『7』リル・ナズ・X(EP Review)
『7』リル・ナズ・X(EP Review)

 最新の米ビルボード・ソング・チャート(2019年6月29日付)で、通算12週目のNo.1獲得を果たした、デビュー曲「Old Town Road」含むリル・ナズ・X 初のEP盤『7』。この曲がヒット真っ只中ということもあり、本作の注目度も必然的に高くなるワケだが、SNSや一部メディアからは「所詮、一発屋」などと揶揄されていて、“期待”とはちょっと違ったニュアンスでフォーカスされている。

 昨年12月にリリースされた同曲は、 ショート動画アプリ<Tik Tok>でバズったことがヒットのキッカケとなった。歌詞に「カウボーイ」が登場するこの曲を引用し、テンガロンハットを被った“カントリー・スタイル”に変身する動画を若者たちが続々と投稿。ストリーミングもそれに伴って急上昇し、チャートを駆け上がった。4月に、マイリー・サイラスの父親でカントリー歌手のビリー・レイ・サイラスをフィーチャーしたリミックスが発売されると、年代・ジャンルをクロスオーバーし大ブレイク。少し気の早い話だが、2019年の年間シングル・チャートを制すことは間違いなさそう。

 とまあ、どうしても「Old Town Road」が話題の中心になり、アルバムのプロモーションもそれ“頼り” になってしまうワケだが、そういった意向をあえて避け、カントリー・ラップのヒットには便乗しないと本人、宣言したというから驚きだ。ここまで「一発屋」と叩かれながら、その予想を覆したらそれはそれで凄い話。もちろん、これだけの大ヒットになったワケだから、この曲の功績だけでも大快挙といえるのだが……。

 その「Old Town Road」は、米オハイオ州のロック・バンド=ナイン・インチ・ネイルズの「34 Ghosts IV」(2008年)がサンプリングされている……というのは有名な話。ロック・ベースにした、カントリー調のラップ・ソング……という斬新な作りに、老若男女を巻き込んでヒットしたのも納得。この曲に続き、アルバムからの2ndシングル「Panini」にもロック・バンド=ニルヴァーナのヒット・ナンバー「In Bloom」(1991年)が使われている。『ネヴァーマインド』を聴いていた世代も、ニヤリとさせられるのでは?ビートの刻み方やボーカル・ワークが、どこか「トラヴィス・スコットっぽく聴こえる」との指摘もされていて、早速話題を呼んでいる。

 ブリンク182のドラマー、トラヴィス・バーカーが制作/プロデュースを担当した「F9mily (You & Me)」では、もはやヒップホップにはカテゴライズできない、パンク・ロックを炸裂させた。曲間でギター・ソロを唸らせ、時にシャウトをかましたワンリパブリックのライアン・テダー=プロデュースによる「Bring U Down」も、ジャンル区分としてはロック・ソングと言えるだろう。ドレイク、ケンドリック・ラマー等を手掛けるヒットメイカーのボーイ・ワンダが参加した「C7osure (You Like)」は、ニューウェーブの流れを汲んだダンス・パンクだし、カントリー頼りにならないどころか、ヒップホップの枠もハミ出しまくっている。

 本作の中でも、最もヒップホップらしい……といえば、スタンダードなトラップ・ソング「Kick It」か。低音域で囁くラップ&シングは、昨今の流行をしっかりおさえている。「お気に入りのアーティスト」と公言したカーディ・Bとのコラボ曲「Rodeo」も、彼女のフロウ効果もあり、ヒップホップ・アーティストらしい一面をみせてはいる……が、サウンドは「Old Town Road」に通ずるウエスタンな雰囲気で、他曲同様、決して枠にはとらわれていない。

 「Old Town Road」がビルボードのカントリー・チャートから外された際には、それについては言及せず「自分が作りたい音楽を作るだけ」と前向きなコメントを残した、リル・ナズ・X。イキりたい年頃の20歳の青年が、何とも生真面目というか、ラッパーらしからぬ発言というか。音もアーティストとしての立ち位置も、すべてを統合して“ヒップホップ”という枠におさめられないのが、彼の魅力であり、強みともいえる。プロデューサーのTake A Daytripが「理解力に優れたアーティスト」と絶賛したのも納得だ。

 「Old Town Road」のヒットも後押しし、本作『7』は発売翌週に発表される米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200” で上位にデビューするだろうと予想されている。同日にアルバムをリリースした強豪もいないため、No.1デビューも期待できそうだ。

Text: 本家 一成