<ライブレポート>玉置浩二がロシア国立交響楽団と初共演、あの伝説的な一夜を振り返る
<ライブレポート>玉置浩二がロシア国立交響楽団と初共演、あの伝説的な一夜を振り返る

 今年で5周年を迎える玉置浩二のオーケストラ公演【PREMIUM SYMPHONIC CONCERT】は、2015年2月の初演から今年4月の”薬師寺公演”まで、実に70以上にも及ぶ公演数を誇る。数多の国内アーティストから尊敬を集め、アジアをはじめとする諸外国にまでその名を轟かす彼の新たなコンサート・ツアー【THE EURASIAN RENAISSANCE “ РОМАШКА(ロマーシカ)”】は、そのオーケストラ公演の5年間にわたる集大成だ。とりわけ7月19日に東京芸術劇場コンサートホールで行われたツアー・ファイナルの“特別公演”は、30年以上のキャリアを持ちつつ、いまだ音楽的研鑽を止めない玉置浩二の“挑戦と進化”を明示する、ある種のマイルストーン的なコンサートとなった。

 “特別”とされるからにはそれだけの理由がある。例えば、これまで同シリーズ公演のアートワークを手掛けてきた横尾忠則が、この特別公演のため、玉置浩二の肖像画を初めて書き下ろした。それもただの肖像画ではなく、阿修羅像をモチーフにした三面体の玉置浩二、その名も“ASHURA TAMAKI”を描いたもので、音楽ファンのみならずアート・ファンの間でも大きな話題を呼んだ会心の1枚だ。長らく続いてきた二人のコラボレーションも、節目のタイミングで然るべき進化を果たし、このような鮮烈なアートを生み出すに至ったわけだが、それはさながら台風の目のように異分野のアーティストをも引き寄せ、そのクリエイティビティを強く刺激する、玉置浩二という音楽家の絶大なる存在感を示す産物でもあった。「最初は真正面から見た玉置浩二さんの肖像画を描いたが、これは玉置さんじゃないと思った。その時、阿修羅像の三面体が頭に浮かんだ。そこで玉置さんを阿修羅像にしてしまおうと考えた。『命を与える者』の象徴です」とは、横尾忠則その人の言葉である。

 そして、この特別公演を5年間の集大成たらしめる最大の要素といえば、日本から遠く離れたモスクワを本拠地とするロシア国立交響楽団《シンフォニック・カペレ》の参加だろう。かねてより海外楽団との共演を望んでいた玉置にとって、悲願が叶った形であると同時に、最大の挑戦として実現したコラボレーションだ。そんな玉置自身が作曲した初の管弦楽作品であり、2016年からこのオーケストラ公演シリーズの幕開けを飾っている「歓喜の歌(管弦楽)」の音色も、この楽団のパワフルな演奏ならではのふくよかさ、威勢の良さを宿していたことに一聴して気づかされる。この「歓喜の歌(管弦楽)」は、オーケストラ公演シリーズにおける玉置浩二の盟友、?澤寿男が民族紛争地域での経験をもとに執筆した著書『歓喜の歌』からインスパイアされた楽曲なのだが、そこに込められているのは“音楽に国境はない”という想いであり、この日以上にその本懐が遂げられたことは、きっとかつてなかっただろう。玉置浩二とロシア国立交響楽団のユーラシア大陸を横断した祝祭の幕開け、それを告げる歓喜の瞬間だった。

 さて、【РОМАШКА】特別公演の演目だが、同ツアーの通常公演から大きな変更はない。加えて言うならば、過去のオーケストラ公演を通して“お馴染み”となった楽曲も多く並ぶ。しかしだからこそと言うべきか、一つの公演として一定のクオリティは保証されているし、なにより回を重ねるごとにそれはブラッシュ・アップされていく。「キラキラニコニコ」「いつもどこかで」に続いて披露された「ぼくらは. . .」は、ツアー【РОМАШКА】に際し、山下康介によって新しくオーケストラ編曲されたものだ。オリジナルはスロー・テンポで、ミニマルなプロダクションやゴスペリックなコーラスなどが神秘的なナンバーなのだが、今回の新たな編曲でも音の足し引きが洗練され、絶妙なバランスで抑揚するオーケストラ・サウンドのなか、玉置の艶やかなヴォーカルが揺蕩っていく。そして終盤に向けて一気にうねり上げる演奏に伴い、玉置もクライマックスを印象付ける倍音ヴォイスのロング・トーンを披露すれば、客席からこの日最初の歓声が。また、「ロマン」と「FRIEND」も新しく編曲されたものとなっており、本特別公演のチャレンジングな側面が感じられる2曲で第1部の幕は閉じたのだった。

 第2部は、ロシア国立交響楽団による「ダッタン人の踊り」からスタート。ロシアの作曲家、アレクサンドル・ボロディンによるオペラ『イーゴリ公』からの選曲で、まさしく雄大なロシアの国土を連想させる、哀愁と情熱を兼ね備えた演奏に、“ロシアで最も優れた交響楽団”と称される彼らの本領を見た一幕だった。そんな楽団でコンサート・マスターを務めるアンドレイ・クドリャフツェフも「心で歌っているという印象。魂を使って声を出しているように感じます」と玉置の歌声に太鼓判を押している。そして、この両者がここまで高次元で融合した今回の特別公演においては、指揮者のデヴィッド・ガルフォースの手腕も欠かせない要素だった。玉置について「いつも新しいものを求めて進化し続けている」と評している通り、二人が音楽家としてリスペクトを送り合う関係であることは明らかだが、玉置と楽団の本拠地が遠く離れているなか、本番までに両者の仲人を務めたのがほかならぬデヴィッド・ガルフォースなのだから、玉置が信頼を置くのも頷ける。

