『インディゴ』クリス・ブラウン(Album Review) 〈Billboard JAPAN〉|AERA dot. (アエラドット)

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『インディゴ』クリス・ブラウン(Album Review)

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『インディゴ』クリス・ブラウン(Album Review)

『インディゴ』クリス・ブラウン(Album Review)


 筆者が彼をはじめてクリス・ブラウンを見たのは、 米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100” でNo.1をマークしたデビュー曲「Run It!」が大ヒットしていた15歳の頃だった。長身ながらも母親に“連れられて”来た幼い少年が、いつの間にか30歳という大台(?)に乗っていたとは……。

 華々しいデビューを飾った「Run It!」のリリースから、来年で15周年を迎える。これまでの功績を辿ってみると、同曲が収録された1stアルバム『クリス・ブラウン』が米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で2位を記録し、R&Bチャートではいきなりトップに立った。2ndアルバム『エクスクルーシヴ』(2007年)は、同チャート4位どまりだったものの、「Kiss Kiss」(1位)、「With You」(2位)、「Forever」 (2位)の3曲をTOP3入りさせ、アルバムのワールド・セールスもデビュー作を超えるメガヒットとなった。

 リアーナへの暴行事件が尾を引き、3rdアルバム『グラフィティ』(2009年)からはTOP10ヒットもなく、初登場7位と低迷した。しかし、2011年の4thアルバム『F.A.M.E.』でアルバム・チャート初の首位を獲得し、「Yeah 3x」(15位)、「Look at Me Now」(6位)といったヒットを連発。「このまま消えていくだろう」という予想を覆し、見事な復帰劇を果たす。そこから、5th『フォーチューン』(2012年 / 1位)、6th『X』(2014年 / 2位)、7th『ロイヤルティ』(2015年 / 3位)を次々にヒットさせ、2017年11月にリリースした前作『ハートブレイク・オン・ア・フル・ムーン』も最高3位をマークし、R&Bチャートでは7作目のNo.1に輝いた。

 本作『インディゴ』は、 その『ハートブレイク・オン・ア・フル・ムーン』から1年半ぶり、通算9作目のスタジオ・アルバムで、前作に続き2枚組アルバムとしてリリースされた。全32曲、123分超えの大ボリュームで、ソングライター/プロデューサーも多数のアーティストがクレジットされているが、主要どころをピックアップすると、ボーイ・ワンダ、フランク・デュークス、808・マフィア、デム・ジョインツ、ジョナサン‘J.R.'ロテム、OG・パーカー、スコット・ストーチなど、昨今のR&B/ヒップホップ・シーンにおいて欠かせない面々が揃っている。

 アルバムからの1stシングル「アンディサイデッド」は、シャニースのダンス・クラシック「Love Your Smile」(1991年)をサンプリングした、夏っぽいトロピカル・チューン。歌いやすいようで難易度の高いハミングを、難なくこなすクリス・ブラウンの歌の上手さには感服する。この曲の他にも、故アリーヤのブレイク曲「Back & Forth」(1994年)を下敷きにした「スロー・イット・バック」や、ジュヴィナイルの「Back That Ass Up」(1999年)をまんま使いしたサウス・ヒップホップ「ニード・ア・スタック feat.リル・ウェイン&ジョイナー・ルーカス」、DMXの「How's It Goin' Down」(1998年)を一部使用した、タイガとのコラボ曲「オール・アイ・ウォント」など、多くの曲で90年代のトラックがサンプリング・ソースとして起用されている。

 発売前から話題を呼んだ、 ニッキー・ミナージュとG・イージーによるトリプル・コラボ 「ワブル・アップ」にも、米ニューオーリンズのフィーメール・ラッパー=故マグノリア・ショーティの「Monkey on the D$CK」(1997年)がネタ使いされた。同曲に勝るとも劣らないアガり具合で、夏っぽさを演出したミュージック・ビデオも、ダンス、構成、色彩共に完成度の高い仕上がりになっている。米デトロイトのファンク・バンド=ワン・ウェイの「Don't Stop」(1984年)をサンプリングした「カム・トゥギャザーfeat. H.E.R.」も、80年代というよりは90年代を彷彿させるメロウ・チューンだ。同曲にフィーチャーされた女性R&Bシンガーの H.E.R.は、今年2月に開催された【第61回グラミー賞】で5部門にノミネートされた期待の新星。

