『ウィ・ニード・トゥ・トーク』テイラー・パークス(Album Review)
『ウィ・ニード・トゥ・トーク』テイラー・パークス(Album Review)

 米テキサス州出身、1993年生まれの25歳。2007年の大ヒット映画『ヘアスプレー』で脚光を浴び、以降女優としても第一線で活躍し続けるシンガーソングライター、テイラー・パークス。ここ最近はソングライターとしての活躍が目覚ましく、パニック!アット・ザ・ディスコの「ハイ・ホープス」やカリード&ノーマニの「ラブ・ライズ」、そして自身にとっても初の全米1位獲得となった、アリアナ・グランデの「thank u, next」など、続々とヒットを飛ばしている。

 中でも、ちょっとエグい女子会をフィーチャーしたビデオも話題の「7 rings」は、最新の米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で通算8週目のNo.1をキープし、2019年上半期最大のヒットに。テイラーは、この「7 rings」と「thank u, next」の両ビデオにも出演し、アリアナとの親交の深さをアピールした。両曲が収録されたアリアナの最新作『thank u, next』では、計6曲の制作に携わっている。

 本作『 ウィ・ニード・トゥ・トーク』 は、その『thank u, next』に通ずるポップとR&Bが融合したようなアルバム。先行シングルの「I Want You」も、構成が「7 rings」そのまんまだ。テイラーにとっては初のスタジオ・アルバムで、2017年に発売したミックステープ『テイラー・メイド』以来、2年ぶりの新作となる。全曲をテイラー自身がセルフ・プロデュースし、ゲストにはアルバムのカラーに合わせた個性的な3組を招いている。

 1人目は、米ブルックリン出身の男性R&Bシンガー=カシアス・クレイ。彼のレトロ感あるボーカルが活かされた「Disconnected」は、古いソウル・ミュージックを彷彿させる、ちょっと異色のナンバー。次曲「Read Your Mind」には、アンダーソン・パークのツアーに前座として参加し知名度を高めた、米LAを拠点とするラッパー/シンガーのダックワースがクレジットされている。この曲は、アコースティック・ギターのイントロからはじまる哀愁漂うメロウ・チューンで、ダックワースのラップ・パートも、しんみり系のいい味を出している。

 もう1人のゲスト=ジョーイ・バッドアスも、米ブルックリン出身のラッパー。「Devastated」やスクールボーイQをフィーチャーした「Rockabye Baby」などのヒットをもつ、ラップ界ではそこそこ名の知れた実力派で、これまでにリリースした2枚のアルバムが、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”でいずれも最高5位を記録している。テイラーとは初のコラボレーションとなった「Rebound」は、トラップに近いヒップホップ・ソングで、ジョーイ・バッドアスが、がっつりラップしていないのが、逆にいい。

 本作には、計4曲のインタールードがあるが、この4曲がまたすばらしい。特に、ダンスホールっぽい雰囲気の「What Can I Say」、巧みなラップを披露する「Happy Birthday」、レゲエ調の「What Do You Know」の3曲は短いながらも完成度高く、“繋ぎ”ではもったいないくらいのクオリティ。「Dirt」のようなキュートなポップ・ソングもそれはそれで良いが、「7 rings」の亜流と言われようと、ここは「Happy Birthday」や「What Do You Know」 のようなラップを絡めた曲を中心に、もっと“攻め”に徹してもよかった気がする。

 アリアナの『thank u, next』に提供した中では「make up」の雰囲気に近い、「Homiesexual」や「Slow Dancing」といったチルアウト・ソングもあれば、スピード感のあるエレクトロ・ポップ「We Need To Talk」、歌唱力をアプローチしたエモーショナルなバラード曲「Easy」もあり、ポップ・アルバムならではのバラエティ感覚がたのしめる。ショートメッセージ(SMS)の送信音を起用した「Afraid to Fall」も、テイラーらしいキュートなナンバーだ。

 ボーカル自体は、アリアナのような透明感があるわけでもなく、テイラーが数曲を手掛けるデミ・ロヴァートのような破壊力もないが、彼女の歌はじつに聴き心地が良い。音の方も、じっくり聴くタイプのアルバムというよりは、バックサウンド的な役割を果たしてくれそうな、ライト感覚の作品。ストリーミングが主流になってからは、サラっと聞き流せるアルバムの方がウケも良く、そういった時代の流れもしっかり読み取っている。

 テイラーは、BTS (防弾少年団)やBoA、ガールズグループのf(x)などK-POPアーティストも手掛けていて、日本はじめアジアでの知名度もそこそこ。サウンド的にみても、彼らやアリアナの楽曲に通ずるポップさもあり、我々の耳にもすんなり受け入れられる仕上がりになっている。日本でも、もっとブレイクしてよさそうな気がするんだけど……。

Text:本家一成