『シー・イズ・カミング』マイリー・サイラス(EP Review) 〈Billboard JAPAN〉|AERA dot. (アエラドット)

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『シー・イズ・カミング』マイリー・サイラス(EP Review)

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『シー・イズ・カミング』マイリー・サイラス(EP Review)

『シー・イズ・カミング』マイリー・サイラス(EP Review)


 2019年5月31日にリリースされた、マイリー・サイラスのEP盤『シー・イズ・カミング』には、早速多くの反響が寄せられている。それもそのはず。前作『ヤンガー・ナウ』(2017年)は、父ビリー・レイ・サイラスを継承したようなカントリー・アルバムだったのに対し、本作では「ウィ・キャント・ストップ」や「レッキング・ボール」などの大ヒットを輩出した『バンガーズ』(2013年)のニュアンスに近い、最新のサウンドを取り戻しているからだ。賛否は分かれるが、やはり“売れ線”の方がマイリ―らしいといえば、らしい。

 本作のトータル・プロデュースを務めるのは、米ニューヨーク出身の音楽プロデューサー=アンドリュー・ワイアット。マイリーの他にも、レディー・ガガやブルーノ・マーズ、ベックなど、ジャンルをクロスオーバーした人気アーティストを多数手がける、売れっ子プロデューサーということは、言うまでもない。

 アルバム同日にシングル・カットされたオープニング・ナンバー「マザーズ・ドーター」は、そのアンドリューに加え、ドレイクの「ノンストップ」やトラヴィス・スコットの「シッコ・モード」といった大ヒット・ナンバーを手掛けるテイ・キースをプロデューサーに迎えた、ヒップホップの色濃い硬派なナンバー。 重低音響かせるトラップに、ロックの要素も含まれたスリリングな展開。時にシャウト、時にラップのような気だるさも表現した、マイリーの歌唱力にも注目していただきたい。自分自身を「厄介な奴」と罵ったり、「私の自由を邪魔しないで」と強く訴える歌詞と、 パンチの強いトラックが見事マッチした傑作。

 2曲目の「アンホーリー」には、ビヨンセやディプロ、カミラ・カベロなどの作品に携わる、米カリフォルニアの女性シンガーソングライター=イルジー・ジューバーと、故エクスエクスエクステンタシオンの作品で注目された、ジョン・カニンガムがソングライターとして参加している。「マザーズ・ドーター」ほどのインパクトはないが、オルタナティブR&B風のトラックと、リフレインするフックがやたら耳に残る、中毒性の高い一曲。この曲では、他人から指摘される意見について、マイリ―らしい解釈で一掃している。

 ウータン・クランの「C.R.E.A.M.」(1993年)をサンプリングした「D.R.E.A.M.(ドリーム)」には、メンバーのゴーストフェイス・キラーがフィーチャリング・ゲストに、同じくウータンの一員であるRZAがプロデューサーとしてクレジットされている。ナインティーズ世代には懐かしいフレーズも登場して、なかなか面白い作りではある……が、これがマイリ―の作品だと思うと、随分なイメチェンを図ったなぁ……と、ある意味感心してしまう。ドラッグについて結構あからさまに歌っちゃってるし、モノクロのジャケ写もそうだし。まるで、若手ラッパーの作品みたいな仕上がりだ。

 間髪入れずにはじまる、4曲目の「キャッティチュード」もまた、今までのマイリ―の作品では決して聴けなかったタイプの意欲作。ドラァグクイーンのル・ポールをフィーチャーしたこの曲では、高速ラップを披露したり、ミッシー・エリオットの大ヒット曲「ワーク・イット」(2002年)のフレーズを一部拝借したりと、この曲もまた、ヒップホップ・アプローチの強い作りになっている。サウンドは、2000年代中期に流行った、ティンバ~ファレルあたりを彷彿させる。

 「キャッティチュード」の歌詞の一部には、「ニッキーは好きだけど、聴くのはカーディ」というフレーズが登場するのだが、これについては、どちらもリスペクトしているし、批判しているワケではないと否定。一部では、過去に浮上したニッキー・ミナージュとの確執を取り上げているのでは?との予想もあがったが、そうではないらしい。自身のインスタグラムでも、「セレーナのことは好きだけど、聴くのはデミ」と、波紋を広げた歌詞をフォローするかのような投稿もされている。そのフレーズより、かなり卑猥な表現で綴る、その他のフレーズの方がエグいといえばエグいんだけど……。

 5曲目の「パーティー・アップ・ザ・ストリート」は、レイ・シュリマーのスウェイ・リーと、ケンドリック・ラマーやビヨンセなどトップスターを手掛けるヒットメイカー=マイク・ウィル・メイド・イットをフィーチャリング・ゲストに迎えた、夏っぽいダンス・トラック。スウェイ・リーのタイトルでは、ゲストとして参加したフレンチ・モンタナの「アンフォゲッタブル」(2017年)に近い感じで、レゲエやトロピカル・ハウスの要素も含まれている。マイク・ウィル・メイド・イットとは、前述の『バンガーズ』でもタッグを組んでいて、相性抜群。この路線は、今後も期待したい。

 ラストの「ザ・モスト」も、ダンスホールっぽいリズムが夏っぽさを彩る、アップ・チューン。ソングライターには、2018年11月にリリースした「ナッシング・ブレイクス・ライク・ア・ハート」での共演が話題となったマーク・ロンソンと、日本ではオースティン・マホーンの「ダーティ・ワーク」を手掛けたことで知られる、米マイアミの音楽プロダクション=ザ・モンスターズ・アンド・ザ・ストレンジャーズがクレジットされている。

 今年は、父ビリー・レイ・サイラスが、新人ラッパー=リル・ナズ・Xの「オールド・タウン・ロード」にフィーチャーされ、上半期最大のヒットを記録しているワケだが、娘マイリーも、シーンに乗じてヒップホップ・アルバムを完成させた……というのは偶然か?この転身が吉とでるか否かは読めないが、チャレンジしてみたことには十分価値がある。

 しかし、インスタグラムに投稿された、果物を貪りつくティーザー動画は衝撃だった。マイリーらしいパフォーマンスだが、じっくりは観ていられないかな……。


Text:本家一成


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