・フェイス」……と、初盤シングル曲以降も名曲が連なる。
 後半も、子どものコーラスを起用したレトロ調のバラード「ストレスト・アウト」、スピード感溢れるパワー・ポップ「ネバー・ハッド・ザ・ボールズ」、シンプル且つ短編ではあるが、ピアノでしっとり弾き語るバラード曲「エブリ・ウェイ」、アコースティック・ギター片手に、絶望の諸々を哀愁漂わせて歌う「イッツ・ノット・ザ・セイム・エニモア」と、ジャンルの垣根を超えた佳曲が続き、実に充実した時間を堪能できる。
 リリース直前の10月22日には、アルバムのプロモーションを兼ねたライブを行なったレックスだが、ライブとはまた違う、アルバムを通して聴く良さが伝わった。アルバムが簡易化されたストリーミング時代だからこそ、是非とも本作は曲をスキップしないで聴いていただきたい。

Text: 本家 一成

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