『エンジェルズ・パルス』ブラッド・オレンジ(Album Review) 〈Billboard JAPAN〉|AERA dot. (アエラドット)

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『エンジェルズ・パルス』ブラッド・オレンジ(Album Review)

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『エンジェルズ・パルス』ブラッド・オレンジ(Album Review)

『エンジェルズ・パルス』ブラッド・オレンジ(Album Review)


 英ロンドン出身、ソングライター/プロデューサーとしても高く評価されているデヴ・ハインズのプロジェクト=ブラッド・オレンジ。メディアでも大きく取り上げられた2ndアルバム『キューピッド・デラックス』(2013年)、米R&Bチャート6位をマークした3rdアルバム『フリータウン・サウンド』(2016年)、そして昨年夏に発表した4thアルバム『ニグロ・スワン』と、自身のプロジェクトでも素晴らしい作品を発表してきた。

 本作『エンジェルズ・パルス』は、2019年7月にリリースされたブラッド・オレンジ名義でのミックステープ第二弾。ガーディアン紙で<アルバム・オブ・ザ・ウィーク>を獲得した本作が、この度フィジカル盤(CD、LP)としてリリースされ再び注目を集めている。これまでの作品同様、制作/プロデュースはすべて自身によるもの。

 ドラム、ベース、ギターのみのシンプルな構成で作られた1分強の「I Wanna C U」~サイケのエッセンスを加えた浮遊感漂うインタールード「Something to Do」~ヒップホップ・サウンドをベースに独自の音世界を作り上げた「Dark & Handsome」と、オープニングから目まぐるしく曲が入れ替わっていく。「Dark & Handsome」は、死や自殺をテーマにした歌詞も強烈で、【FUJI ROCK FESTIVAL '19】に出演したチャズ・ベアーによるプロジェクト=トロ・イ・モワがゲストとして参加している。

 弦楽器、管楽器、ウッドボンゴのような音も登場するワールド・ミュージック風の「Benzo」完成度には、自身も大絶賛したとのこと。チェリストのケルシー・ルーと、少年聖歌隊出身のR&Bシンガー=イアン・イザイアと共演した「Birmingham」では、教会音楽をベースとしたアカペラに挑戦している。祈りを捧げるように歌うこの曲は、詩人のダドリー・ランドールが綴った「Ballad of Birmingham」を基に作られていて、1963年9月15日にアラバマ州バーミングハムで発生した教会爆破事件について歌ったもの。

 ジェイ・Zが代表を務める<Roc Nation>所属の女性R&Bシンガー=ジャスティン・スカイとコラボした「Good for You」は、典型的なネオ・ソウル。彼女のレトロ且つ深みあるボーカルで黒さがさらに増し、曲の持ち味が引き立った。なお、ジャスティンのパートは彼女がフリースタイルのような形で歌を入れ込んだとのこと。

 ジャスティン・スカイは、英ロンドンを拠点とするソングライター/DJのアルカと、ブロックハンプトンのメンバーであるジョバとコラボした「Take It Back」にもクレジットされている。「Take It Back」も、ネオソウルや民族音楽、フリージャズなどの要素がブレンドされた傑作。ダイレクトにメッセージが伝わってくる、90年代スピリット満載のラップ・パートも◎。

 R&Bシンガーのティナーシェがボーカルを務める「Tuesday Feeling (Choose To Stay)」は、N.E.R.D.のサウンドを意識したのだそう……だが、個人的には70年代のニューソウル(ダニー&カーティスあたり?)を彷彿させるものがある。そういったサウンドもあれば、80年代ハウス~ブレイクビーツ風のトラック「Baby Florence (Figure)」、前述のイアン・イザイアがコーラスを担当した「Berlin」のようなドリーミーなメロウ・チューンもあるから面白い。

 ティナーシェは、ラッパーのプロジェクト・パット&ギャングスタ・ブーと共演した「Gold Teeth」でも美しいボーカルを披露している。この曲は、ラップとボーカルが絶妙に絡み合う、ネオ・ソウル的感触を湛えたヒップホップで、ラップを全面にしたトラックでは、デヴ・ ハインズがお気に入りのアーティストとして挙げたベニー・リバイバル参加の「Seven Hours Part 1」という曲もある。この曲は、どちらかというとオールドスクール~ゴールデンエイジ時代に近い感じか?

 内容は悲観的だが、解放を意味しているという「Happiness」~感情を詞的に表現した「Today」の2曲は、アルバムの仕上がるタイミングで同時に作ったのだそう。彼の生み出す曲は、他者についてや政治的な意味合いを含むものより、自分の感情を示したものが多い。本人が云う「日記を映し出したような作品」の意味合いは、そういうことなのだろう。


Text: 本家 一成


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