 そのワン・ウェイのメンバーでもある女性ソウル・シンガー=アリシア・マイヤーズの「I Want To Thank You」からはじまる「テンポラリー・ラヴァー」は、リル・ジョンとのコラボレーション。彼の代名詞でもあるクランクをリメイクしたようなトラックに、相変わらずのガナり声で安定っぷりの(?)シャウトをカマす。サンプリング曲では、米LAのファンク・バンド=ヴルフペックの人気曲「Back Pocket」(2015年)を使った「レッツ・スモーク」や、サザンソウルのレジェンド=故ウィルソン・ピケットの「Get Me Back on Time」(1970年)がクレジットされたスムース&メロウ「トラブルド・ウォーターズ」も傑作。

 ジュブナイルとジューシー・J の2人をフィーチャーしたフロアライクな「エメラルド」から、アーバン・テイストなスロウ・ジャム「バーガンディー」に移行する2部構成のタイトルも充実。その「エメラルド」には、ヒップホップ・シーンで高い人気を誇るクラシック・ナンバー、ザ・ショー・ボーイズの「Drag Rap (Triggerman)」(1986年)がサンプリングされている。DY(フューチャー、ミーゴスなど)が手掛けたメロウ~アップ「BP / ノー・ジャッジメント」、ラッパーのセージ・ザ・ジェミニがフューチャーされた「トラスト・イシューズ / アクト・イン」、前作収録の「Pills & Automobiles」を手掛けたスマッシュ・デイヴィッドによるプロデュース曲「ナチュラル・ディザスター / オーラ」と、計4曲の2部構成曲が収録されている。

 本作の目玉といえば、リリース直前に発表したドレイクとのコラボ曲「ノー・ガイダンス」だろう。リアーナを巡り不仲説が囁かれていた両者によるタッグが話題を呼び、リード・シングルとしては2013年の「Loyal」(最高9位)以来、約6年ぶりの全米TOP10入りを果たした。決定打はないものの、「バカな元彼とは違う」と自分が特別な存在であることを主張する歌詞から、過去の確執をほのめかせていることは確か……と思われる。この曲には、Che Ecruというラッパーの「Before I Die」という曲が一部使われているが、正式にサンプリング・ソースとしてはクレジットされていない。

 ジャスティン・ビーバーが参加した「ドント・チェック・オン・ミー」は、ジャスティンの大ヒット曲「Love Yourself」(2015年)路線のアコースティック・メロウ。両者の声が重なるフレーズでは、一切の違和感を感じさせない見事なハーモニーを披露した。男性シンガーとのコラボレーションでは、カナダ出身のラッパー/シンガー=トリー・レーンズとの「ラーキン」や、新人ラッパーのガンナが参加した「ヒート」、同期にデビューしたメロウの帝王・トレイ・ソングスとの「セクシー」もある。ベテラン・シンガー、タンクとデュエットした「アーリー・2K」も絶品。タンクは、オープニング曲「インディゴ」にもコーラスで参加している。

 その他、哀愁系の旋律が光る「バック・トゥー・ラヴ」~「ジュース」といったダンスホール・トラックや、クリス・ブラウンの声質だからこそ映える、ミッドテンポのエレクトロ・ヒップホップ「レッド」、米LAの女性シンガー=リリカ・アンダーソンがソングライターとして参加したメロウ「チーター」など、静と動も均等に配置されていて、聴きやすい作品に仕上がっている。

 ストリーミング数を稼ぐためか、ちょっと詰め込んだ感も否めないが、一曲一曲の質は決して悪くない。何より、なかなか息が長く続かない男性R&Bシンガーの中で、最新の流行を取り込みつつ、いまだ“第一線”といえる活躍をみせていることは評価に値する。

 国内版は2019年7月31日に発売予定。


Text: 本家 一成


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