 そう、このたびのコラボレーション公演は、それぞれが個を主張する三つ巴などではなく、極めてオーガニックな調和の上で成り立っていたのだ。そして、その調和を極めたのが、玉置浩二のソロキャリアにおける代表作の一つであり、演目の中でもひと際アッパーなナンバー「JUNK LAND」である。新編曲の一つ「行かないで」の悲愴から一転、勇ましく、スリリングな空気感を纏い始めた楽団の演奏、玉置の性急でダイナミックなヴォーカリゼーション、そんな両者を繋ぐピンと張り詰めた糸が千切れないよう、終始気を配り続けるデヴィッド・ガルフォース。彼らが繰り広げるひたすら肉体的な音の応酬に、客席からはこの日2度目の歓声が上がる。

 そんな圧倒的なパフォーマンスのあと、「ワインレッドの心」~「じれったい」~「悲しみにさよなら」と安全地帯の楽曲を繋げるメドレー、オフマイクで驚異の声量を見せつける場面も見れた「夏の終りのハーモニー」で第2部が終了するも、当然のように観客は興奮冷めやらぬ様子で、コンサートはアンコールへ突入。ベートーヴェンの「田園」に自身の代表曲「田園」を続ける流れは心憎い演出で、総立ちとなった観客も手拍子でコンサートに参加する。そして再びマイクを通さない肉声の歌を、約1分間にわたり披露した「メロディー」で、この伝説的な一夜はフィナーレを迎えたのだった。

 毎回エポック・メーキングな体験となる玉置浩二のオーケストラ公演【PREMIUM SYMPHONIC CONCERT】。その5年間にわたる集大成の結実によって新章がスタートし、その余韻はいまだ多くの来場者を陶酔させ続けていることだろうが、玉置浩二は我々が醒めるのを待ってはくれない。11月16日には安全地帯として、初の阪神甲子園球場ライブ【安全地帯 IN 甲子園球場 「さよならゲーム」】が控えている。ヒット曲や名曲を織り交ぜたセットリストになるとのことだが、そこに立つのは“今”の安全地帯であり、あくまで現在進行形のバンドとしてのパフォーマンスが期待できるだろう。この日限りの大規模ライブ、往年のファンならずとも必見だ。

Text by Takuto Ueda

◎公演情報
KOJI TAMAKI PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2019
【THE EURASIAN RENAISSANCE “ РОМАШКА(ロマーシカ)” 特別公演】
2019年7月17日(水)東京・サントリーホール 大ホール
2019年7月19日(金)東京芸術劇場コンサートホール
出演:玉置浩二
指揮:デヴィッド・ガルフォース
管弦楽:ロシア国立交響楽団《シンフォニック・カペレ》
<演目>
01. 玉置浩二 作曲「歓喜の歌」(管弦楽)
02. キラキラニコニコ
03. いつもどこかで
04. ぼくらは...
05. (メドレー)MR.LONELY~プレゼント~サーチライト
06. ロマン
07. FRIEND
~休憩20分~
08. ボロディン 作曲「ダッタン人の踊り」(オペラ『イーゴリ公』)より
09. GOLD
10. 行かないで
11. JUNK LAND
12. (メドレー)ワインレッドの心~じれったい~悲しみにさよなら
13. 夏の終りのハーモニー
EC. ベートーヴェン 作曲「田園」~ 田園
EC. メロディー

◎公演情報
【安全地帯 IN 甲子園球場 さよならゲーム】
2019年11月16日(土)兵庫・阪神甲子園球場
出演:安全地帯
チケット価格:
?料金 8,500円(税込み、全席指定)
?グループ割引きチケット 2名:16,000円 3名:22,500円 4名:28,000円(税込、全席指定)
?SS席 12,000円(税込、全席指定)※ステージ前方の座席、枚数限定
※4歳未満入場不可(4歳以上チケット必要)

チケット販売情報:
各種プレイガイド受付中 ~8月5日(月)
一般販売 8月6日(火)10時~ 
主催:ビルボードジャパン、朝日新聞社、テレビ大阪、読売テレビ、ぴあ、キョードー大阪、キョードー東京
協賛:株式会社レオン都市開発、株式会社ヤナセ
Info:https://anzenchitai-koshien.com/

◎放送情報
billboard classics
『玉置浩二 PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2019
THE EURASIAN RENAISSANCE~ロマーシカ~』
特別公演:2019/7/19 東京芸術劇場公演を収録

放送予定日:9月16日(月・祝)12:00(正午)~
テレビ東京系全国6局ネットにて放送(予定)
※今年4月29日に行われた平成最後の玉置浩二ビルボードクラシックス公演『PREMIUM SYMPHONIC CONCERT IN 薬師寺』の模様も合わせた特別番組として放送予定